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第2週
WEEKLY 2nd 「未来人ですが、お世話になります」(7)
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年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 2nd 「未来人ですが、お世話になります」
≪7≪
一刻は未来から来た謎の女性ナギに付きまとわれて、不快感を露わにしており、ようやく彼女の呪縛から解き放たれたが、再び悪夢は蘇るのであった。
「…何やってんだ?帰ったんじゃないのか?」
「別れの挨拶はしたけど、永遠の別れとは言ってないわ」
「意味が分からない、何故、その部屋にいるんだ?」
「入居許可が出たのよ、改めてよろしくね~」
「は?」
一刻はナギの発言が理解できず、絶句したまま立ち竦んでいた。
「立ち話もなんだから、入ったら?お茶でも淹れるわ」
一刻は状況が把握できないまま、ナギに招かれた。これから彼は予想外のことを目撃する立場となる。
「…そこらへんに座っといて」「え…ああ…」
長い間空き家だった部屋には、お洒落な家具や雑貨が配置されており、生活感が漂っていた。一刻は緊張感を持ちながら、リビングルームのソファーに腰掛けるわけだが…
「こんなものしか用意できないけど…」
ナギは慣れない手つきで来客応対した。卓上には冷茶と安い茶菓子などが置かれているが、一刻は一切手を付けようとしなかった。
「…ちゃんと説明してくれ、もう振り回されるのはゴメンだ」
「良いわ、何から訊きたい?」
「…まず、この部屋の状態だ、まるで自分の部屋みたいじゃないか、入居許可が出たと言ったが…まさか住む気か?」
「ええ…もう正規の住人よ、間取り図を専門業者たちに送って、家具の配置を依頼したの、ようやく落ち着いてね…」
ナギは堂々と発言を続けて、一刻を幻滅させた。
「わざわざ、うちに引っ越してくることないだろ?実に迷惑だ」
「そんなこと言われてもね…もう決めちゃったから…」
「よく…あの叔父から許可を得たな…どんな魔法を使った?」
「人間の心理を理解すれば容易いことよ、彼には危害を加えていないから安心して…」
ナギが住む未来の世界では、人間が催眠・洗脳・暗示と人の心を操作する特殊能力を得ており、資格や仕事に活かされている。よって、もう詐欺行為とは言えず、一般的能力とされていた。
「未来人が別の時代に住めるのか?」
「手続きすれば可能よ、専門機関が手配してくれるから…身分を証明するためのものは揃ってるわ」
ナギは一刻に健康保険証、住民票、戸籍謄本、パスポート、年金手帳などを提示した。どうやら全て本物のようだが…
「とても信じられない…」
「まだ私が未来人だと信じてくれないの?」
「当たり前だ、せっかく忘れようとしたのに…タイムマシンでも見せてくれたら気が変わるかもしれないぞ…」
「以前に少し説明したと思うけど…彼女がそうよ」
「この青いボールか…本当かよ」
「また自己紹介してあげてよ…」
[私は次元転位型ドローン2349型〝ガーディアン〟シリアルナンバーSN 21DR12E9MO3N…]
「はいはい…分かったよ、相変わらず美しい声だな」
[お世辞が上手いですね、カズトキ様…]
「謙遜するなよ、ロボットのくせに…」
一刻はドラッチを呆れた顔で見ていた。
「相棒がいないと私は生きていけないわ、他に役割があるしね…」
「どういうことだ?」
「時間旅行は如何に危険かってことよ、相棒の別名は〝スリーパー〟常に監視されているのよ、規則を破れば、強制的に住んでいた時代へと戻される」
「時間旅行の規則って?」
「例えば、犯罪行為よ…詐欺に窃盗、暴行…殺人とか…犯行が発覚すれば、未来の世界で裁かれる、時間旅行の場合、弁護制度は通用しない、即判決が下るわ」
「…死刑になったりするのか?」
「ええ…一瞬で人体を消滅させる装置があるし、無人の星に送る流罪なんかもあるわ」
一刻はナギのことを信用し始めて、表情と肩の力が緩んでいった。
「しかし…未来の人間が過去の世界に滞在するだけで、悪影響を及ぼすんじゃないのか?」
「意外と賢いわね…タイムトリップに興味が?」
「漫画や小説、映画から得た知識だ、実際の定義を訊きたいね」
「確かに、時間犯罪は重罪だけど、そう簡単に歴史は変えられないわ…」
ナギは一刻に分かりやすく、時間軸の流れを説明しようとした。
そもそも、経過時間を示す時間軸は1本だけとは限らず、無数に枝分かれしている。時間軸の構造は、単純かつ複雑で矛盾も生じる。
よって、時間旅行者による過去への介入は、時間軸の分岐、元の世界と並行して別の世界が生まれる〝マルチバース現象〟を起こす。
「そういえば、タイムマシンが出てくる作品は矛盾点が多いな」
「歴史上の重要人物を生かそうが殺そうが、時間軸は築かれていくわけだし、多少の因果律は無視されるわ、時空破壊も迷信ってことよ」
「じゃあ…違う時代の自分と接触しても問題ないのか?」
ナギは一刻の質問に頷こうとしなかった。タイムトリップ論には矛盾や未知な点が多いが、無法地帯ではなく、徐々に解明されていた。
「タイムトリップした時代に、同じ人間が存在すると…〝バグ〟が発生するわ」
「…ゲームやパソコンに起こる障害のことか?」
「そうよ、歯車が狂いだして、時が停まる恐れがある…かもね」
「対処方法はあるのか?」
「優秀な専門機関が直ちに処理する、時間旅行者を元の住んでいた時代に戻せば解決よ、データの上書き保存、更新みたいなもんね」
「関係が肉親、親戚とかの場合はどうだ?」
「バグが起こる確率は低くなるけど、濃厚接触すれば危ないかも…親戚は非常に遠い関係ならセーフ…ちなみに先祖と子孫も同じこと…」
「僕たちに血縁関係は?」
「全くないわ、だからバグる心配はなしよ」
「どうして、この時代に…僕に拘る?そろそろ目的を教えてくれてもいいだろう?」
ナギは瞳を閉じて一息ついた後、再び口を開いた。
「私が住んでいる世界では、タイムマシンが普及して、時間旅行は宇宙旅行より人気があるわ、特に今の流行りは過去の地球旅行でね…」
「過去の地球?」
「未来の地球は、数々の問題を抱えていてね…私たち未来人はまともだった頃の地球を求めて、タイムマシンを利用するわけよ」
「旅行は分かるが…別の時代で生活するのは驚きだな」
「過去の時代に移住するタイムトリッパ-は増えていってるわ」
過去の時代に移住(居住)する理由は、未来生活に飽きたり、余生は別の時代で暮らしたいと思っている者が多いからである。
ただ、過去の世界に移住するには厳正な審査があり、100年以上の予約待ちとのこと。莫大な費用が掛かることも悩みの種であった。
ちなみに、過去に移住、別の世界で生活する未来人は〝チャプターレジデント〟と呼称されていた。
WEEKLY 2nd 「未来人ですが、お世話になります」
≪7≪
一刻は未来から来た謎の女性ナギに付きまとわれて、不快感を露わにしており、ようやく彼女の呪縛から解き放たれたが、再び悪夢は蘇るのであった。
「…何やってんだ?帰ったんじゃないのか?」
「別れの挨拶はしたけど、永遠の別れとは言ってないわ」
「意味が分からない、何故、その部屋にいるんだ?」
「入居許可が出たのよ、改めてよろしくね~」
「は?」
一刻はナギの発言が理解できず、絶句したまま立ち竦んでいた。
「立ち話もなんだから、入ったら?お茶でも淹れるわ」
一刻は状況が把握できないまま、ナギに招かれた。これから彼は予想外のことを目撃する立場となる。
「…そこらへんに座っといて」「え…ああ…」
長い間空き家だった部屋には、お洒落な家具や雑貨が配置されており、生活感が漂っていた。一刻は緊張感を持ちながら、リビングルームのソファーに腰掛けるわけだが…
「こんなものしか用意できないけど…」
ナギは慣れない手つきで来客応対した。卓上には冷茶と安い茶菓子などが置かれているが、一刻は一切手を付けようとしなかった。
「…ちゃんと説明してくれ、もう振り回されるのはゴメンだ」
「良いわ、何から訊きたい?」
「…まず、この部屋の状態だ、まるで自分の部屋みたいじゃないか、入居許可が出たと言ったが…まさか住む気か?」
「ええ…もう正規の住人よ、間取り図を専門業者たちに送って、家具の配置を依頼したの、ようやく落ち着いてね…」
ナギは堂々と発言を続けて、一刻を幻滅させた。
「わざわざ、うちに引っ越してくることないだろ?実に迷惑だ」
「そんなこと言われてもね…もう決めちゃったから…」
「よく…あの叔父から許可を得たな…どんな魔法を使った?」
「人間の心理を理解すれば容易いことよ、彼には危害を加えていないから安心して…」
ナギが住む未来の世界では、人間が催眠・洗脳・暗示と人の心を操作する特殊能力を得ており、資格や仕事に活かされている。よって、もう詐欺行為とは言えず、一般的能力とされていた。
「未来人が別の時代に住めるのか?」
「手続きすれば可能よ、専門機関が手配してくれるから…身分を証明するためのものは揃ってるわ」
ナギは一刻に健康保険証、住民票、戸籍謄本、パスポート、年金手帳などを提示した。どうやら全て本物のようだが…
「とても信じられない…」
「まだ私が未来人だと信じてくれないの?」
「当たり前だ、せっかく忘れようとしたのに…タイムマシンでも見せてくれたら気が変わるかもしれないぞ…」
「以前に少し説明したと思うけど…彼女がそうよ」
「この青いボールか…本当かよ」
「また自己紹介してあげてよ…」
[私は次元転位型ドローン2349型〝ガーディアン〟シリアルナンバーSN 21DR12E9MO3N…]
「はいはい…分かったよ、相変わらず美しい声だな」
[お世辞が上手いですね、カズトキ様…]
「謙遜するなよ、ロボットのくせに…」
一刻はドラッチを呆れた顔で見ていた。
「相棒がいないと私は生きていけないわ、他に役割があるしね…」
「どういうことだ?」
「時間旅行は如何に危険かってことよ、相棒の別名は〝スリーパー〟常に監視されているのよ、規則を破れば、強制的に住んでいた時代へと戻される」
「時間旅行の規則って?」
「例えば、犯罪行為よ…詐欺に窃盗、暴行…殺人とか…犯行が発覚すれば、未来の世界で裁かれる、時間旅行の場合、弁護制度は通用しない、即判決が下るわ」
「…死刑になったりするのか?」
「ええ…一瞬で人体を消滅させる装置があるし、無人の星に送る流罪なんかもあるわ」
一刻はナギのことを信用し始めて、表情と肩の力が緩んでいった。
「しかし…未来の人間が過去の世界に滞在するだけで、悪影響を及ぼすんじゃないのか?」
「意外と賢いわね…タイムトリップに興味が?」
「漫画や小説、映画から得た知識だ、実際の定義を訊きたいね」
「確かに、時間犯罪は重罪だけど、そう簡単に歴史は変えられないわ…」
ナギは一刻に分かりやすく、時間軸の流れを説明しようとした。
そもそも、経過時間を示す時間軸は1本だけとは限らず、無数に枝分かれしている。時間軸の構造は、単純かつ複雑で矛盾も生じる。
よって、時間旅行者による過去への介入は、時間軸の分岐、元の世界と並行して別の世界が生まれる〝マルチバース現象〟を起こす。
「そういえば、タイムマシンが出てくる作品は矛盾点が多いな」
「歴史上の重要人物を生かそうが殺そうが、時間軸は築かれていくわけだし、多少の因果律は無視されるわ、時空破壊も迷信ってことよ」
「じゃあ…違う時代の自分と接触しても問題ないのか?」
ナギは一刻の質問に頷こうとしなかった。タイムトリップ論には矛盾や未知な点が多いが、無法地帯ではなく、徐々に解明されていた。
「タイムトリップした時代に、同じ人間が存在すると…〝バグ〟が発生するわ」
「…ゲームやパソコンに起こる障害のことか?」
「そうよ、歯車が狂いだして、時が停まる恐れがある…かもね」
「対処方法はあるのか?」
「優秀な専門機関が直ちに処理する、時間旅行者を元の住んでいた時代に戻せば解決よ、データの上書き保存、更新みたいなもんね」
「関係が肉親、親戚とかの場合はどうだ?」
「バグが起こる確率は低くなるけど、濃厚接触すれば危ないかも…親戚は非常に遠い関係ならセーフ…ちなみに先祖と子孫も同じこと…」
「僕たちに血縁関係は?」
「全くないわ、だからバグる心配はなしよ」
「どうして、この時代に…僕に拘る?そろそろ目的を教えてくれてもいいだろう?」
ナギは瞳を閉じて一息ついた後、再び口を開いた。
「私が住んでいる世界では、タイムマシンが普及して、時間旅行は宇宙旅行より人気があるわ、特に今の流行りは過去の地球旅行でね…」
「過去の地球?」
「未来の地球は、数々の問題を抱えていてね…私たち未来人はまともだった頃の地球を求めて、タイムマシンを利用するわけよ」
「旅行は分かるが…別の時代で生活するのは驚きだな」
「過去の時代に移住するタイムトリッパ-は増えていってるわ」
過去の時代に移住(居住)する理由は、未来生活に飽きたり、余生は別の時代で暮らしたいと思っている者が多いからである。
ただ、過去の世界に移住するには厳正な審査があり、100年以上の予約待ちとのこと。莫大な費用が掛かることも悩みの種であった。
ちなみに、過去に移住、別の世界で生活する未来人は〝チャプターレジデント〟と呼称されていた。
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