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第5週

WEEKLY 5th 「クランクアップ!」(27)

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年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 5th 「クランクアップ!」

≪27≪

 無から楽しいものを創る秘訣コツは、好奇心と挑戦精神を持つことである。

 一流の創造者クリエイターは仕事を仕事と思わない。あらゆるものに興味を持ち、追究していけば、自ずと素晴らしい結果がついてくる可能性が高い。
 
 人間の娯楽の1つである映画は何かと手間がかかる。監督、脚本家、裏方など、人手と時間もそうだが、何と言っても必要なのは製作費だ。借金をして映画を製作するのは当然のことで、上映されてヒットすれば、苦労と借金はチャラになる。

 ポップカルチャー研究部は強力な支援者スポンサーがいるため、何も心配することなく、映画製作に没頭していた。

 現実世界は日曜日の朝。貸し出し空き空間レンタルスクエア映画撮影スタジオ。
 ポカ研部員たちは映画撮影に取り掛かるのだが…

「郷田《ごうだ》(剛志つよし)君は?」
 監督の英雄ひでおが剛志のことを気にかけた。
「電話してみようか?」
 兼正かねまさが剛志に電話を掛けようとするが…

「生憎、ここでは通じないわ…」
 ポカ研部員4名は現実世界と隔離された空間に居るため、携帯電話や固定電話は使用できなかった。
 と連絡を取る手段は別にある。
 
 ナギはスタジオに設置された個室をポカ研男性部員に見せた。
「この部屋でつながるの?」
 兼正がナギに訊いた。
「ええ、部屋の中にいるだけで通話相手とお話しできるわ」
 スタジオに設置された個室空間は〝マルチ・テレフォンブース〟といって、亜空間や宇宙空間、異世界で電話通信できるよう設計されていた。電話使用料は空き空間レンタルの利用ポイント負担になっている。

 兼正が剛志の携帯番号に電話を掛けようとするが…

♪~
 その時、マルチ・テレフォンブースに異変が起きた。着信呼出音が鳴りだし、兼正は驚愕するが…

電話が掛かってきたわ」
「本当だ、大将(剛志)の番号だ」
 マルチ・テレフォンブースのメッセージパネルに、剛志の携帯番号が表示されていた。兼正は恐る恐る受話器を取って、応対するのだが…

[もしもし、俺だけど…]
「あっ大将、どうしたの?」
[その声はちゃま(兼正)か、ナギちゃんの番号に掛けたんだけど…彼女は?]
クイクイ…
 その時、ナギは人差し指を曲げて、兼正と話し手を交代した。

「以前教えた番号に掛けてくれたのね、私の番号に間違いないけど…それで何かあったの?」
[ああ、実は実家いえの手伝い…バイトが忙しくなってさ~…午後になってからじゃないと、そっちに行けそうにないんだわ]
「成程ね、お疲れ様、こっちは心配しないで、好きな時に来て」
[ありがとう、部屋から行けばすぐだからな、じゃあ、また後で~]

 ナギは剛志の事情を知り、ポカ研男性部員にその旨を伝えた。

「大将の家族の店はよくテレビの特集で取り上げられているからな~土日や連休は特に忙しいって言ってたな」
「遅れてくるそうだから仕方ないわ、彼抜きで撮影を始めるしか…良いでしょ、監督?」
「うん、皆よろしくお願いします!」
 ポカ研部員たちは気持ちを切り替えて、映画撮影に尽力した。彼らは気合を入れるが、時折、トラブルは起こる…
  
野比坂のびざか一刻かずとき)君は車の免許証持ってないんだね?」
「うん…運転シーンがあるんだよね」
「主人公は車を運転するからね、派手なカーチェイスのシーンもあるし…」
「運転のシーンは吹き替えにするしかないね、誰か代わりに運転を…」
「カーチェイスは難しいんじゃないの?」
 ポカ研男性部員は困り果てた様子であったが、ナギは余裕の表情を浮かべていた。

「皆さん、優秀ながいるわ」
「代役?」
「危険なシーンを演じられるエージェント・ヒューマノイドよ」
「スタントマンか、それは助かる」
 一刻と体型が似たヒューマノイドが現れて、1つの問題が解決した。

 ポカ研の舞台セットはあまりにも精巧リアルで、言うまでもなく、傑作を生み出す要素はいくつもあった。

 首都高でのカーチェイスのシーン。映画の都ハリウッドでは撮影のために高速道路を造ったが、規模に大きな差があった。交通規制など気にすることはなく、自由に走行シーンが撮影できる。

「車はどうするんだ?」
 一刻がナギに訊ねた。
「ちょっと待ってね~」
 ナギはタブレット端末で何やら操作していた。すると…

 ポカ研部員4名がいる首都高に異変が起きた。車道上に続々と様々な車種の車が転送されてきた。

「すごい!この車は全部、撮影用に?」
「ええ、20世紀に生産された車を用意してみたけど…」
「ベンツ、BMW、フェラーリ、ポルシェ…高級外車も揃ってるね」
 車好きの兼正は興奮しながら、転送された車を眺めていた。
「では、早速撮影に入ろうか」
 ポカ研部員はカーチェイスのシーンを撮ろうとした。転送車の運転はエージェント・ヒューマノイドが担当して、車両は配置に就いた。
 
 レンタルスクエアは夜の時間がないため、多種の空の様子を映像化できる装置〝ヘヴン・プラネタリウム〟を使用した。撮影周辺部だけ夜になっていき…

「月も出てる…本当にリアルだな」
 ポカ研男性部員はぽかんと口を開けて、造られた夜空を見上げていた。
「さあ、準備はできたわよ、監督」
 英雄はナギの言葉に頷き、緊張しながらも撮影開始の合図を出した。
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