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シーズン1
第10話 後編
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キケンなバディ! 第一期
第二章 港街の住人
3
三國は四歳から一二歳まで父親の都合で海外を転々としていた。真部と斎藤とは中学の時に知り合う。彼は神戸市内の私立高校卒業後、単身で渡米、米コロンビア大学に進学。優秀な成績で卒業したのと同時に、米国国籍を取得した。
その後、貴教は演劇の演出家を目指して、十三年間、米国に在住。三五歳で日本に入国(帰国)。妻子を米国に残して永住権を得ると、神戸市に芸能事務所<三國プロダクション>を設立。その二年後に女性だけで構成された劇団<湊歌劇団>を創設して自ら最高責任者に就任する。
「早くどけ」
夏女は真部の巨体で隠れてよく見えず、三國は少々苛ついていた。だが、ここで小さな災いの神が舞い降りた。
「…パリィン!」
「お前何やってんだ!?」
その時、三國は手が滑ったのか、洋酒が入ったグラスを落として割ってしまった。バーマスターは、直ちに箒や塵取りを持って現場に向かった。
「すまない、マスター…弁償するよ」
「そんなの構いません、怪我してないですか?」
「大丈夫だよ、もう酔いが回ってきたのかな?」
「まだ飲んだばかりだぞ…たまにボケっとしている時があるからな」
斎藤は呆れ顔で三國と言葉を交わした。マスターの片づけが落ち着いた後、四人は横一列に並んで雑談を始めようとした。
「…成程、記憶がなく、気づけば和田岬に流れ着いたわけか、それで何も手掛かりは掴めずか?」
「ああ、岬で発見されたから海難事故のことを調べたが、空振りだった」
「生活には支障がないんだから問題ない、銃だって撃てるんだぜ」
「へえ、すごいな…お前にとっては頼りになるじゃないか~」
「…あの、警察の方や一般の方の前でそんな話して大丈夫なの?」
夏女は、真部たちの会話を不思議そうに聞いていた。
「心配いらないよ、夏女ちゃん、ここにいる連中は銃に詳しいからね、警察の人間である俺も口外しないよ」
「…そうですか」
斎藤は夏女の周りにいる男たちの事情を話し始めた。
「…三國は米国暮らしが長いから護身用に銃を携帯していたし…真部は俺より拳銃の扱いに慣れている、それとマスターは元々、闇社会に通じていた、銃の腕前はトップクラスだろう…」
「へえ…とてもそんな人に見えない…」
夏女が言った通り、マスターの印象は温厚で紳士的であった。
「はは、もう昔の話ですよ、忘れたいくらいです…今は足を洗って、こうやってお客さんと接することが生きがいですから…」
「心を入れ替えて、店の名前に気持ちを込めたわけだね?」
「ええまあ…贖罪とまではいきませんが、人の役に立ちたいんです」
「確かに人を殺めることは罪だが…あんたはどうしようもない悪を始末してくれた…汚れ役に徹してくれたことは感謝している」
真部はマスターを擁護して、彼の酒を一口含んだ。
「…というわけだ、この街は変わった者が多いが、何でも受け入れる寛大さがある…君もそこのヘボ探偵に会ったから運が良かったんだ」
「一言多いんだよ…ボケ刑事」
夏女は真部たちの会話を聞いて、改めて守られていることを実感した。
「あの…夏女さんは何かお飲みになりますか?」
「え?えっと…」
夏女はマスターに注文を聞かれるが、言葉が詰まってしまい、真部が助け舟を出そうとした。
「…白ワインを頼む、さっき味を覚えてね…」
「かしこまりました」
「夏女ちゃん、お酒飲むんだ…煙草は?」
「吸うよ…若いうちはよく味わっといた方が良い」
「やはり、心配だ…こっちで面倒を見てもいいが…友達も増えるだろう」
三國は。夏女を興味深そうにずっと見ていた。
「何だ、夏女をスカウトする気になったか?」
「まあな…彼女は容姿端麗で魅力的だ…うちは経歴など関係ないからな、実力社会だ…彼女に興味や意志があれば、考えてもいいよ」
「…どうする?」
「え?芸能界ってよく分からないし…私なんかに務まるかな?」
「…特殊な世界だが、慣れれば楽しいよ」
「…そうだ、今度、貴教の事務所を見学させてもらえよ」
「そうだな、一番力を入れているのは役者の仕事でね…うちの劇場も案内しよう、明日来てもいい」
「これから忙しくなりそうだ、探偵業も新装開店だ、それを乾杯しようじゃないか!」
「お前のことはどうでもいいが、夏女ちゃんのことは祝おう」
バーにいる五人は自身のグラスを手に持ち、祝杯を挙げた。
その後、彼らは適当に雑談を交わして引き揚げようとした。斎藤はタクシーで、三國は事務所の送迎車で、真部たちは終電で、それぞれ家路に就くのであった。
俺は駅のホームで終電を待つ間、夏女から挨拶回りの感想を聴きだそうとした。
「…大雑把に行きつけの場所を案内したが、どうだった?」
「本当に楽しかったわ、街の人は良い人ばかりで…仲良くしていくわ」
「そうか…中には危なっかしい奴もいるが、根っから悪い奴はいないよ…」
この街の連中は暗黙のルールで互いに協力し合い生きている。俺はこの街が好きだ、大きな庭みたいなものだと夏女に言い張った。
「言っていることは分かるわ、斎藤さんの言う通り、あなたに拾われて良かったかも…」
「こっちだって感謝しているよ…実はもう、今の仕事を辞めることを考えていた…若い頃のように体は動かず、独りでやるには限界だった…俺はお前の力に期待している、よろしく頼む」
「こちらこそ!」
真部は夏女に本音をこぼして、深々と頭を下げた。すると、夏女は彼の気持ちに応えて固く握手するのであった。
かくして、夏女は正式に真部の生息地の住人となり、表の世界だけでなく、裏の世界をも知ることとなった。これからの二人の生活は何が起きてもおかしくなかった。
第二章 港街の住人
3
三國は四歳から一二歳まで父親の都合で海外を転々としていた。真部と斎藤とは中学の時に知り合う。彼は神戸市内の私立高校卒業後、単身で渡米、米コロンビア大学に進学。優秀な成績で卒業したのと同時に、米国国籍を取得した。
その後、貴教は演劇の演出家を目指して、十三年間、米国に在住。三五歳で日本に入国(帰国)。妻子を米国に残して永住権を得ると、神戸市に芸能事務所<三國プロダクション>を設立。その二年後に女性だけで構成された劇団<湊歌劇団>を創設して自ら最高責任者に就任する。
「早くどけ」
夏女は真部の巨体で隠れてよく見えず、三國は少々苛ついていた。だが、ここで小さな災いの神が舞い降りた。
「…パリィン!」
「お前何やってんだ!?」
その時、三國は手が滑ったのか、洋酒が入ったグラスを落として割ってしまった。バーマスターは、直ちに箒や塵取りを持って現場に向かった。
「すまない、マスター…弁償するよ」
「そんなの構いません、怪我してないですか?」
「大丈夫だよ、もう酔いが回ってきたのかな?」
「まだ飲んだばかりだぞ…たまにボケっとしている時があるからな」
斎藤は呆れ顔で三國と言葉を交わした。マスターの片づけが落ち着いた後、四人は横一列に並んで雑談を始めようとした。
「…成程、記憶がなく、気づけば和田岬に流れ着いたわけか、それで何も手掛かりは掴めずか?」
「ああ、岬で発見されたから海難事故のことを調べたが、空振りだった」
「生活には支障がないんだから問題ない、銃だって撃てるんだぜ」
「へえ、すごいな…お前にとっては頼りになるじゃないか~」
「…あの、警察の方や一般の方の前でそんな話して大丈夫なの?」
夏女は、真部たちの会話を不思議そうに聞いていた。
「心配いらないよ、夏女ちゃん、ここにいる連中は銃に詳しいからね、警察の人間である俺も口外しないよ」
「…そうですか」
斎藤は夏女の周りにいる男たちの事情を話し始めた。
「…三國は米国暮らしが長いから護身用に銃を携帯していたし…真部は俺より拳銃の扱いに慣れている、それとマスターは元々、闇社会に通じていた、銃の腕前はトップクラスだろう…」
「へえ…とてもそんな人に見えない…」
夏女が言った通り、マスターの印象は温厚で紳士的であった。
「はは、もう昔の話ですよ、忘れたいくらいです…今は足を洗って、こうやってお客さんと接することが生きがいですから…」
「心を入れ替えて、店の名前に気持ちを込めたわけだね?」
「ええまあ…贖罪とまではいきませんが、人の役に立ちたいんです」
「確かに人を殺めることは罪だが…あんたはどうしようもない悪を始末してくれた…汚れ役に徹してくれたことは感謝している」
真部はマスターを擁護して、彼の酒を一口含んだ。
「…というわけだ、この街は変わった者が多いが、何でも受け入れる寛大さがある…君もそこのヘボ探偵に会ったから運が良かったんだ」
「一言多いんだよ…ボケ刑事」
夏女は真部たちの会話を聞いて、改めて守られていることを実感した。
「あの…夏女さんは何かお飲みになりますか?」
「え?えっと…」
夏女はマスターに注文を聞かれるが、言葉が詰まってしまい、真部が助け舟を出そうとした。
「…白ワインを頼む、さっき味を覚えてね…」
「かしこまりました」
「夏女ちゃん、お酒飲むんだ…煙草は?」
「吸うよ…若いうちはよく味わっといた方が良い」
「やはり、心配だ…こっちで面倒を見てもいいが…友達も増えるだろう」
三國は。夏女を興味深そうにずっと見ていた。
「何だ、夏女をスカウトする気になったか?」
「まあな…彼女は容姿端麗で魅力的だ…うちは経歴など関係ないからな、実力社会だ…彼女に興味や意志があれば、考えてもいいよ」
「…どうする?」
「え?芸能界ってよく分からないし…私なんかに務まるかな?」
「…特殊な世界だが、慣れれば楽しいよ」
「…そうだ、今度、貴教の事務所を見学させてもらえよ」
「そうだな、一番力を入れているのは役者の仕事でね…うちの劇場も案内しよう、明日来てもいい」
「これから忙しくなりそうだ、探偵業も新装開店だ、それを乾杯しようじゃないか!」
「お前のことはどうでもいいが、夏女ちゃんのことは祝おう」
バーにいる五人は自身のグラスを手に持ち、祝杯を挙げた。
その後、彼らは適当に雑談を交わして引き揚げようとした。斎藤はタクシーで、三國は事務所の送迎車で、真部たちは終電で、それぞれ家路に就くのであった。
俺は駅のホームで終電を待つ間、夏女から挨拶回りの感想を聴きだそうとした。
「…大雑把に行きつけの場所を案内したが、どうだった?」
「本当に楽しかったわ、街の人は良い人ばかりで…仲良くしていくわ」
「そうか…中には危なっかしい奴もいるが、根っから悪い奴はいないよ…」
この街の連中は暗黙のルールで互いに協力し合い生きている。俺はこの街が好きだ、大きな庭みたいなものだと夏女に言い張った。
「言っていることは分かるわ、斎藤さんの言う通り、あなたに拾われて良かったかも…」
「こっちだって感謝しているよ…実はもう、今の仕事を辞めることを考えていた…若い頃のように体は動かず、独りでやるには限界だった…俺はお前の力に期待している、よろしく頼む」
「こちらこそ!」
真部は夏女に本音をこぼして、深々と頭を下げた。すると、夏女は彼の気持ちに応えて固く握手するのであった。
かくして、夏女は正式に真部の生息地の住人となり、表の世界だけでなく、裏の世界をも知ることとなった。これからの二人の生活は何が起きてもおかしくなかった。
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