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第6週

WEEKLY 6th 「幼なじみが帰ってきたぞ~」(34)

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年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 6th 「幼なじみが帰ってきたぞ~」

≪34≪

中大路将矢なかおおじまさや…」
 それは一刻かずときがレンタルビデオ店でバイトしている最中のことであった。彼は中大路将矢主演作のVHSビデオを手にした瞬間、目に留まった。
「…それが終わったら、少し休憩しようか」
「!…はい」
 一刻はバイト先の店長の声掛けで我に返った。

「何だ、中大路将矢が好きなのか?」
 一刻は店長と雑談する中、中大路将矢のことを話題に挙げた。
「ええまあ、有名な俳優なんで観てみようかと…」
「珍しいな、お前、洋画専門だろ、確かに名作が多いが…」
「借りていいですか?」
「ああ、従業員割引を存分に使え」
 一刻はしずくのことがきっかけで、中大路将矢作品をレンタルした。それから、一刻はバイト時間を終えて、彼が自宅に着いた頃はすっかり夜が更けており…

「あら、お帰りなさい」
「何だ、まだ起きていたのか」
 ナギは帰って来た一刻の気配に気づくと、自室の扉を開けて、彼に挨拶した。
「…これ、届いてたよ」
「おい、うちのポスト勝手に覗くなよ!」
 ナギは一刻の郵便物を手にしていた。一刻はナギの無礼行為に不満を覚えながら、自身に届いた郵便物を確認した。すると…

「彼女から?」
「うん…そのようだな」
 雫から一刻宛てに封筒が届いていた。彼はすぐ中身を確認するのだが…

 便せんてがみには、大学祭でのお礼や打ち上げで語り切れなかったエピソードが綴られていた。そして…

「それって?」
「ああ、観に行くと言ったからか」
 雫が出演する公演作品のチケットが添えられていた。ポカ研メンバー分あるようだ。

「ちゃんとお礼言わないとね、連絡先知っているでしょ?」
「ああ、もう遅いから、後日電話するよ」
「そう…お休みなさい~」
 一刻はナギと別れて、自室で寛いだ。彼は寝しなに中大路将矢主演作のレンタルビデオを視聴しようとした。
「………」
 一刻は視聴中、雫のことを考えていた。彼の心はどうも揺らいでいるようであった。

 翌日、一刻はいつも通り、ポップカルチャー研究部メンバーと顔を合わして…

「え…皆本さんが出演する公演のチケット?」
「俺たちの分まで…」
「何だか悪いね」
 英雄・兼正・剛志はチケットを受け取って感謝の意を述べた。

「皆、予定は大丈夫なのか?」
「ちゃんと空けとくさ、せっかく貰ったんだから」
 英雄たちはすっかり雫のファンになっていた。
「それで今日はどうするんだ?」
 剛志が訊ねた。
「…これを持ってきたんだけど」
 一刻はレンタルした中大路将矢作品のVHSを提示した。
「成程、彼の作品を鑑賞するわけか、良いね」
 英雄は一刻の提案を快く受け入れて、その他男性メンバーは仕方なく賛同した。本日はこれといって予定がないため、急遽、中大路将矢作品の鑑賞会が開かれた。
「こんなちっさいテレビじゃなくて…で観ようよ」
 兼正はそう言って、ポカ研の備品を取り出した。それはビデオプロジェクターであった。
「大学祭の時に使ったやつか…」
ポカ研メンバーは早速セッティングしだして…
「映画館に行った雰囲気が出てるね、さあ観よう」

 ポカ研部室はカーテンで外の光を遮り、彼らだけの空間に包まれた。上映会が始まり…

 ポカ研は中大路将矢の作品を観て、彼の偉大さが身に染みたのであった。中大路のファン世代ではない若者にも伝わるものがあった。二枚目から個性的な役柄まで演技の幅は広く、派手なアクションもこなせる実力派。かつて、演劇界の宝、銀幕スターとして活躍していた。彼は文化勲章を受章する人材に相応しく長年君臨していた。
 ポカ研メンバーは鑑賞終了後、中大路将矢のことを徹底的に調べ上げた。大学の図書館に行けば、彼の関連資料、著書があり、インターネットを通じて、経歴などが事細かに分かる。ポカ研メンバーにとって重要な時間だった。

「…公演先を見てきた、小さいけど。おしゃれな劇場だったよ」
「場所も良いしね、なか東原ひがしはらは僕らみたいな学生が集まるから…」
「ここは名門大学が多いからね、受けようと思ったことがある」
「今度、皆で街をブラブラしないか?」
 ポカ研メンバーは剛志の誘いに乗ろうとした。ポカ研が積極的に活動したのはどれくらいぶりだろうか、彼らは満足気な顔で帰路に就いた。そして…

 一刻は帰宅後、チケットのお礼を兼ねて、雫に連絡を取ろうとしたが…

「………」
 一刻は携帯電話を手にしながら、しばらく硬直していた。彼は緊張して思い悩んでいた。
一刻自身は生活が充実しているが、雫は夢を実現させるために厳しい日々を送っている。彼なりの気遣いだった。雫の携帯電話番号は以前、大学祭の打ち上げ時に知らされて、連絡先の交換、電話番号の登録は済んでいるのだが…

「あっそうだ!」
 その時、一刻は何やら閃いたようであった。彼は電話以外の手段で雫と連絡を取ろうとした。
90年代、通信手段の携帯電話は進化を遂げていった。大手電話会社は携帯電話での電子ショートメールサービスを開始した。
 一刻はメール機能を試そうとした。幸い、雫の携帯電話も一刻と同じ契約会社の機種であった。当時の技術では長文のメールは送れない。一刻は用件を簡潔にまとめて、メールを送信してみた。
 メールの内容は…

[コウエンチケットアリガトウ。ツゴウノイイトキニ、TELクダサイ。ノビザカカズトキ]

 一刻はメール送信後、雫からの返事を待とうとした。彼はテレビを観たり、本を読んだりして気を紛らわせようとしたが…

[♪~]
 その時、一刻の携帯電話の着信音が鳴った。発信者は雫であった。
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