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シーズン1
第36話 後編
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キケンなバディ! 第一期
第六章 探偵の日常
5
場所は三宮都市部に位置する<三國プロダクション>。
「………」
<三國プロ>の事務所前に、神妙な面持ちで立っている者が一人在た。
「ようこそ、よく決断してくれたね、歓迎するよ」
夏女は苦渋の決断の末、代役の件を引き受けた。
「そんな恰好で来なくていいのに…」
その日、夏女はビジネススーツで訪れて、秘書の裕美はつい笑みをこぼすのであった。そして…
夏女は三國たちについて行き、一つの空き部屋に入室した。
「…今からここで適正テストを行う」
「適正テスト?」
「君に適しているものを見ようと思ってね」
「はあ…!」
夏女は既に座っていた人物の存在に気づき、自然と笑みを浮かべた。
「夏女、久しぶりね~」
夏女の眼前には、プロの歌手を目指す眞子の姿があった。
「どうしてこんな所に?」
「私は、<三國プロ>に所属している人間よ」
「…彼女には特別審査員をお願いした、ぼちぼち始めようか」
夏女は親友と久々に会って少し緊張がほぐれたが、一瞬でそれは掻き消されるのであった。
「では、歌から行ってみようか」
「歌うんですか?何を歌えば?」
「自分の好きな歌を歌えばいいよ」
夏女はまず、歌唱力の適性を調べられるわけだが…
「…しまった」
その時、眞子はあることを思い出して、つい心の声を漏らした。
夏女は審査員の前で中森明菜の歌を歌ったが、それは衝撃的なことであった。審査員側は防衛本能が働き、咄嗟に自身の耳を押さえた。
夏女は必死に歌うが、音痴とかいう問題ではなく、単なる騒音に過ぎなかった。
「…ありがとう、独特な元気がある歌い方だね…」
三國は精一杯、夏女にお世辞を述べた。次はダンスの適性を調べるわけだが…
「…次に進もう、さあ、入って…」
三國がそう言うと、部屋の扉が開き、現れたのは一人の十代後半の女性だった。
「彼女はうちの劇団の新人よ、今から踊るから、それを見本に後から踊ってみて」
裕美が説明して、夏女はまず、新人劇団員のダンスを見ることにした。
新人と言っても、しっかり舞台に立っており、見応えがある舞いを夏女たちの前で披露した。そして…
「…では、できる範囲で良いので、踊ってもらえる?」
裕美がそう言うと、素人同然の夏女が踊りだした。その結果は…
「おお…」
三國たちは夏女のダンスを見て、自然と口が開いた。ただ、歌の時とは反応が違っていた。夏女は見本通りに踊り切り、ほぼ満点に近かった。
「普段、踊ったりするの?」
「いいえ、初めて踊りました」
夏女は裕美の質問に対して、嘘偽りない答えを返した。
最後に芝居の適性を見ることになったが…
「…ある青年に扮して、用意した台本に書かれた台詞を言ってほしい」
夏女は、台本に沿って独りの青年を演じようとした。その結果…
「…ふむふむ」
審査員たちは小刻みに頷いて、独自の評価点を用紙に書き込んだ。
棒読みに近いが、滑舌が良く、落ち着いた口調が好印象であった。
審査をまとめると歌は難あり。ダンスは問題なし。芝居はまずまずといった感じであった。
「これでテストは終わりだ、お疲れ様~」
「え?帰っていいんですか?」
「…君の適性に合わせて、稽古を始めようと思う、また連絡するよ」
夏女はようやく、慣れない空間から解放された。
「…夏女、またね~」
夏女は眞子に見送られて、事務所の受付ロビーで別れた。そして、彼女は何も考えず、真部アパートに帰って行った。
「…疲れた~」
「テスト受けたんだってな、どうだ?手応えは…」
「さあね…もう何も覚えてない、やっぱり、引き受けなきゃよかった」
「まあ、そう言うなよ、また連絡あるんだろ?」
「うん…」
その時の夏女は憂鬱な気分で、相当疲れたのか、そのままリビングのソファーで眠り込んだ。
「ふ…」
真部は彼女を起こそうとせず、そっと布団を掛けてやった。
かくして、夏女の舞台デビューへの道が切り開かれるのであった。
第六章 探偵の日常
5
場所は三宮都市部に位置する<三國プロダクション>。
「………」
<三國プロ>の事務所前に、神妙な面持ちで立っている者が一人在た。
「ようこそ、よく決断してくれたね、歓迎するよ」
夏女は苦渋の決断の末、代役の件を引き受けた。
「そんな恰好で来なくていいのに…」
その日、夏女はビジネススーツで訪れて、秘書の裕美はつい笑みをこぼすのであった。そして…
夏女は三國たちについて行き、一つの空き部屋に入室した。
「…今からここで適正テストを行う」
「適正テスト?」
「君に適しているものを見ようと思ってね」
「はあ…!」
夏女は既に座っていた人物の存在に気づき、自然と笑みを浮かべた。
「夏女、久しぶりね~」
夏女の眼前には、プロの歌手を目指す眞子の姿があった。
「どうしてこんな所に?」
「私は、<三國プロ>に所属している人間よ」
「…彼女には特別審査員をお願いした、ぼちぼち始めようか」
夏女は親友と久々に会って少し緊張がほぐれたが、一瞬でそれは掻き消されるのであった。
「では、歌から行ってみようか」
「歌うんですか?何を歌えば?」
「自分の好きな歌を歌えばいいよ」
夏女はまず、歌唱力の適性を調べられるわけだが…
「…しまった」
その時、眞子はあることを思い出して、つい心の声を漏らした。
夏女は審査員の前で中森明菜の歌を歌ったが、それは衝撃的なことであった。審査員側は防衛本能が働き、咄嗟に自身の耳を押さえた。
夏女は必死に歌うが、音痴とかいう問題ではなく、単なる騒音に過ぎなかった。
「…ありがとう、独特な元気がある歌い方だね…」
三國は精一杯、夏女にお世辞を述べた。次はダンスの適性を調べるわけだが…
「…次に進もう、さあ、入って…」
三國がそう言うと、部屋の扉が開き、現れたのは一人の十代後半の女性だった。
「彼女はうちの劇団の新人よ、今から踊るから、それを見本に後から踊ってみて」
裕美が説明して、夏女はまず、新人劇団員のダンスを見ることにした。
新人と言っても、しっかり舞台に立っており、見応えがある舞いを夏女たちの前で披露した。そして…
「…では、できる範囲で良いので、踊ってもらえる?」
裕美がそう言うと、素人同然の夏女が踊りだした。その結果は…
「おお…」
三國たちは夏女のダンスを見て、自然と口が開いた。ただ、歌の時とは反応が違っていた。夏女は見本通りに踊り切り、ほぼ満点に近かった。
「普段、踊ったりするの?」
「いいえ、初めて踊りました」
夏女は裕美の質問に対して、嘘偽りない答えを返した。
最後に芝居の適性を見ることになったが…
「…ある青年に扮して、用意した台本に書かれた台詞を言ってほしい」
夏女は、台本に沿って独りの青年を演じようとした。その結果…
「…ふむふむ」
審査員たちは小刻みに頷いて、独自の評価点を用紙に書き込んだ。
棒読みに近いが、滑舌が良く、落ち着いた口調が好印象であった。
審査をまとめると歌は難あり。ダンスは問題なし。芝居はまずまずといった感じであった。
「これでテストは終わりだ、お疲れ様~」
「え?帰っていいんですか?」
「…君の適性に合わせて、稽古を始めようと思う、また連絡するよ」
夏女はようやく、慣れない空間から解放された。
「…夏女、またね~」
夏女は眞子に見送られて、事務所の受付ロビーで別れた。そして、彼女は何も考えず、真部アパートに帰って行った。
「…疲れた~」
「テスト受けたんだってな、どうだ?手応えは…」
「さあね…もう何も覚えてない、やっぱり、引き受けなきゃよかった」
「まあ、そう言うなよ、また連絡あるんだろ?」
「うん…」
その時の夏女は憂鬱な気分で、相当疲れたのか、そのままリビングのソファーで眠り込んだ。
「ふ…」
真部は彼女を起こそうとせず、そっと布団を掛けてやった。
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