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第1週

WEEKLY 1st 「未来人ですが何か問題でも?」(5)

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年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 1st 「未来人ですが何か問題でも?」

≪5≪

 一刻かずときはナギを邪魔者扱いしていたが、当の本人は気にせず、強かな態度で1998年の彼の家に居座っていた。
何時いつになったら帰るんだ?迷惑だ!」
「まあまあ…私といると、何か都合が悪いの?」
「初対面の女を部屋に泊めたんだぞ、叔父マスターに知れたら地獄だ、さっさと用件を言えよ!」
「落ち着いてよ、今はまだ言えない…この時代のこと、色々と知りたいから近所を案内ガイドしてほしいんだけど…」
 一刻はナギの図々しさに対して、怒りを通り越して呆れるばかりだった。彼には、未来から来た厄介者を追い出す術はなく、頭を抱えるわけだが…

「僕だって忙しいんだ、に行かないと…」
「へえ、どんなアルバイトなの?」
「…一応、役者関連の…都内でドラマの撮影ロケがあってね…」
「面白そう~!見学させてもらうわ!」
「いい加減にしろ!お前はじっとしといてくれ…」
 一刻はナギに反発するが、それで解決するわけがなかった。
「…私に留守番させて大丈夫~?部屋の中を滅茶苦茶にするかも~」
「……くそ」
 一刻はナギに脅されて、反論で出来ずにいた。彼は仕方なく、ナギと外出することになるのだが…

「何やってんの?」
 一刻は、ナギの前で出掛ける準備をしているのだが…

「…君と歩いていると誤解を招く、そのための対策へんそうだよ」
 一刻は野球帽を被り、サングラスを掛け、マスクも装着していた。彼の表情は分からなくなり、不審者に見えるのは明らかであった。

「何で変装なんてするのよ?」
「友達や知り合いと顔を合わせたくない…行くぞ」
 ナギは変装した一刻に従って、黙って同行した。
交通機関が揃う駅に向かうには、商店街や住宅街を抜けなければいけないのだが…

 地元のため、一刻の顔馴染みは数え切れない人数だ。彼の鼓動は高まる一方で、真夏日にマスクで口元を覆っているため、とても正常ではいられないはずである。

「凄い汗よ、大丈夫?」
 ナギは心配するが、一刻は聞く耳を持たず、ひたすら目的地を目指そうとするのだが…

「…おっ野比坂のびざかじゃないか!」
 一刻は背後から誰かに呼びかけられて、心臓が止まりそうになっていた。
「…その声は」
 呼びかけたのは、一刻の男友達であった。例え変装しても、付き合いが長ければ後ろ姿で分かるものである。
「…お前、どうしたんだ?不審者ヘンタイみたいだぞ」
「いや…これは事情があって…その…」
 一刻は男友達の前で顔を赤くして、変装道具を外した。

「隣は…お前の連れか?」
 一刻は落ち着く暇がなく、男友達の調が始まった。
「ああ、大学の…友達だ」
「なんだ恋人じゃないのか…お前ってだもんな~」
「え?」
 その時、ナギは一刻の男友達の発言に引っ掛かったようだった。

「余計なことは喋るなよ…」
「別に良いじゃないか…そうか、やっぱり2人の仲って…」
「だから違うって!ちょっと急いでいるんだ、またな」
 一刻たちは歩くペースを上げて、逃げるように男友達の前から去って行った。どうにか窮地ピンチを切り抜けたわけだが…

「はあ~変な噂が広がらなければいいけど…」
変装それは無駄だったわね」
「…頼む、この町にいる間は離れて歩いてくれないか?」
「しょうがないわね…」
 ナギは、一刻の言うことを聞いてくれた。何はともあれ、奇妙な関係を持った2人は、私鉄でんしゃで都内を目指した。

 場所は都内の公園。緑が多く、広大な敷地面積を誇っており、猛暑にもかかわらず、その日はやたら人の数が多かった。
 辺りを見渡すと、撮影カメラや照明器具、音響装置など普段見ることがない機材が公園内に運ばれていき、専門職の人間が入念に打ち合わせをしている。彼らは公園をロケーションに選び、ドラマ撮影の準備をしていた。ロケ現場は、時間が経つにつれて野次馬が増えていった。

「それでは皆さん、撮影を始めるので指示うちあわせ通りにお願いします」
 現場スタッフの前には、大人数の人が集まっているが、野次馬ではない。彼らはアルバイトで雇われたエキストラだった。そこに一刻の姿があり…

「何が役者の仕事よ、カッコつけちゃって…」
 ナギは騙された気分になり、独り顔をしかめていた。
 一刻たちエキストラはリハーサルを行い、台詞がない通行人の役でも真剣そのものであった。それからしばらくして、主役や主要キャストたちが続々と、撮影現場に姿を見せた。そして…

「きゃあああー」
 旬の男女俳優が現れたら、自然と黄色い声援が上がる。野次馬の中には熱狂的なファンが紛れていた。
また、芸能事務所プロダクションの幹部やマスコミも撮影現場を見学しており、独特な空気が漂っていた。ただ、華やかな世界であるが、都内では珍しい光景ではなく、芸能人を見かけることは日常茶飯事に近い。

「カチン!」
 カメラの前でカチンコの音が鳴れば、本番が始まる。その日は天気に恵まれて、監督はイメージ通りのシーンが撮れたのか、機嫌は良い方だった。
それからNGトラブルは少なく、撮影は順調に進んでいった。

「はい、カット!」
 数時間後、撮影は無事に終了した。ひと段落すると、出演者キャストはサインを書いたり、限られた時間でファンサービスを行い、ロケバスに乗り込み次の仕事現場へと向かった。その一方で…

「…お疲れ様です、どうぞ」
 役目を果たしたエキストラは、スタッフから出演料を渡されて、その場で解散した。一刻はバイトが終わると、ナギのもとに向かった。

「…終わったの」
「ああ、とりあえずな…また呼ばれるかもしれない」
「割の良いバイトなの?」
「いいや、ほんの小遣い稼ぎさ、大学の友達の父親が映像会社に勤めていてね…その紹介さ」
「芝居の仕事に興味が?」
「以前はあった、でも現実はそう甘くない、単なる趣味さ」
 その時、一刻は今までにない表情を浮かべた。ナギは何かを察して、敢えて事情わけを聞かなかった。
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