キケンなバディ!

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シーズン1

第5話 前編

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キケンなバディ! 第一期
第一章 記憶なき女とワケあり探偵

   5

 一九八四年(昭和五九年)七月下旬   夜中。
 夏女は玲子との買い物を楽しんで真部の家に帰宅後、シャワーを浴びていたのだが…

「あ~気持ちよかった~」
「さっきは驚かせてすまなかったな…紹介しておこう、ヒロシヒトシは会ったね…あと、この海豹ハジメセンリケイだ…」
「へえ~真部さんって、ほんと動物お好きなのね~」
「家族みたいなもんだ…パジャマも買ったんだな、似合ってるよ」
「玲子さんに選んでもらったの」
「…何か飲むか?フルーツジュース、コーラ…サイダー…ビールもあるけど…どうする?」
「じゃあフルーツジュース頂くわ」
 俺は夏女のために、瓶に入ったフルーツジュースを注いだ。それは行きつけの喫茶店<フリージア>の特製ジュースだった。

「…二〇歳ハタチ以上なら、酒飲めるんだが…」
「…飲めるかもしれないけど、今日はやめとくわ」
「そうか…こっちに来いよ、テレビでも観て寛ぐといい…」
 真部は夏女が座れるスペースを空けて、一緒にテレビ番組を観ようとした。
 
 月曜日の午後一〇時。日本国内のほとんどの音楽ファンが観ている音楽番組『夜のヒットスタジオ』が始まった。当番組は生放送で、ゲストは人気アイドル歌手や演歌歌手など。
 当時の日本では、目新しいロック歌手、その他は人気俳優、海外スターなどがゲスト出演している。

 当番組は基本的に一つのスタジオから放送されて、トーク力に長けた男女の司会者が自然体で進行していく。
セットは地味な方だが、カメラ―ワーク、照明、スモークなど演出は凝っていて、それは視聴者からの評判が良かった。

「…これって音楽番組?」
「ああ、昔、好きな歌手がよく出ていたんだけどね…知っている歌手はいるかな…?」
 続々と有名歌手が現れる中、俺は夏女の反応を窺ったが、特に感情を表に出さず、じっと番組を観ているだけだった。

〈…ハイ、続いては明菜ちゃんです、どうも…〉
 その時、テレビに映っていたのは、番組司会者の二人とアイドル歌手の〝中森明菜なかもりあきな〟であった。俺はどちらかと言えば、にわかファンだが、親友の斎藤は大ファンであった。

〈…それでは明菜の新曲です、『十戒じっかい(1984)』を聴いてください〉
 中森明菜が新曲を歌いだすと、夏女に変化が起きた。彼女は歌う中森明菜を真剣な眼差しで見て、興味を示しているようだった。
 そして、中森明菜が歌い終わってコマーシャルに切り替わると、夏女の表情が和らいでいった。

「…今の女性歌手の方、格好良かったわ、中森明菜さん…だっけ?」
「ああ、売れっ子のアイドルだ、まだ一九歳だが、歌唱力は大したもんだ」
「もう大ファンになったわ!」
『夜ヒット』を観ている間、真部たちの会話は弾んでいき、気づけば放送が終わろうとしていたが…

「…あの、煙草吸っていいかな?」
 俺はもう我慢ができなかった。
 喫煙歴は長いがマナーを弁えている方だ、病人の前では決して吸わない。ポイ捨てだってしないし、初対面の者の前では、一言断ってから煙草とライターを出すようにしている。しかし、自分の城で吸えないことに限界を感じていた。

「…どうぞ」
 俺は夏女の何気ない返事で、自然と笑みがこぼれた。ニコチン依存症とまではいかないが、ストレスが溜まってどうにかなりそうだ。その時の煙草は格別に美味かった。

「あ~面白かった、来週もあるんだよね?」
「ああ、他に観たい番組があればチャンネルを替えていいぞ……ちょっと用事を思い出した、出かけてくるよ」
「こんな時間に?」
「独りにさせて悪いが…すぐ帰ってくる、俺を待たず適当に寝てくれ」
「分かったわ…」
「鍵を掛けていくから…もし、誰か来ても絶対開けるなよ、何かあったら電話を…警察110か、ここに掛けるんだ、すぐに駆けつける」
 俺は夏女にある電話番号が記されたメモ用紙を渡した後、愛車のトヨタ2000GTに乗って、ある場所に向かおうとした。しかし…

「…ブォォォ」
 真部は運転中に何者かの気配を感じて、バックミラーに映っている車を警戒した。後続車は明らかに俺を尾行していた。
「…また今度遊んでやるよ」
 真部はギア操作をして、アクセルを深く踏んだ。
尾行車は俺に追いつこうとしたが、交差点を走るトラックに行く手を阻まれていた。追手の正体は、大体見当がついていた。
 その一方で…

「さて…何を観ようかな~」
 同じ頃、夏女は呑気に新聞のテレビ欄を見て、鑑賞するテレビ番組を選んでいた。 

 真部は訪れた場所は神戸の繁華街。元町から三宮エリアに続く<高架下商店街>。ここにはあらゆる商品が売られており、裏通りには珍品が売られていたりして、全国、全世界からマニアがやって来ている。

 この商店街の資料はあまり残っていないが、戦後の闇市をルーツとする説が濃い。
 
 ここには行きつけの店がいくつかあるが、後日教えようと思う。俺は元町高架下に位置する行きつけのバーに訪れた。

「カランカラン~」「いらっしゃいませ~」
「…随分と遅かったな」
 店内には、バーのマスターと親友の斎藤の姿しかなかった。

「…悪い悪い、の相手をしていたから…」
「…居候?何者だ?」
「例の…身元不明の女性を預かっている」
「な…変なことしてねえだろな?」
「失敬だぞ…さっきまで一緒にテレビを観ていた、明菜ちゃん出てたな…」
「ああ…娘が録画しているかもしれん…」
「早く帰りたいだろ…本題に入ろうか」
「お前が睨んだ通りだったぞ…彼も交代でガードしている…」
 真部は斎藤と大事な話をして、長居はせず、バーを後にしようとした。
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