上 下
9 / 42
第2週

WEEKLY 2nd 「未来人ですが、お世話になります」(7)

しおりを挟む
年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 2nd 「未来人ですが、お世話になります」

≪7≪

 一刻かずときは未来から来た謎の女性ナギに付きまとわれて、不快感を露わにしており、ようやく彼女の呪縛から解き放たれたが、再び悪夢は蘇るのであった。

「…何やってんだ?帰ったんじゃないのか?」
「別れの挨拶はしたけど、とは言ってないわ」
「意味が分からない、何故、その部屋にいるんだ?」
「入居許可が出たのよ、改めてよろしくね~」
「は?」
 一刻はナギの発言が理解できず、絶句したまま立ち竦んでいた。

「立ち話もなんだから、入ったら?お茶でも淹れるわ」
 一刻は状況が把握できないまま、ナギに招かれた。これから彼は予想外のことを目撃する立場となる。

「…そこらへんに座っといて」「え…ああ…」
 長い間空き家だった部屋には、お洒落な家具や雑貨が配置されており、生活感が漂っていた。一刻は緊張感を持ちながら、リビングルームのソファーに腰掛けるわけだが…

「こんなものしか用意できないけど…」
 ナギは慣れない手つきで来客応対した。卓上には冷茶と安い茶菓子などが置かれているが、一刻は一切手を付けようとしなかった。

「…ちゃんと説明してくれ、もう振り回されるのはゴメンだ」
「良いわ、何から訊きたい?」
「…まず、この部屋の状態だ、まるで自分の部屋ものみたいじゃないか、入居許可が出たと言ったが…まさか住む気か?」
「ええ…もう正規ここの住人よ、間取り図を専門業者たちインテリアコーディネーターに送って、家具の配置を依頼したの、ようやく落ち着いてね…」
 ナギは堂々と発言を続けて、一刻を幻滅させた。

「わざわざ、うちに引っ越してくることないだろ?実に迷惑だ」
「そんなこと言われてもね…もう決めちゃったから…」
「よく…あの叔父マスターから許可を得たな…どんな魔法を使った?」
「人間の心理せいかくを理解すれば容易いことよ、彼には危害を加えていないから安心して…」
 ナギが住む未来の世界では、人間が催眠・洗脳・暗示と人の心を操作する特殊能力を得ており、資格や仕事に活かされている。よって、もう詐欺行為インチキとは言えず、一般的能力スキルとされていた。

「未来人が別の時代に住めるのか?」
「手続きすれば可能よ、専門機関が手配してくれるから…身分を証明するためのものは揃ってるわ」
 ナギは一刻に健康保険証、住民票、戸籍謄本、パスポート、年金手帳などを提示した。どうやら全て本物のようだが…

「とても信じられない…」
「まだ私が未来人だと信じてくれないの?」
「当たり前だ、せっかく忘れようとしたのに…タイムマシンでも見せてくれたら気が変わるかもしれないぞ…」
「以前に少し説明したと思うけど…がそうよ」
「この青いボールか…本当かよ」
「また自己紹介してあげてよ…」
[私は次元転位型ドローン2349型〝ガーディアン〟シリアルナンバーSN 21DR12E9MO3N…]
「はいはい…分かったよ、相変わらず美しい声だな」
[お世辞が上手いですね、カズトキ様…]
「謙遜するなよ、ロボットのくせに…」
 一刻はドラッチを呆れた顔で見ていた。

相棒ドラッチがいないと私は生きていけないわ、他に役割があるしね…」
「どういうことだ?」
「時間旅行は如何いかに危険かってことよ、相棒の別名は〝スリーパー〟常に監視されているのよ、規則ルールを破れば、強制的に住んでいた時代へと戻される」
「時間旅行の規則って?」
「例えば、犯罪行為よ…詐欺に窃盗、暴行…殺人とか…犯行が発覚すれば、未来の世界で裁かれる、時間旅行の場合、弁護制度は通用しない、即判決が下るわ」
「…死刑になったりするのか?」
「ええ…一瞬で人体を消滅させる装置があるし、無人の星に送るなんかもあるわ」
 一刻はナギのことを信用し始めて、表情と肩の力が緩んでいった。

「しかし…未来の人間が過去の世界に滞在するだけで、悪影響を及ぼすんじゃないのか?」
「意外と賢いわね…タイムトリップに興味が?」
「漫画や小説、映画から得た知識だ、実際の定義を訊きたいね」
「確かに、時間犯罪は重罪だけど、そう簡単に歴史は変えられないわ…」
 ナギは一刻に分かりやすく、時間軸の流れを説明しようとした。
 
 そもそも、経過時間を示す時間軸タイムラインは1本だけとは限らず、無数に枝分かれしている。時間軸の構造は、単純かつ複雑で矛盾も生じる。
 よって、時間旅行者タイムトリッパ-による過去への介入は、時間軸の分岐、元の世界と並行して別の世界が生まれる〝マルチバース現象〟を起こす。
 
「そういえば、タイムマシンが出てくる作品は矛盾点が多いな」
「歴史上の重要人物を生かそうが殺そうが、時間軸は築かれていくわけだし、多少の因果律は無視されるわ、時空破壊も迷信デマってことよ」
「じゃあ…違う時代の自分と接触しても問題ないのか?」
 ナギは一刻の質問に頷こうとしなかった。タイムトリップ論には矛盾や未知な点が多いが、無法地帯ではなく、徐々に解明されていた。

「タイムトリップした時代に、同じ人間が存在すると…〝バグ〟が発生するわ」
「…ゲームやパソコンに起こる障害のことか?」
「そうよ、歯車が狂いだして、時が停まる恐れがある…かもね」
「対処方法はあるのか?」
が直ちに処理する、時間旅行者を元の住んでいた時代に戻せば解決よ、データの上書き保存、更新みたいなもんね」
「関係が肉親、親戚とかの場合はどうだ?」
「バグが起こる確率は低くなるけど、濃厚接触すれば危ないかも…親戚は非常に遠い関係ならセーフ…ちなみに先祖と子孫も同じこと…」 
「僕たちに血縁関係は?」
「全くないわ、だからバグる心配はなしよ」
「どうして、この時代に…僕に拘る?そろそろ目的を教えてくれてもいいだろう?」
 ナギは瞳を閉じて一息ついた後、再び口を開いた。

「私が住んでいる世界では、タイムマシンが普及して、時間旅行は宇宙旅行より人気があるわ、特に今の流行りブームは過去の地球旅行でね…」
「過去の地球?」
「未来の地球は、数々の問題を抱えていてね…私たち未来人はの地球を求めて、タイムマシンを利用するわけよ」
「旅行は分かるが…別の時代で生活するのは驚きだな」
「過去の時代に移住するタイムトリッパ-は増えていってるわ」
 過去の時代に移住(居住)する理由は、未来すむ生活に飽きたり、余生は別の時代で暮らしたいと思っている者が多いからである。
 ただ、過去の世界に移住するには厳正な審査があり、100年以上の予約待ちとのこと。莫大な費用が掛かることも悩みの種であった。
 
 ちなみに、過去に移住、別の世界で生活する未来人は〝チャプターレジデント〟と呼称されていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

処理中です...