キケンなバディ!

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シーズン1

第2話 前編

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キケンなバディ! 第一期
第一章 記憶なき女とワケあり探偵

   2

 一九八四年(昭和五九年)七月上旬。謎の女性が救出されてから数日経ち、彼女は<篠山診療所しのやましんりょうじょ>で療養していた。

「完食できたわね、美味しかった?」
「はい、とても美味しかったです、ご馳走様~」
 謎の女性の病室は賑やかであった。その時間、彼女は昼食を取っており、ご機嫌なのが窺えた。謎の女性の世話をしているのは、篠山に雇われた看護師、戸塚恵理とつかえり(四二)であった。
 恵理は麻酔科医でもあり、篠山のサポート役に徹している。また、管理栄養士の資格も取得しており、謎の女性に自身の料理を提供した。

「…今は栄養を取らないとね、食欲はあるみたいですよ」
「そうですか、順調に回復しているようですね」
 篠山は謎の女性の回復ぶりに対して、安堵の表情を浮かべていた。そして、彼は恵理と交代で謎の女性の病室に向かった。

「…どうだい、調子の方は?」
「はい、良いみたいです、お腹も満腹になったし…」
「予定より回復が早いようだね、そろそろリハビリもできそうだ」
「色々とありがとうございます…あの…背の高い男の方は?」
「…ああ、真部のことか?彼は多分、仕事だよ」
「…真部さんは何の仕事をされてるんですか?」
「私立探偵だ、あいつは刑事だったが…辞めて、家族と別れて独りで暮らしている…」
「…そうですか、とても優しい方みたいですが…」

 真部は女性に優しく、謎の女性のような患者を見つけては、よく<篠山診療所>に運んでくる、自分勝手で乱暴な面があるが、根は良い男だった。
 
 謎の女性が俺のことを話題にしている頃、俺は行きつけの喫茶店である人物と待ち合わせをしていた。

「カランカラン~♬」
 その時、俺は扉鈴を耳にして、カウンター席から振り向かなくても、来店客が誰か分かった。
「…遅くなってすまん、部下との捜査会議が長引いた」
「管理職は大変だな~」
「いや、お陰で家族を養えた…結果オーライだ」
 
 俺と待ち合わせしていたのは、斎藤史也さいとうふみや(四八)。<神戸港警察署こうべみなとけいさつしょ>の捜査課  課長を務めている。
 真部は刑事時代、斎藤と組んでいた。

 俺たちは<神戸港警察署>の最強バディとして、犯罪者から恐れられていたが、その話は長くなるので機会があったら話そうと思う。

 話は本題に戻り、斎藤は和田岬に流れ着いた謎の女性の件を話し出した。

「調べてはみたが、ここ最近の海難事故と一致なし、二十代女性の捜索願、行方不明者の届け出はないようだ…ダイバースーツを着ていたんだろ?」
「ああ…実に不自然だ、あんな早朝じかんに何故潜っていたか…」
謎の女性は神戸ここの土地の者ではなく、何処か別の海域ばしょから流されてきたようだ。

「…あまり深入りするなよ、お互いできる歳じゃないからな」
「まだ体は鈍っちゃいねえよ、自由気ままに生きてゆくさ…」
「最近…別れた奥さんや息子とは会っているのか?」
「元カミさんとは音信不通だが、とはたまに会ってる」
「…ほんと、達治郎たつじろう君とは仲が良かったからな~…!」
「まあな、二人で百恵ももえちゃんの映画観に行ったり、釣りに行ったり…!」
 俺たちが話をしている最中、店のマスターが近寄ってきた。どうやら斎藤に用があるようだ。

「…警察署からあんたにだ」「ああ、すまんね」
 斎藤は、部下からの電話を取った。俺はその間、マスターと世間話をしていた。
「この店は、すっかり警察関係者の常連店いきつけになってしまったな」
「俺もここに二十年以上通っているかな、刑事を辞めても来ているし…」
「店の中であんたらが犯人を捕まえたこともあったな、あの頃が懐かしい」
 真部はマスターにおかわりのコーヒーを淹れてもらい、思い出にふけるのだが、この喫茶店についての話は後日にしたいと思う。

「…すまん、追っている事件に進展うごきがあったようだから戻るよ、例の件も何か分かったら連絡する、じゃあな」
 斎藤は警察署しょくばに戻り、俺も適当に店を後にした。実は、篠山や斎藤に隠し事をしていた。その件は謎の女性を救った翌日までに遡る。
 
 その日、俺は謎の女性の所持品を手掛かりの道具として扱い、単独で捜査を始めようとした。彼女の所持品はペンダントとロッカーのキー。ペンダントの形状はロケットという、写真や薬が収納できるものだった。
 ロッカーのキーは、西日本旅客鉄道(JR西日本)神戸駅の駅構内に設置されたロッカーのものだった。

 ペンダントのチャームを開けると、その中には写真が貼られており、写っているのは一人の若い男性であった。その男性は欧米白人で、かなりの男前だった。俺はまず、写真の男性を手掛かりに捜査を始めようとした。

 神戸は貿易で栄えた都市のため、外国人とは深い縁がある。国籍や職業、宗教は様々で、外国人の家族連れや団体を見かけることも珍しくなかった。
 そのため、外国人クラブや彼らが集う交流の場はいくつも市内に存在している。俺は未熟な英語力で聴き込んで、写真の男を知っている者がいないか調べたが…

 その結果、特に有力な情報がなく、仕方なく振出しに戻った。真部はもう一つの所持品のロッカーキーを頼みの綱にした。
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