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第2週

WEEKLY 2nd 「未来人ですが、お世話になります」(9)

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年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 2nd 「未来人ですが、お世話になります」

≪9≪

 1998年の夏、一刻かずときを訪ねて来た謎の女性ナギは、過去の時代の居住権を得た未来人であった。
 チャプターレジデントか何か知らないが、一刻がナギを厄介者トラブルメイカーとして見ることに変わりはなく、あろうことか、彼の隣の住居室へやに引っ越してきた。気が合わないまま2人の生活が始まるのだが…

 これから頭を傾げてしまうような話が続くが読んでほしい。
 
 場所は亜空間。未来・現在・過去の狭間で、異世界を出入りするための空間トンネルといえる。そこでは予期せぬ事態が頻繁に起こり、現実のルールは一切通用せず、自然界より過酷な環境だということが頷ける。
 
 亜空間でも乱気流のような現象が起こる。いわば、何でも吸い込むブラックホールのようなもので、運悪く人間やその他生物が〝時空の穴〟に落ちてしまう場合がある。
 
 時空乱気流タイムスクリューと名付けるべきか、とにかく、被害者は一生、亜空間を彷徨うか、運が良ければ、現実もとの世界へと出られるが…

 現実世界に脱出できても、亜空間には有害な電磁波、放射線が蔓延しているため、それを浴びてしまえば、人体に悪影響を及ぼす。
防護服を着用していれば問題ないが、無理に時間移動すれば、効果は無いのに等しい。体内に障害が残り、最悪の場合は死に至る。
 常に科学技術は進歩しており、タイムトリップの危険度リスクは改善されているようだが…


「…!!」
 その時、ナギはうなされて急に飛び起きた。彼女の体は汗びっしょりだった。それは熱帯夜が原因ではなく、どうやら悪い夢を見ていたようであった。
 普段のナギらしくなく、彼女は冷蔵庫からミネラルウォーターが入ったペットボトルを取って、がぶ飲みしていた。そして、気持ちを落ち着かせると、ナギはベッドへと戻った。
 何やら事情ワケがあるようだが、彼女の秘密が明かされるのはまだ先だった。


 それから夜が明けて、朝日が顔を出す。新聞配達員や牛乳配達員がせっせと仕事をこなす一方で、商店街の専門店のシャッターが開く音が響き、徐々に賑やかになっていく。
 一刻は規則正しく起きて、いつものように、下階の親戚夫婦が経営する喫茶店で朝食を食べようとしたが…

「…あら、は一緒じゃないの?」
 一刻は叔母みいの何気ない一言で表情が強張り、思わず咽て、口に含んだアイスコーヒーを吹き出した。

「知らないですよ、そんなに親しいわけでもないし…」
「ガールフレンドじゃないの?」
「前にも言ったけど、学校が一緒なだけで…」
「呼んであげなさいよ、あの、少し変わっているけど好きよ」
 一刻は美衣の頼みで仕方なく、ナギを呼びに行った。彼の足取りは重く、溜息をついた後に呼び鈴インターホンを押すのだが…

「あれ?開いてる…」
 一刻はナギの応答がないため、どうも不審に思った。何故か扉の鍵は掛けられておらず、一刻は恐る恐るナギの住居《へや》をお邪魔するわけだが…

「え…!」
 一刻はナギの住居室で未知なるものを目撃した。彼女の部屋に浮かぶ謎の物体、水の球体があった。
 ナギはその中で瞳を閉じてうずくまった状態になっており、何とも異様な光景であった。

「…!」
 その時、ナギは一刻の気配に気づき、慌てて水の球体から出てきた。
「…これは何だ?」
「説明すると長くなる…お風呂みたいなものね…」
 謎の水球体の名称は〝アクアボール〟という。利用者が白色の特殊なスーツを着て、適温のアクアボールの中に潜り込むと、体の汚れや疲れが取れていく。治療効果もあり、いわば、未来の温泉と言える。

「…また未来の道具か、普通に風呂に入ったらどうだ?」
「まだ20世紀げんざいの生活に慣れなくてね…浴槽やら、シャワーやら使ったことない物ばかりだわ…めんどくさ~」
「少しでも、現代の人間らしくしてくれ、身が持たない…」
「はいはい、今度、お風呂の入り方を教えてね」
「そんなもん簡単だ、裸になって浴槽に溜めたお湯に浸かればいいんだ」
「裸か…」
 ナギはそう呟いて、何やら考え込んだ。そして…

「おい…!」
 一刻はナギを見て、動揺していた。彼女はまばゆい光に包まれると、着用していた白いスーツが消えており、美しい裸体を露わにしていた。

「どうしたの?顔が赤いわよ…」
「当たり前だ、早く服を着ろ!」
「20世紀の男ってよく分からないわ…」
 ナギは一刻の反応が理解できず、言われた通りにした。未来の世界では、いちいち服を脱がなくても、瞬時に着替えることが可能だった。

「もう絶対に人前で裸になるなよ!」
「はいはい、それで何か用?」
「叔母《みい》さんの命令で君を呼びに来た…朝食はまだだろ?」
「ええ、誘いに来てくれたのね、1階した喫茶店おみせ、気に入ったわ」
「…それにしても不用心だぞ、鍵くらい閉めろよ」
「あっ忘れてたわ、鍵を掛けるのが礼儀マナーね」
「…君の家に泥棒とか入ったことないのか?」
「泥棒…不法侵入者のことね、大丈夫よ。強力なセキュリティで守られているから…物騒なら何か撃退グッズを仕掛けようと思うんだけど…」
「そこまでしなくても…この町は治安が良い方だ」
 一刻たちは馴染みの喫茶店で朝食を共にするわけだが…

「今日は私に奢らせてよ」
「え…良いのか?」
「ちゃんとを用意してあるから…その代わり、お願いがあるんだけど…」
 ナギは見返りを求めており、彼女の不敵な笑みが恐かった。

「何だよ、言ってみろ?」
「あなたの街を案内してほしいの…迷惑?」
「…どうせ断っても無駄だろう、分かったよ…」
「ありがとう」
 一刻たちは会計を済ませて、商店街の方へと向かった。
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