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シーズン1
第30話 前編
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キケンなバディ! 第一期
第五章 ―1985冬の陣―
5
一九八五年(昭和六〇年)二月に入った頃、神戸で怪奇的な事件が一つ起こった。
雪がちらつく厳しい冬の朝、場所は神戸港。港湾作業員はあるものを発見、すぐさま警察に通報した。
海上には、キンキンに冷えた若い女性の死体が浮いていた。
女性死体の身元を確認すると、捜索願の対象者と一致、未成年だった。このような事件は連続して起こり、謎の溺死体は全員、未成年女性であった。
突如、実娘が行方不明となり、両親が警察に捜索を頼むが、無事に帰ってきたケースは極めて少ない。発見したとしても、変わり果てた姿で家族と対面するのが現実であった。
兵庫県警は自殺として、事件を片付けようとしたが、現場担当、所轄の刑事が納得しなかった。
<神戸港警察署>の担当刑事は他殺と睨み、地道に捜査を始めていくわけだが、進展するような手掛かりは一切なく、頭を抱えていた。
こうして、何も解決しないまま、神戸港は溺死体の墓場と化していくのであった。そして…
「…また、上がったか、これで何体目だ?」
斎藤は呆れた顔で女性の溺死体が写った写真を見ていた。彼の周りには、武中や夏美など部下たちが立っており、メモ帳片手に捜査報告をするわけだが、どうも覇気がなかった。
「…毎度のことですが、有力な情報はありません…ただ、我々が睨んだ通り、自殺の線は薄いですね」
武中は他殺の証明として、数枚の写真を斎藤の机の上に並べた。
「…今回もそうか、体の至る場所に痣や打撲痕が…これらが致命傷になったかは分からないが…」
「…何者かに拉致された可能性が高いですが…捜査線上に浮上する犯罪グループは今のところはいません」
夏美が武中に続いて、現状報告をした。
「被害者がよく立ち寄る場所には行ったのか?」
「友人、知人に聞き込みをしたんですが…」
武中は聞き込みで得た情報を斎藤たちの前で述べるが、一つの社会問題が浮き彫りとなった。
近年、未成年者の非行が問題視されて、悩みの種となっていた。
男子学生の場合、飲酒、喫煙、暴言、暴力など。女子学生の場合、飲酒や喫煙の他、同級生、あるいは教師との淫行、妊娠、深夜営業店の来店などで退学処分となっている。
少年課は、深夜営業店の来店防止のために、取り締まりの強化を行ったが、鼬ごっこ状態であった。
謎の溺死事件の被害者の過半数は、以上のような不良であった。
また、家を出たっきり音信不通で、そんな娘に愛想が尽きて、捜索願を提出しない家族も少なくなかった。
「現在、未成年者をカモにした違法店をマークしているところです」
「徹底的に調べろ…上が何か言って来たら俺が責任を取るから……」
斎藤は部下を信じて、吉報を待つ一方で、彼の頭の片隅で一人の人物の顔が浮かんだ。斎藤にはいざという時、切り札がある。
「ぶあ~くしゅん!!!!!!!!」
噂をすれば何とやらで、派手にくしゃみをする男が一人在た。
「う~さぶ~」
真部は古びた石油ストーブを点けて、独り暖を取っていた。その日は厳しい寒さであった。
俺には苦手なモノがいくつかある。一つは凍えそうになるほどの異常な寒さ、夏が天国のように思えてくる。そして、他の苦手なものは…
「ガチャ…」
その時、事務所の玄関の扉が開き、外の冷気が室内に入り込もうとしていた。喜んでいるのは、ペットの海豹だけであった。
「早く閉めろ!こんな時に外に出るな……!?」
真部は愛犬との散歩から帰ってきた夏女に声を掛けたつもりであったが、そこには知らない若い女性が一緒に立っていた。
「…さあ、遠慮せずに入って~」
「おい、その娘は何だ?」
「ウチの前をウロウロしていたから気になってね、依頼人になるかもよ」
真部は溜息をつき、仕方なく夏女と共に来客応対をした。
「…まだ名前聞いてなかったね、教えてもらえる?」
「……新井愛弥だけど…」
夏女が仕切って愛弥の話を聞こうとしていたが、彼女は緊張しているのか、ずっと表情は硬かった。
「何か頼みたいことがあったから…訪ねたんだよね?」
「うん、まあ…」
真部は珍しく口数が少なく、愛弥の態度が気に入らないせいか、足をよく組み替えたり、机上に指を叩きつけたりしていた。そして…
「…インスタントで悪いな」
アシスタント担当の真部は、石油ストーブに置かれた薬缶を取り出して、愛弥の分までコーヒーを淹れた。
「不味いかもしれないけど、体が温まるよ~」
夏女たちはコーヒーを勧めるが、愛弥は一切、カップに口をつけようとしなかった。
「…何処でウチのことを聞きつけたのか知らんが、うちも暇じゃないんだ、悪いが帰ってもらえるか?」
「達洋…!」
夏女が優しく応対する中、俺は我慢できず、つい口が滑った。
俺の眼前の娘は派手な化粧をしている未成年、礼儀知らず、不愛想、はっきり言って苦手なタイプだ。が…
「………!」
その時、愛弥の瞳から大粒の涙がこぼれた。それで真部の冷たい表情が消えそうになった。
「……と…友達が在なくなったの……お願い…捜して…!」
愛弥は勇気を出して、依頼内容を真部たちに発した。その気持ちは伝わり、ようやく重い空気が消えていった。
「愛弥ちゃんの友達は何時からいなくなったの?」
「三日前からよ…警察に捜してもらおうと思ったけど…ちゃんと相手をしてくれなくて…」
「どうも不可解だ…友達の家族が捜索願を出すのが普通じゃないのか?」
愛弥は真部の疑問に対して、なかなか言葉が出なかった。
「…友達も私も家族と長いこと会ってないわ、家出して二人で暮らしてるから…」
「やはりな…服装は地味だが、その厚化粧…夜の商売をしているな…かと言って、俺の知っている店では働いてなさそうだ」
「大きな店は雇ってくれないし…接客態度が悪いとかで、すぐクビになっちゃう…家賃も滞納中で…」
「…学校はどうしたの?高校生くらいの年齢でしょ?」
愛弥たちには色々と事情があり、できることなら記憶から消したいものであった。
第五章 ―1985冬の陣―
5
一九八五年(昭和六〇年)二月に入った頃、神戸で怪奇的な事件が一つ起こった。
雪がちらつく厳しい冬の朝、場所は神戸港。港湾作業員はあるものを発見、すぐさま警察に通報した。
海上には、キンキンに冷えた若い女性の死体が浮いていた。
女性死体の身元を確認すると、捜索願の対象者と一致、未成年だった。このような事件は連続して起こり、謎の溺死体は全員、未成年女性であった。
突如、実娘が行方不明となり、両親が警察に捜索を頼むが、無事に帰ってきたケースは極めて少ない。発見したとしても、変わり果てた姿で家族と対面するのが現実であった。
兵庫県警は自殺として、事件を片付けようとしたが、現場担当、所轄の刑事が納得しなかった。
<神戸港警察署>の担当刑事は他殺と睨み、地道に捜査を始めていくわけだが、進展するような手掛かりは一切なく、頭を抱えていた。
こうして、何も解決しないまま、神戸港は溺死体の墓場と化していくのであった。そして…
「…また、上がったか、これで何体目だ?」
斎藤は呆れた顔で女性の溺死体が写った写真を見ていた。彼の周りには、武中や夏美など部下たちが立っており、メモ帳片手に捜査報告をするわけだが、どうも覇気がなかった。
「…毎度のことですが、有力な情報はありません…ただ、我々が睨んだ通り、自殺の線は薄いですね」
武中は他殺の証明として、数枚の写真を斎藤の机の上に並べた。
「…今回もそうか、体の至る場所に痣や打撲痕が…これらが致命傷になったかは分からないが…」
「…何者かに拉致された可能性が高いですが…捜査線上に浮上する犯罪グループは今のところはいません」
夏美が武中に続いて、現状報告をした。
「被害者がよく立ち寄る場所には行ったのか?」
「友人、知人に聞き込みをしたんですが…」
武中は聞き込みで得た情報を斎藤たちの前で述べるが、一つの社会問題が浮き彫りとなった。
近年、未成年者の非行が問題視されて、悩みの種となっていた。
男子学生の場合、飲酒、喫煙、暴言、暴力など。女子学生の場合、飲酒や喫煙の他、同級生、あるいは教師との淫行、妊娠、深夜営業店の来店などで退学処分となっている。
少年課は、深夜営業店の来店防止のために、取り締まりの強化を行ったが、鼬ごっこ状態であった。
謎の溺死事件の被害者の過半数は、以上のような不良であった。
また、家を出たっきり音信不通で、そんな娘に愛想が尽きて、捜索願を提出しない家族も少なくなかった。
「現在、未成年者をカモにした違法店をマークしているところです」
「徹底的に調べろ…上が何か言って来たら俺が責任を取るから……」
斎藤は部下を信じて、吉報を待つ一方で、彼の頭の片隅で一人の人物の顔が浮かんだ。斎藤にはいざという時、切り札がある。
「ぶあ~くしゅん!!!!!!!!」
噂をすれば何とやらで、派手にくしゃみをする男が一人在た。
「う~さぶ~」
真部は古びた石油ストーブを点けて、独り暖を取っていた。その日は厳しい寒さであった。
俺には苦手なモノがいくつかある。一つは凍えそうになるほどの異常な寒さ、夏が天国のように思えてくる。そして、他の苦手なものは…
「ガチャ…」
その時、事務所の玄関の扉が開き、外の冷気が室内に入り込もうとしていた。喜んでいるのは、ペットの海豹だけであった。
「早く閉めろ!こんな時に外に出るな……!?」
真部は愛犬との散歩から帰ってきた夏女に声を掛けたつもりであったが、そこには知らない若い女性が一緒に立っていた。
「…さあ、遠慮せずに入って~」
「おい、その娘は何だ?」
「ウチの前をウロウロしていたから気になってね、依頼人になるかもよ」
真部は溜息をつき、仕方なく夏女と共に来客応対をした。
「…まだ名前聞いてなかったね、教えてもらえる?」
「……新井愛弥だけど…」
夏女が仕切って愛弥の話を聞こうとしていたが、彼女は緊張しているのか、ずっと表情は硬かった。
「何か頼みたいことがあったから…訪ねたんだよね?」
「うん、まあ…」
真部は珍しく口数が少なく、愛弥の態度が気に入らないせいか、足をよく組み替えたり、机上に指を叩きつけたりしていた。そして…
「…インスタントで悪いな」
アシスタント担当の真部は、石油ストーブに置かれた薬缶を取り出して、愛弥の分までコーヒーを淹れた。
「不味いかもしれないけど、体が温まるよ~」
夏女たちはコーヒーを勧めるが、愛弥は一切、カップに口をつけようとしなかった。
「…何処でウチのことを聞きつけたのか知らんが、うちも暇じゃないんだ、悪いが帰ってもらえるか?」
「達洋…!」
夏女が優しく応対する中、俺は我慢できず、つい口が滑った。
俺の眼前の娘は派手な化粧をしている未成年、礼儀知らず、不愛想、はっきり言って苦手なタイプだ。が…
「………!」
その時、愛弥の瞳から大粒の涙がこぼれた。それで真部の冷たい表情が消えそうになった。
「……と…友達が在なくなったの……お願い…捜して…!」
愛弥は勇気を出して、依頼内容を真部たちに発した。その気持ちは伝わり、ようやく重い空気が消えていった。
「愛弥ちゃんの友達は何時からいなくなったの?」
「三日前からよ…警察に捜してもらおうと思ったけど…ちゃんと相手をしてくれなくて…」
「どうも不可解だ…友達の家族が捜索願を出すのが普通じゃないのか?」
愛弥は真部の疑問に対して、なかなか言葉が出なかった。
「…友達も私も家族と長いこと会ってないわ、家出して二人で暮らしてるから…」
「やはりな…服装は地味だが、その厚化粧…夜の商売をしているな…かと言って、俺の知っている店では働いてなさそうだ」
「大きな店は雇ってくれないし…接客態度が悪いとかで、すぐクビになっちゃう…家賃も滞納中で…」
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