キケンなバディ！

シーズン１

第３４話 後編

キケンなバディ！　第一期
第六章　探偵の日常

　　　３

　ある日、馬場が当時住んでいたアパートに帰ると、彼の父親は変わり果てた姿になっていった。
　馬場の父親は首吊り自殺をしており、馬場は一時、錯乱状態に陥るわけだが、落ち着きを取り戻した後、何故か救急車の要請や警察への通報をしなかった。
　
　馬場は冷たくなっていく父親を放置して、そのまま行方をくらました。
　気づけば、馬場は地元の港、フェリー乗り場に居た。彼は他の土地に移ろうとフェリーに乗り込んだ。運賃を支払う際、自らかすめ取った財布を利用した。行き先は神戸港であった。
　
　馬場は家族、故郷、学歴など大切なものを失い、新たな人生を歩むことを決意した。彼は地道に経験を積んで堅気の仕事に就くことを考えず、別の道を選んだ。馬場は血生臭い闇の世界と繋がり、ひっそりと一般社会に溶け込んでいった。
　
　それから時が流れ、馬場は改心して、多くの人を持て成すために＜コンヴァージョン＞を開店するのであった。そして…

　馬場の経歴に触れたことで、ようやく本題に入れることになる。彼は真部たちの前で自身の暗い過去にまつわる話を始めた。

「…母親とよく似てて、心臓が止まりそうでした、十年くらい前のことです、当時、可奈かのじょは中学生でした」
「母親や娘と会ったきっかけは？」
「…ある日、街中で彼女の母親を目撃したんですが…信号が赤の時に横断歩道を渡ろうとして…」
「…助けたのか？」
「ええ…もう少しで車に轢かれるところでした、間一髪で助けることができたんですが…」


　一九七五年の夏、馬場マスターはある問題を抱えた家族の存在を知るのであった。

「ふー…あんた怪我はないか？」
「な…何故…助けたんですか？」
　馬場は可奈の母親を救出したが、返ってきた答えは礼事ではなく、苦情もんくだった。どうやら、彼女の信号無視は、単なる不注意ではないようであった。
　馬場は可奈の母親から事情を聴こうと、近くの喫茶店を利用した。

「…好きなものを頼め、奢ってやるよ」
「いえ…そんな…どうして、私に構ってくれるんですか？」
「…さあな、俺は親切な方じゃないんだが…トイレの鏡で見てきたらいい、助けたくなる顔ツラだ」
「え？」
　可奈の母親の顔を見ると、生気がなく、瞳めは虚ろで、まるで幽霊のようであった。

「これも何かの縁だ、良かったら教えてほしい…死ぬ気だったのか？」
　可奈の母親は馬場の質問に対して黙り込むが、勇気を出して、重い口を開こうとした。
　可奈の母親の名は和恵かずえ（三五）。
　和恵はシングルマザーで、生活のために朝から晩まで休みなく働いていた。離婚理由は夫の借金で、お互い一生会うことはなかった。
　和恵は運悪く元夫の連帯保証人となり、必死に借金を返して、自身の子供を育てているのであった。

「…もう限界なんです…生きることが嫌になってきて…」
　和恵は涙ながらに苦労話を語り、肉体的、精神的に疲労困憊していることが窺えた。
「それでわざと交通事故を起こそうとしたのか…余計なことしちまったな」
「いえ…冷静に考えるとお礼を言うべきでした…すみません」
　和恵が馬場に深く頭を下げた後、注文したメニューが続々とテーブルの上に並べられた。

「とにかく、今は食え、食った後、改めて話したいことがある」
　和恵は素直に馬場の指示に従って、眼前のご馳走を口にした。よほど空腹だったのか、彼女は迫力のある食事シーンを見せた。
　
「ご馳走様でした、デザートまで奢っていただいて…」
「それで満足か？さっき死ななくて正解だっただろ？」
「はい、ありがとうございました」
　和恵は馬場の奢りで腹を満たして、水を得た魚となった。よく見れば、彼女は色白のスレンダー美人で、馬場も男であり、恋心が芽生えそうになっていた。

「…ところで、さっきの話の続きだ…色々と悩みがあるようだが…俺で良ければ、いつでも相談に乗る」
「あの…あなたって何者なんですか？」
「ここでは話せない、知りたければ、うちの事務所に来い」
　馬場はそう言って、和恵に手作りの名刺を渡した。そして、彼は勘定を済まし後に和恵と別れた。