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第6週
WEEKLY 6th 「幼なじみが帰ってきたぞ~」(36)
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年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 6th 「幼なじみが帰ってきたぞ~」
≪36≪
場所は中の東原。
「さっきのクレープ美味かったな~次は何食べようかな~」
「大将(剛志)食べてばっかじゃん、僕はレコード屋に行きたいんだけど…」
兼正が呆れ顔で剛志に告げた。
「僕は古本屋に…」
続けて、英雄が恐る恐る要望を告げた。
「仕方ねえな、じゃあ、ジャンケンで勝ったやつが行き先を決めようぜ」
英雄・兼正・剛志は一刻・ナギと別れた後も中の東原を満喫していた。一刻とナギは彼らと別行動をとり、雫が在籍している俳優養成所、演学屋に向かうわけだが…
「皆本さんに連絡したの?」
「いや、してない」
「勝手にお邪魔して大丈夫なの?」
一刻たちは移動中の私鉄車両内で今後の予定のことを話し合っていたが、どうも食い違っているようであった。
「彼女の家じゃないからな、確か、生徒は養成所に下宿しているはずだが…」
一刻は演学屋について下調べしていた。
「養成所に連絡したらいいじゃない」
「なんて言えばいいんだ?見学を断られたら?直接会うのは難しいだろう」
「じゃあどうすんのよ?」
「そこで君の力が必要だ」
用心深い一刻はナギに頼ろうとした。
演学屋は都内の高級住宅街の一画に位置する。主宰は中大路将矢。創立者は中大路の妻、彼女は元舞台俳優で彼の後輩であった。
演学屋は中大路夫妻の自宅兼稽古場で、在籍生徒はそこに下宿していた。入所審査は厳しく、中大路の目に留まらないと入所は難しい狭き門である。
入所費は無料、養成期間は3年、その後、1年ごとに更新が可能(養成期間は最長10年)。ただ、年に1度、中間審査があり、結果が不合格の場合、強制的に退所扱いとなる。
養成期間中は生活の面倒が保証されて、食事や掃除など、家事当番が決まっている。規定額の生活費が支給されて、出演すれば出演料も支払われる。原則でアルバイトは禁止。正式にプロデビューを果たした在籍生徒、独立を考えている者は卒業扱いとなり、演学屋所属から外れる。
演学屋は多くの実力派役者を輩出してきたが、芸能事務所のマネージメントにも携わっているため、演学屋所属俳優として籍を置いている者も少なくない。
「…あれがそうか」
一刻とナギは演学屋付近に辿り着き、呆然と立っていた。
「私はどうすれば?」
「こそっと中の様子が見たいんだけど…」
一刻はさらっと大胆不敵なことを口にした。
「それはできるけど…」
ナギは気が乗らないまま、一刻に従った。彼らは物陰に隠れて、中大路の屋敷への侵入を試みた。ナギは未来の道具を転送した。
「これって、大学祭の自作映画を作った時に使った…」
「ナノ・プロテクターよ、以前のように胸あたりに押し付けてみて…」
「これは空を飛ぶ道具じゃないのか?」
「ナノ・プロテクターはいろんな機能が備わっているわ」
「そうなのか…え…!?」
一刻たちがナノ・プロテクターを装着すると、彼らの体に異変が起きた。
「この状態なら安心して忍び込めるわ」
一刻たちの体は消えていき、お互い声が聞こえるだけであった。
ナノ・プロテクター中心部の〝核〟動力部が青く光ると機能が発動する、ナノ・プロテクターに組み込まれた超極小生命体は特殊な粒子を生成させた。特殊な粒子に包まれると、使用者の姿は透明化され、声は使用者にしか聞こえなかった。
「これなら怪しまれないけど、お互い姿が見えないと一緒に行動できないんじゃないか?」
「問題ないわ」「お!」
ナギがそう言うと、一刻は人影が視認できた。ナノ・プロテクターには熱源探知機能が備わっていた。これで透明になっても居場所が確認できて…
「…おい、入り口はこっちだぞ」
「わざわざ正面から行く必要はないわ」
ナギはそういって、屋敷を囲う壁に方に向かった。すると…
ナギの体は壁をすり抜けていった。一刻は驚愕しながら彼女について行った。彼らは屋敷の庭に辿り着き、堂々と足を踏み入れた。
「本当に広い敷地だな、迷いそうだ」
一刻たちはナノ・プロテクターを備えながら、屋敷内を探索しだした。屋敷は中大路夫妻の本宅、在籍生徒の居住スベース、稽古場に分かれており、一刻はひとまず雫を探そうとした。
「彼女は何処にいるんだろう…見当つく?」「そうだな…!」
その時、一刻はあることに気づいた。何やら声が聞こえて、人の気配がする方に進んだ。そこは稽古場であった。
「この人たち、ここの生徒さん?」
「そのようだな、稽古中みたいだ」
演学屋の稽古場は在籍生徒や関係者が集ったことで、熱気に包まれていた。
「はい、次…」
パイプ椅子に足を組んで座っているのは、演出担当者と演技指導者で、出演する在籍生徒は彼らの前で台詞合わせをしている最中だった。
「あ…!」
一刻たちは台詞合わせの光景を見て、あることに気づいた。彼らは雫を発見した。が…
一刻たちの瞳に映る雫はいつもと様子が違っていた。今の彼女には余裕がなく、必死なのが窺えた。
「おい、違うだろ?どうして言った通りにできないんだ!」
「すみません!」
「何度言ったら分かるんだ?」
「すみません、もう一度お願いします!」
演出担当者と演技指導者は雫を厳しく指導して、彼女は泣きそうな顔でひたすら謝るしかなかった。一刻たちは雫の過酷な現実を目撃した。
「………」
一刻は軽はずみな気持ちで演学屋に来たことを後悔した。
「もう帰ろうか?」
ナギは一刻の心情を察して、屋敷を去ろうとしたが…
一刻たちはナノ・プロテクターを外して帰ろうとした最中、予期せぬ事態に遭遇した。
演学屋、屋敷の前に一台の高級外車が停まり、運転手が外に出て、後部座席扉を開けると、中大路将矢の姿があった。
一刻たちはまた1つ運命に導かれた。
WEEKLY 6th 「幼なじみが帰ってきたぞ~」
≪36≪
場所は中の東原。
「さっきのクレープ美味かったな~次は何食べようかな~」
「大将(剛志)食べてばっかじゃん、僕はレコード屋に行きたいんだけど…」
兼正が呆れ顔で剛志に告げた。
「僕は古本屋に…」
続けて、英雄が恐る恐る要望を告げた。
「仕方ねえな、じゃあ、ジャンケンで勝ったやつが行き先を決めようぜ」
英雄・兼正・剛志は一刻・ナギと別れた後も中の東原を満喫していた。一刻とナギは彼らと別行動をとり、雫が在籍している俳優養成所、演学屋に向かうわけだが…
「皆本さんに連絡したの?」
「いや、してない」
「勝手にお邪魔して大丈夫なの?」
一刻たちは移動中の私鉄車両内で今後の予定のことを話し合っていたが、どうも食い違っているようであった。
「彼女の家じゃないからな、確か、生徒は養成所に下宿しているはずだが…」
一刻は演学屋について下調べしていた。
「養成所に連絡したらいいじゃない」
「なんて言えばいいんだ?見学を断られたら?直接会うのは難しいだろう」
「じゃあどうすんのよ?」
「そこで君の力が必要だ」
用心深い一刻はナギに頼ろうとした。
演学屋は都内の高級住宅街の一画に位置する。主宰は中大路将矢。創立者は中大路の妻、彼女は元舞台俳優で彼の後輩であった。
演学屋は中大路夫妻の自宅兼稽古場で、在籍生徒はそこに下宿していた。入所審査は厳しく、中大路の目に留まらないと入所は難しい狭き門である。
入所費は無料、養成期間は3年、その後、1年ごとに更新が可能(養成期間は最長10年)。ただ、年に1度、中間審査があり、結果が不合格の場合、強制的に退所扱いとなる。
養成期間中は生活の面倒が保証されて、食事や掃除など、家事当番が決まっている。規定額の生活費が支給されて、出演すれば出演料も支払われる。原則でアルバイトは禁止。正式にプロデビューを果たした在籍生徒、独立を考えている者は卒業扱いとなり、演学屋所属から外れる。
演学屋は多くの実力派役者を輩出してきたが、芸能事務所のマネージメントにも携わっているため、演学屋所属俳優として籍を置いている者も少なくない。
「…あれがそうか」
一刻とナギは演学屋付近に辿り着き、呆然と立っていた。
「私はどうすれば?」
「こそっと中の様子が見たいんだけど…」
一刻はさらっと大胆不敵なことを口にした。
「それはできるけど…」
ナギは気が乗らないまま、一刻に従った。彼らは物陰に隠れて、中大路の屋敷への侵入を試みた。ナギは未来の道具を転送した。
「これって、大学祭の自作映画を作った時に使った…」
「ナノ・プロテクターよ、以前のように胸あたりに押し付けてみて…」
「これは空を飛ぶ道具じゃないのか?」
「ナノ・プロテクターはいろんな機能が備わっているわ」
「そうなのか…え…!?」
一刻たちがナノ・プロテクターを装着すると、彼らの体に異変が起きた。
「この状態なら安心して忍び込めるわ」
一刻たちの体は消えていき、お互い声が聞こえるだけであった。
ナノ・プロテクター中心部の〝核〟動力部が青く光ると機能が発動する、ナノ・プロテクターに組み込まれた超極小生命体は特殊な粒子を生成させた。特殊な粒子に包まれると、使用者の姿は透明化され、声は使用者にしか聞こえなかった。
「これなら怪しまれないけど、お互い姿が見えないと一緒に行動できないんじゃないか?」
「問題ないわ」「お!」
ナギがそう言うと、一刻は人影が視認できた。ナノ・プロテクターには熱源探知機能が備わっていた。これで透明になっても居場所が確認できて…
「…おい、入り口はこっちだぞ」
「わざわざ正面から行く必要はないわ」
ナギはそういって、屋敷を囲う壁に方に向かった。すると…
ナギの体は壁をすり抜けていった。一刻は驚愕しながら彼女について行った。彼らは屋敷の庭に辿り着き、堂々と足を踏み入れた。
「本当に広い敷地だな、迷いそうだ」
一刻たちはナノ・プロテクターを備えながら、屋敷内を探索しだした。屋敷は中大路夫妻の本宅、在籍生徒の居住スベース、稽古場に分かれており、一刻はひとまず雫を探そうとした。
「彼女は何処にいるんだろう…見当つく?」「そうだな…!」
その時、一刻はあることに気づいた。何やら声が聞こえて、人の気配がする方に進んだ。そこは稽古場であった。
「この人たち、ここの生徒さん?」
「そのようだな、稽古中みたいだ」
演学屋の稽古場は在籍生徒や関係者が集ったことで、熱気に包まれていた。
「はい、次…」
パイプ椅子に足を組んで座っているのは、演出担当者と演技指導者で、出演する在籍生徒は彼らの前で台詞合わせをしている最中だった。
「あ…!」
一刻たちは台詞合わせの光景を見て、あることに気づいた。彼らは雫を発見した。が…
一刻たちの瞳に映る雫はいつもと様子が違っていた。今の彼女には余裕がなく、必死なのが窺えた。
「おい、違うだろ?どうして言った通りにできないんだ!」
「すみません!」
「何度言ったら分かるんだ?」
「すみません、もう一度お願いします!」
演出担当者と演技指導者は雫を厳しく指導して、彼女は泣きそうな顔でひたすら謝るしかなかった。一刻たちは雫の過酷な現実を目撃した。
「………」
一刻は軽はずみな気持ちで演学屋に来たことを後悔した。
「もう帰ろうか?」
ナギは一刻の心情を察して、屋敷を去ろうとしたが…
一刻たちはナノ・プロテクターを外して帰ろうとした最中、予期せぬ事態に遭遇した。
演学屋、屋敷の前に一台の高級外車が停まり、運転手が外に出て、後部座席扉を開けると、中大路将矢の姿があった。
一刻たちはまた1つ運命に導かれた。
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