キケンなバディ!

daidai

文字の大きさ
上 下
22 / 148
シーズン1

第10話 後編

しおりを挟む
キケンなバディ! 第一期
第二章 港街の住人

   3

 三國は四歳から一二歳まで父親の都合で海外を転々としていた。真部と斎藤とは中学の時に知り合う。彼は神戸市内の私立高校卒業後、単身で渡米、米コロンビア大学に進学。優秀な成績で卒業したのと同時に、米国国籍を取得した。
 その後、貴教は演劇の演出家を目指して、十三年間、米国に在住。三五歳で日本に入国(帰国)。妻子を米国に残して永住権を得ると、神戸市に芸能事務所<三國みくにプロダクション>を設立。その二年後に女性だけで構成された劇団<湊歌劇団みなとかげきだん>を創設して自ら最高責任者に就任する。

「早くどけ」
 夏女は真部の巨体で隠れてよく見えず、三國は少々苛ついていた。だが、ここで小さな災いの神が舞い降りた。

「…パリィン!」
「お前何やってんだ!?」
 その時、三國は手が滑ったのか、洋酒スコッチが入ったグラスを落として割ってしまった。バーマスターは、直ちに箒や塵取りを持って現場に向かった。
「すまない、マスター…弁償するよ」
「そんなの構いません、怪我してないですか?」
「大丈夫だよ、もう酔いが回ってきたのかな?」
「まだ飲んだばかりだぞ…たまにボケっとしている時があるからな」
 斎藤は呆れ顔で三國と言葉を交わした。マスターの片づけが落ち着いた後、四人は横一列に並んで雑談を始めようとした。

「…成程、記憶がなく、気づけば和田岬みさきに流れ着いたわけか、それで何も手掛かりは掴めずか?」
「ああ、岬で発見されたから海難事故のことを調べたが、空振りだった」
「生活には支障がないんだから問題ない、銃だって撃てるんだぜ」
「へえ、すごいな…お前にとっては頼りになるじゃないか~」
「…あの、警察の方や一般の方の前でそんな話して大丈夫なの?」
 夏女は、真部たちの会話を不思議そうに聞いていた。

「心配いらないよ、夏女ちゃん、ここにいる連中おとこは銃に詳しいからね、警察の人間である俺も口外しないよ」
「…そうですか」
 斎藤は夏女の周りにいる男たちの事情を話し始めた。

「…三國は米国かいがい暮らしが長いから護身用に銃を携帯していたし…真部は俺より拳銃の扱いに慣れている、それとは元々、闇社会に通じていた、銃の腕前はトップクラスだろう…」
「へえ…とてもそんな人に見えない…」
 夏女が言った通り、マスターの印象は温厚で紳士的であった。

「はは、もう昔の話ですよ、忘れたいくらいです…今は、こうやってお客さんと接することが生きがいですから…」
「心を入れ替えて、に気持ちを込めたわけだね?」
「ええまあ…とまではいきませんが、人の役に立ちたいんです」
「確かに人を殺めることは罪だが…あんたはどうしようもない悪を始末してくれた…に徹してくれたことは感謝している」
 真部はマスターを擁護して、彼の酒を一口含んだ。

「…というわけだ、この街は変わった者が多いが、何でも受け入れる寛大さがある…君もそこのに会ったから運が良かったんだ」
「一言多いんだよ…
 夏女は真部たちの会話を聞いて、改めて守られていることを実感した。

「あの…夏女おじょうさんは何かお飲みになりますか?」
「え?えっと…」
 夏女はマスターに注文を聞かれるが、言葉が詰まってしまい、真部が助け舟を出そうとした。

「…白ワインを頼む、さっき味を覚えてね…」
「かしこまりました」
「夏女ちゃん、お酒飲むんだ…煙草は?」
「吸うよ…若いうちはよく味わっといた方が良い」
「やはり、心配だ…こっちで面倒を見てもいいが…友達も増えるだろう」
 三國は。夏女を興味深そうにずっと見ていた。

「何だ、夏女をする気になったか?」
「まあな…彼女は容姿端麗で魅力的だ…うちは経歴など関係ないからな、実力社会だ…彼女に興味や意志があれば、考えてもいいよ」
「…どうする?」
「え?芸能界ってよく分からないし…私なんかに務まるかな?」
「…特殊な世界だが、慣れれば楽しいよ」
「…そうだ、今度、貴教の事務所を見学させてもらえよ」
「そうだな、一番力を入れているのは役者の仕事でね…うちの劇場も案内しよう、明日来てもいい」
「これから忙しくなりそうだ、探偵業も新装開店リニューアルだ、それを乾杯しようじゃないか!」
「お前のことはどうでもいいが、夏女ちゃんのことは祝おう」
 バーにいる五人は自身のグラスを手に持ち、祝杯を挙げた。
その後、彼らは適当に雑談を交わして引き揚げようとした。斎藤はタクシーで、三國は事務所の送迎車で、真部たちは終電で、それぞれ家路に就くのであった。
 
 俺は駅のホームで終電を待つ間、夏女から挨拶回りの感想を聴きだそうとした。

「…大雑把に行きつけの場所を案内したが、どうだった?」
「本当に楽しかったわ、街の人は良い人ばかりで…仲良くしていくわ」
「そうか…中には危なっかしい奴もいるが、根っから悪い奴はいないよ…」
 この街の連中は暗黙のルールで互いに協力し合い生きている。俺はこの街が好きだ、大きな庭みたいなものだと夏女に言い張った。

「言っていることは分かるわ、斎藤さんの言う通り、あなたに拾われて良かったかも…」
「こっちだって感謝しているよ…実はもう、今の仕事を辞めることを考えていた…若い頃のように体は動かず、独りでやるには限界だった…俺はお前の力に期待している、よろしく頼む」
「こちらこそ!」
 真部は夏女に本音をこぼして、深々と頭を下げた。すると、夏女は彼の気持ちに応えて固く握手するのであった。
 
 かくして、夏女は正式に真部の生息地の住人となり、表の世界だけでなく、裏の世界をも知ることとなった。これからの二人の生活は何が起きてもおかしくなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい

なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。 ※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。

アルファポリスでホクホク計画~実録・投稿インセンティブで稼ぐ☆ 初書籍発売中 ☆第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞(22年12月16205)

天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
 ~ これは、投稿インセンティブを稼ぎながら10万文字かける人を目指す戦いの記録である ~ アルファポリスでお小遣いを稼ぐと決めた私がやったこと、感じたことを綴ったエッセイ 文章を書いているんだから、自分の文章で稼いだお金で本が買いたい。 投稿インセンティブを稼ぎたい。 ついでに長編書ける人になりたい。 10万文字が目安なのは分かるけど、なかなか10万文字が書けない。 そんな私がアルファポリスでやったこと、感じたことを綴ったエッセイです。 。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。. 初書籍「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」が、レジーナブックスさまより発売中です。 月戸先生による可愛く美しいイラストと共にお楽しみいただけます。 清楚系イケオジ辺境伯アレクサンドロ(笑)と、頑張り屋さんの悪役令嬢(?)クラウディアの物語。 よろしくお願いいたします。m(_ _)m  。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。.

龍神様はチョコレートがお好き

Emi 松原
ファンタジー
昔々の絵本の中に出てくるお殿様。俺が、そのお殿様の生まれ変わりで、魂が狙われる!? 五つの神社の自然神の加護を持つ者達、道場の者、そして桁外れのお嬢様。 俺を守るという人たちに、どんどん巻き込まれていって……。

女性のオナニー!

rtokpr
青春
女子のえっち

愛を乞う獣【完】

雪乃
恋愛
「愛してる、ルーシー」 違う誰かの香りをまとって、あなたはわたしに愛をささやく。 わたしではあなたを繋ぎ止めることがどうしてもできなかった。 わかっていたのに。 ただの人間のわたしでは、引き留めることなどできない。 もう、終わりにしましょう。 ※相変わらずゆるゆるです。R18。なんでもあり。

【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。

友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」  あなたがそうおっしゃったから。  わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。  あなたがそうおっしゃったから。  好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。  全部全部、嘘だったというの?  そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?  子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。  貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。  貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。  二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。  しかし。  結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。  だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。  それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。  三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。  それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。  元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。  もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。  いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。  貴族の結婚なんて所詮そんなもの。  家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。  けれど。  まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。  自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。  家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。  だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。  悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……  夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。  彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。

てれてりててれ(完)

江田真芽
ホラー
人生初の微ホラーです。(あまり怖くないです) 怪談風なのでホラージャンルにしています。 息抜きがてらの超短編なのでお気軽にお読みください^ ^ *Novelee、カクヨムにも掲載してます。

貧乏令嬢の私、冷酷侯爵の虫除けに任命されました!

コプラ
恋愛
他サイトにて日間ランキング18位→15位⇧ ★2500字〜でサクサク読めるのに、しっかり楽しめます♪ 傲慢な男が契約恋愛の相手である、小気味良いヒロインに振り回されて、愛に悶えてからの溺愛がお好きな方に捧げるヒストリカル ロマンスです(〃ω〃)世界観も楽しめます♡  孤児院閉鎖を目論んだと思われる男の元に乗り込んだクレアは、冷たい眼差しのヴォクシー閣下に、己の現実を突きつけられてしまう。涙を堪えて逃げ出した貧乏伯爵家の令嬢であるクレアの元に、もう二度と会わないと思っていたヴォクシー閣下から招待状が届いて…。 「君が条件を飲むのなら、私の虫除けになりなさい。君も優良な夫候補が見つかるかもしれないだろう?」 そう言って、私を夜会のパートナーとしてあちこちに連れ回すけれど、何だかこの人色々面倒くさいわ。遠慮のない関係で一緒に行動するうちに、クレアはヴォクシー閣下の秘密を知る事になる。 それは二人の関係の変化の始まりだった。

処理中です...