40 / 148
シーズン1
第19話 後編
しおりを挟む
キケンなバディ! 第一期
第三章 最強コンビ誕生
7
「…でこれからどうするの?」
「また外出よ、ご飯食べに行きましょう」
眞子は突然、夏女の前で衣服を脱ぎ、クローゼットから新しい服を取りだした。彼女が着替えたのはワンピースタイプの煌びやかなドレスで、夏女は大きく変貌を遂げた親友に衝撃を覚えていた。
「普段、ツナギやカジュアルな服しか着ないからね…玲子や他の友達には見せたことがないわ…どう似合う?」
「似合ってるけど…何でそんな恰好を?」
「ついて来れば分かるわ、行きましょう~」
夏女は眞子に黙ってついて行った。目的地は眞子の自宅から歩いて五分程度、一軒のスナックであった。
「眞子ちゃん、その方は?」
「友達です、連れてきちゃいました…ここで食事してもらおうと思って…」
「晩御飯まだなのね、大したもの用意できないけど…」
夏女はスナックママに空いた席まで案内されて、フードメニューを注文した。
眞子はというと、早速、仕事に取り掛かり、常連客は彼女をずっと待っていたようであった。
眞子の接客応対は完璧であった。夏女はまた親友の意外な一面を目撃するのであった。
「あの娘、よく働くな~」
「…彼女は働き者だよ、突然やってきて、雇ってほしいって言いだしてね」
スナックママは夏女が注文したおでんセットを持ってきて、眞子がスナックで働く事情を語った。
眞子は給料はいらないと言って、その代わりに、客前で思い存分歌わせてほしいと、スナックママに頼んだそうだ。
当時、カラオケは喫茶店や旅館の宴会場、スナックなど限られた施設にしか置いてなかった。〝カラオケボックス〟という事業形態が普及するのは、もう少し先のことで、素人がプロの歌を歌えることは夢のようであった。
「彼女、路上でも歌を歌っているけど…とにかく上手くて」
「そうだね、お世辞抜きで驚いたよ、客や店員も大喜びさ、ちゃんとデュエットもしてくれるしね…店内が盛り上がって大助かりだよ」
眞子は路上ライブの時に全力出し切ったと思われたが、全く歌唱力が劣っていなかった。彼女は週三日三時間ほど、スナックで働いていた。勿論、佐渡や家族には内緒である。
「眞子ちゃん~わしとデュエットしておくれ~」
酔っぱらっている年配の男性客は眞子に甘えて、ラブソングを一緒に歌おうとした。彼女は何処でも人気者であった。
「…いつまでぼけっと座ってるのよ、こっちにいらっしゃいよ~」
眞子は食事を済ませた夏女の手を引っ張って、仲間に入れようとした。
「君は眞子ちゃんの友達かい?」
「ええ、夏女は私立探偵をやっているのよ」
「珍しい仕事をしているね~それにしても美人だね~綺麗なお手々だ」
「気やすく触っちゃだめ、少しでも触れたら罰金よ」
「おっと…それは気をつけないとな~ははは」
眞子は常連客たちに軽く冗談を言って、夏女の緊張をほぐした。
「せっかくだから、あなたも何か歌ったら?」
「え?私、人前で歌ったことないけど…」
「歌番組観てるなら、好きな曲あるでしょう?ほら!」
夏女は強引にマイクを持たされて、眞子たちの前で歌唱ショーを披露することとなった。
「…では、歌わせていただきます」「パチパチパチ」
夏女は強張った表情のまま、中森明菜の『十戒1984』を歌おうとした。その結果…
夏女の歌声は、騒音以上の威力があった。聴き手の方は、思わず両手で耳を守り、とてつもない苦痛を味わうこととなった。明らかに音程が外れており、夏女は音痴だということが判明した。そして…
途中、予期せぬことが起きたが、気づけば夜の宴は幕を閉じようとした。夏女は終電を逃してしまい、仕方なく眞子の車で家まで送ってもらうこととなった。
「今夜は楽しかったわ。ありがとう」
「こちらこそ、また会いましょう~じゃあね」
夏女は眞子に送ってもらい、自宅に入ろうとしたが…
アパート一階は真っ暗だったため。夏女は灯りを点けたが、そこに腕を組んで不機嫌そうに立っている真部の姿があった。
「…ちょっとびっくりするじゃないの!!」
「連絡なしで帰ってきて、第一声がそれか?」
「…あっごめんなさい、もう深夜ね…」
「お前を信用して発信器は止めようと思ったが、まだ必要みたいだな」
「以後、気をつけるわ…」
「罰として給料を減額する、金遣いも荒いようだしな…何か質問は?」
「…ないわ」
「夜遊びも程々にな…俺みたいに悪い友達は作るなよ」
夏女は真部にこっぴどく叱られて、落ち込んだ状態で自分の部屋に向かった。
「ふー…」
真部は夏女の姿が見えなくなると、頭を掻いて、リビングルームのソファーに座り込み、独り落ち着こうとした。
夏女は自室に入室した途端、ベッドに沈んでいき、嫌なことを忘れようと眠りについたが…
その時、眞子が悪魔の囁きに耳を傾けるなど、夢にも思わなかった。
第三章 最強コンビ誕生
7
「…でこれからどうするの?」
「また外出よ、ご飯食べに行きましょう」
眞子は突然、夏女の前で衣服を脱ぎ、クローゼットから新しい服を取りだした。彼女が着替えたのはワンピースタイプの煌びやかなドレスで、夏女は大きく変貌を遂げた親友に衝撃を覚えていた。
「普段、ツナギやカジュアルな服しか着ないからね…玲子や他の友達には見せたことがないわ…どう似合う?」
「似合ってるけど…何でそんな恰好を?」
「ついて来れば分かるわ、行きましょう~」
夏女は眞子に黙ってついて行った。目的地は眞子の自宅から歩いて五分程度、一軒のスナックであった。
「眞子ちゃん、その方は?」
「友達です、連れてきちゃいました…ここで食事してもらおうと思って…」
「晩御飯まだなのね、大したもの用意できないけど…」
夏女はスナックママに空いた席まで案内されて、フードメニューを注文した。
眞子はというと、早速、仕事に取り掛かり、常連客は彼女をずっと待っていたようであった。
眞子の接客応対は完璧であった。夏女はまた親友の意外な一面を目撃するのであった。
「あの娘、よく働くな~」
「…彼女は働き者だよ、突然やってきて、雇ってほしいって言いだしてね」
スナックママは夏女が注文したおでんセットを持ってきて、眞子がスナックで働く事情を語った。
眞子は給料はいらないと言って、その代わりに、客前で思い存分歌わせてほしいと、スナックママに頼んだそうだ。
当時、カラオケは喫茶店や旅館の宴会場、スナックなど限られた施設にしか置いてなかった。〝カラオケボックス〟という事業形態が普及するのは、もう少し先のことで、素人がプロの歌を歌えることは夢のようであった。
「彼女、路上でも歌を歌っているけど…とにかく上手くて」
「そうだね、お世辞抜きで驚いたよ、客や店員も大喜びさ、ちゃんとデュエットもしてくれるしね…店内が盛り上がって大助かりだよ」
眞子は路上ライブの時に全力出し切ったと思われたが、全く歌唱力が劣っていなかった。彼女は週三日三時間ほど、スナックで働いていた。勿論、佐渡や家族には内緒である。
「眞子ちゃん~わしとデュエットしておくれ~」
酔っぱらっている年配の男性客は眞子に甘えて、ラブソングを一緒に歌おうとした。彼女は何処でも人気者であった。
「…いつまでぼけっと座ってるのよ、こっちにいらっしゃいよ~」
眞子は食事を済ませた夏女の手を引っ張って、仲間に入れようとした。
「君は眞子ちゃんの友達かい?」
「ええ、夏女は私立探偵をやっているのよ」
「珍しい仕事をしているね~それにしても美人だね~綺麗なお手々だ」
「気やすく触っちゃだめ、少しでも触れたら罰金よ」
「おっと…それは気をつけないとな~ははは」
眞子は常連客たちに軽く冗談を言って、夏女の緊張をほぐした。
「せっかくだから、あなたも何か歌ったら?」
「え?私、人前で歌ったことないけど…」
「歌番組観てるなら、好きな曲あるでしょう?ほら!」
夏女は強引にマイクを持たされて、眞子たちの前で歌唱ショーを披露することとなった。
「…では、歌わせていただきます」「パチパチパチ」
夏女は強張った表情のまま、中森明菜の『十戒1984』を歌おうとした。その結果…
夏女の歌声は、騒音以上の威力があった。聴き手の方は、思わず両手で耳を守り、とてつもない苦痛を味わうこととなった。明らかに音程が外れており、夏女は音痴だということが判明した。そして…
途中、予期せぬことが起きたが、気づけば夜の宴は幕を閉じようとした。夏女は終電を逃してしまい、仕方なく眞子の車で家まで送ってもらうこととなった。
「今夜は楽しかったわ。ありがとう」
「こちらこそ、また会いましょう~じゃあね」
夏女は眞子に送ってもらい、自宅に入ろうとしたが…
アパート一階は真っ暗だったため。夏女は灯りを点けたが、そこに腕を組んで不機嫌そうに立っている真部の姿があった。
「…ちょっとびっくりするじゃないの!!」
「連絡なしで帰ってきて、第一声がそれか?」
「…あっごめんなさい、もう深夜ね…」
「お前を信用して発信器は止めようと思ったが、まだ必要みたいだな」
「以後、気をつけるわ…」
「罰として給料を減額する、金遣いも荒いようだしな…何か質問は?」
「…ないわ」
「夜遊びも程々にな…俺みたいに悪い友達は作るなよ」
夏女は真部にこっぴどく叱られて、落ち込んだ状態で自分の部屋に向かった。
「ふー…」
真部は夏女の姿が見えなくなると、頭を掻いて、リビングルームのソファーに座り込み、独り落ち着こうとした。
夏女は自室に入室した途端、ベッドに沈んでいき、嫌なことを忘れようと眠りについたが…
その時、眞子が悪魔の囁きに耳を傾けるなど、夢にも思わなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
鏡の中の真実
葉羽
ミステリー
東京の豪邸に一人暮らしをする高校2年生の神藤葉羽(しんどう はね)は、天才的な頭脳を持ちながらも、推理小説に没頭する日々を過ごしていた。彼の心の中には、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)への淡い恋心が秘められているが、奥手な性格ゆえにその気持ちを素直に表現できずにいる。
ある日、葉羽は古い鏡を手に入れる。それはただの装飾品ではなく、見る者の深層心理や記憶を映し出す不思議な力を持っていた。葉羽はその鏡を通じて、彩由美や他の人々のトラウマや恐怖を目撃することになり、次第に彼自身もその影響を受ける。彼は鏡の秘密を解き明かそうとするが、次第に奇怪な出来事が彼の周囲で起こり始める。
やがて、鏡の中に隠された真実が明らかになり、葉羽は自らのトラウマと向き合うことを余儀なくされる。果たして、彼は自分の心の奥底に潜む恐怖と向き合い、彩由美との関係を深めることができるのか?鏡の中の真実は、彼の人生をどう変えていくのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる