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第4週
WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」(20)
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年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」
≪20≪
ナギは壁に吸い込まれるようにして消えていった。これは手品ではない。
「おいおい、彼女どうしたんだ?」
「これには深い理由が…僕を信じてついてきてよ」
一刻に反論する者は誰もおらず、残された4人はナギを追いかけようとした。シートが貼られた壁に触れると、不思議な感覚が伝わり、全身がまばゆい光に包まれていくと、奇想天外な光景を目にした。
一刻たちが辿り着いたのは、果てしなく広い全体が白い土地、地平線が見えるだけの現実世界と隔離した場所だった。
「…ここは地球と同じくらいの重力…光と空気しかない空間よ、あのシートが出入り口になっているのよ」
ポカ研部室の壁に貼られたシート〝トランスレーションシート〟は超空間、異世界に移動するための道具であった。
「何故、僕らをこんな場所に?」
兼正がナギに訊ねた。
「ここで映画をつくるのよ、そのためにこの場所を借りたの」
「借りたって…こんな場所をどうやって?」
剛志は独り困惑していた。
「音代(ナギ)さん、君は一体何者なんだ?」
英雄はナギに素朴な疑問をした。一刻は頭を抱えるが…
「…ついに正体を明かす時が来たわね、私の本名はナギ、タイムマシンで24世紀からやって来た未来人なの…」
[私はナギ様の保護兼監視ロボットのドラッチと申します]
「タイムマシン…」
「24世紀…」
「未来人…」
「ロボット…」
20世紀の一般人には馴染みのない言葉が並べられていくが、兼正・剛志・英雄は戸惑う仕草を取った。
「すぐ信じることは難しいと思うけど、嘘は言ってないわ」
「野比坂君は音…ナギさんが未来人だと知っていたの?」
英雄は真面目な表情で、一刻の返答を待った。
「うん…黙っておこうと思ったんだけど…」
「お前の隣人が未来人…しかも、こんな美人が!」
「変わった人だと思ってたけど、まさか未来人とはね…」
「もう何者でも良いよ、悪い人には見えないし…」
ナギの正体に対して、それぞれ反応が違うが、彼女を受け入れるのにそう時間はかからなかった。
「細かいことは抜きにして、君を歓迎するよ、ナギさん、ようこそ20世紀へ!」
英雄が代表して、ナギに改めて挨拶した。一刻は少し納得していないようだが…
「ありがとう、歓迎してくれたお礼に、できる限りのことはするわ、ここを映画製作スタジオとして使ってよ」
「よくこんな広い場所を借りられたね」
「未来では空いた〝空間〟を借りることは珍しくないわ、ここなら何をやっても迷惑がかからないし、必要な物があれば手配するわ」
「それは助かる、野比坂君、脚本の方は順調?」
「え…うん、まあ…ちゃんと書きあげるよ」
一刻もやる気を取り戻して、自身の役割を果たそうとした。
「ナギちゃんのお陰で何とかなりそうだな」
「僕が頼りないばっかりに、本当に助かるよ」
兼正・剛志コンビは歓喜して、いつもの調子を取り戻した。
「野比坂君の脚本が完成したら、早速撮影に取り掛かろう」
ポカ研の部員は水を得た魚状態となり、積極的に活動を再開した。
その日の夜、一刻は大学祭映画の脚本を仕上げようとしていた。
「やっと完成した、さすがに疲れた~」
一刻は完成した脚本データを印刷して、一服しようとした。彼の部屋にはナギがお邪魔しており…
「お疲れ様~ビールでも飲む?」
「今は遠慮しとく…勝手に冷蔵庫開けるなよ」
「もう本格的に撮影が始まるのね、楽しみだわ」
「君には毎度驚かされてばかりだ、未来人だとバラして大丈夫か?」
「ええ、手は打ってあるから、気にしないで」
「今回ばかりは素直に喜んでいる、ありがとう」
「何よ、何か気持ち悪いわね」
ナギは一刻の妙な返答が気になっていた。
「実はこの脚本…高校時代に思いついたものでね」
一刻はナギの前で、思い出話を始めようとした。
「演劇部をやってた時の話?」
「ああ…嫌な青春さ…」
高校の文化祭で、一刻が脚本担当した演目を舞台化する予定だったが、稽古中に主役が体調を崩して、そのまま降板した。おまけに顧問が彼の脚本に不満を抱いたせいでお蔵入りに、その結果、別の部員が脚本を担当する流れになった。
「あなたの脚本、何がいけなかったの?」
「高校生向きじゃないと言われた…僕はマセてたからね」
「ボツになった脚本を復活させた理由は?」
「自分の力を認めてほしかったから…かな、未練とかもあるし…」
一刻たちは珍しく夜更けまで雑談をしていた。これで反りが合わない彼らの距離が僅かながら縮まった。かと…
WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」
≪20≪
ナギは壁に吸い込まれるようにして消えていった。これは手品ではない。
「おいおい、彼女どうしたんだ?」
「これには深い理由が…僕を信じてついてきてよ」
一刻に反論する者は誰もおらず、残された4人はナギを追いかけようとした。シートが貼られた壁に触れると、不思議な感覚が伝わり、全身がまばゆい光に包まれていくと、奇想天外な光景を目にした。
一刻たちが辿り着いたのは、果てしなく広い全体が白い土地、地平線が見えるだけの現実世界と隔離した場所だった。
「…ここは地球と同じくらいの重力…光と空気しかない空間よ、あのシートが出入り口になっているのよ」
ポカ研部室の壁に貼られたシート〝トランスレーションシート〟は超空間、異世界に移動するための道具であった。
「何故、僕らをこんな場所に?」
兼正がナギに訊ねた。
「ここで映画をつくるのよ、そのためにこの場所を借りたの」
「借りたって…こんな場所をどうやって?」
剛志は独り困惑していた。
「音代(ナギ)さん、君は一体何者なんだ?」
英雄はナギに素朴な疑問をした。一刻は頭を抱えるが…
「…ついに正体を明かす時が来たわね、私の本名はナギ、タイムマシンで24世紀からやって来た未来人なの…」
[私はナギ様の保護兼監視ロボットのドラッチと申します]
「タイムマシン…」
「24世紀…」
「未来人…」
「ロボット…」
20世紀の一般人には馴染みのない言葉が並べられていくが、兼正・剛志・英雄は戸惑う仕草を取った。
「すぐ信じることは難しいと思うけど、嘘は言ってないわ」
「野比坂君は音…ナギさんが未来人だと知っていたの?」
英雄は真面目な表情で、一刻の返答を待った。
「うん…黙っておこうと思ったんだけど…」
「お前の隣人が未来人…しかも、こんな美人が!」
「変わった人だと思ってたけど、まさか未来人とはね…」
「もう何者でも良いよ、悪い人には見えないし…」
ナギの正体に対して、それぞれ反応が違うが、彼女を受け入れるのにそう時間はかからなかった。
「細かいことは抜きにして、君を歓迎するよ、ナギさん、ようこそ20世紀へ!」
英雄が代表して、ナギに改めて挨拶した。一刻は少し納得していないようだが…
「ありがとう、歓迎してくれたお礼に、できる限りのことはするわ、ここを映画製作スタジオとして使ってよ」
「よくこんな広い場所を借りられたね」
「未来では空いた〝空間〟を借りることは珍しくないわ、ここなら何をやっても迷惑がかからないし、必要な物があれば手配するわ」
「それは助かる、野比坂君、脚本の方は順調?」
「え…うん、まあ…ちゃんと書きあげるよ」
一刻もやる気を取り戻して、自身の役割を果たそうとした。
「ナギちゃんのお陰で何とかなりそうだな」
「僕が頼りないばっかりに、本当に助かるよ」
兼正・剛志コンビは歓喜して、いつもの調子を取り戻した。
「野比坂君の脚本が完成したら、早速撮影に取り掛かろう」
ポカ研の部員は水を得た魚状態となり、積極的に活動を再開した。
その日の夜、一刻は大学祭映画の脚本を仕上げようとしていた。
「やっと完成した、さすがに疲れた~」
一刻は完成した脚本データを印刷して、一服しようとした。彼の部屋にはナギがお邪魔しており…
「お疲れ様~ビールでも飲む?」
「今は遠慮しとく…勝手に冷蔵庫開けるなよ」
「もう本格的に撮影が始まるのね、楽しみだわ」
「君には毎度驚かされてばかりだ、未来人だとバラして大丈夫か?」
「ええ、手は打ってあるから、気にしないで」
「今回ばかりは素直に喜んでいる、ありがとう」
「何よ、何か気持ち悪いわね」
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