上 下
80 / 114
第二章

──第79話──

しおりを挟む
しばらく時間がたつと、ショーンは俺が見せた薬草と同じモノを両手にかかえて持ってきた。

「おにーさん、これ!」

「あぁ、ちゃんと俺が見せたのと同じ薬草だな。それはこっちに入れてくれるか?」

俺は薬草を入れる麻袋あさぶくろを広げショーンに向けると、ショーンはそこに薬草を入れた。

ショーンは どう?どう?と顔をキラキラとさせて、褒めてくれるのを待っている、と言った様子で俺を見てくる。

えっと……。
褒めるってどうするんだ?
こんなに期待の眼差しを受けて、どう褒めたら良い?
どの言葉が正解??

褒める言葉を期待されてから褒めるという事をした事が無いので、どうすれば良いのか少し考え、俺はショーンの頭に手を置いて言葉にする。

「……ありがとう。よく出来たね。」

「うん!」

ショーンの眩しい笑顔が返ってくる。

どうやら俺の言葉は間違って無かった様だ。

すると、ショーンはポケットから いそいそと赤く小さな野苺の様な実を取り出した。

「おにーさん、これ!」

「なん……んぐぅ!?」

俺が口を開けた瞬間にショーンの手に持っていた赤い実が俺の口に入ってきた。

ちょっと強引過ぎやしませんかね、ショーン。
普通に渡してくれたら食べ……
あー……コレ……。

「おにーさん、おいしい?すごく 甘そうな香りだったから一番に、おにーさんに食べて欲しかったんだ!」

にこにこと笑顔でショーンは俺を見つめて来た。

美味しそうなモノを見付けたから、俺に食べさせ様と思って持って来てくれたのか。
優しいな。
その気持ちは凄く嬉しいよ?
嬉しいんだけど、コレ……。
…………。
……毒、なんだよなぁ。
どう伝えようか……。

俺は口に広がる甘酸っぱい味と舌にしびれを感じながら考える。

ノアが昔言ってたみたいに、確かに美味しい毒もある。
……耐性があれば美味しく頂ける。
耐性が無い頃に食べるのはただの拷問。

この毒は少量だと死にはしないが、麻痺状態にはなる。
大量摂取すると、心臓まで麻痺が回り死ぬこともあるが、特に俺にとっては危険な訳でも無い。

今思うとノア達に耐性をつれさせられてた時は効き目が低い順番で徐々に慣らしてくれてたんだな……。
死ぬかと思ったけど。
これはいつ頃に食べたっけ……?
中盤辺りだった様な……?
て事は、耐性の無い奴が食べたら、確実に麻痺状態になるだろうな。
うん、ショーンに食べさせたら駄目だな。

俺は考えながら、赤い実を飲み込んだ。
その様子を見ていたショーンは自分も食べようと、赤い実を口元に持っていく。
俺はそれを片手で制し、苦笑が漏れる。

「ショーンは食べちゃ駄目だ。」

「どうして?おにーさんは食べたよ?」

確かに食べた。
毒だけど食べた。
口に入れた毒を吐き出そうとすると、ノア達にすげー怒られたし。
毒なら吐き出しても良いと俺は思うんだけどねー……。

ショーンは不思議そうに首を こてん と傾けながら俺の言葉を待っていた。

「これは、身体にあまり良くないモノだから食べちゃ駄目なんだ。」

「……そうなの!?……おにーさんは だいじょう、ぶ?」

「俺は大丈夫。これくらいなら平気だ。」

俺は心配そうな表情をしているショーンの頭の上に手を乗せ、安心させてやる。

これくらい……と言うか、殆どの毒は俺には効かないからなぁ。
ノア達のせい……おかげ?で。

「……ほんとう、に?」

尚も心配してくるショーンに俺は笑顔を向ける。

「あぁ、本当だ。だけど、他にも毒とかあるかもしれないから、食べる前……人に食べさせる前にちゃんと俺に聞けよ?」

「……分かった。」

すごく落ち込んだショーンに苦笑を漏らし、その後はショーンと一緒に薬草を取る。

先程の事があったからか、ショーンは薬草を取る度に俺に聞いて来るので、結構時間が掛かってしまい、いつもの半分以下の量しか取れなかったが、ショーンが凄く楽しそうだったから良しとしよう。



太陽が傾き始めたので、俺達は集めた薬草を持ってギルドへ向かった。

帰りにまたもやショーンが顔を真っ青にさせていたので薬を飲ませて、落ち着かせてからギルドへ入る。

「ル、ルディ様!今日も薬草を取りに行かれたのですか?」

ギルドの受け付けへ行くと、いつもの猫耳お姉さんが対応してくれた。

「うん。今日も宜しく。」

「は、はいっ!分かりましたっ!!……あれ?この子は……?」

猫耳お姉さんがショーンの存在に気が付き、ショーンに顔を近付ける。

ショーンは俺の後ろに隠れる様に立ち、顔を覗かせて猫耳お姉さんに ぺこり と挨拶をした。

猫耳お姉さんは俺とショーンを交互に見て、何やら驚いている。

「ま、まさか!ルディ様のお子さんですかっ!?」

……は?
はぁ!?
どこをどう見たらそうなるの!?

「いや……ちが」
「も、もしかして、ルディ様は見た目と実年齢が違うのですか!?」

俺の話を聞けよっ!!
その質問は答えにくいぞ!?
確かに十五歳の見た目で十五歳じゃないけどさ!!

「あのさ……この子は」
「ル、ルディ様にこんな大きなお子さんがいるなんてっ!」

聞いちゃいねぇ……。

俺は仕方なく、机に乗り出して来ていた猫耳お姉さんの頭に手を置き、そのまま力を込めて座らせる。

そして、俺は猫耳お姉さんに笑顔で言葉を放つ。

「エレナ、少し落ち着いてくれるかな?」

「は、はいっ!」

猫耳お姉さんは耳と尻尾を ピン と伸ばして返事をした。

落ち着いた事を確認してから俺はショーンを紹介する。

「この子は最近知り合った子なんだ。薬草を取ってみたいって事で今日は手伝って貰ってた。」

「そ、そうなんですかっ!す、す、すいません……私、勘違いをしてしまいました……。こんにちは、私はエレナと言います。お名前を聞いても良いですか?」

「…………ショーン。」

猫耳お姉さんは後半、ショーンに問い掛けると、ショーンは迷いながらも自己紹介をした。

人見知りなのかな?
初めて会った時、何も喋らなかったからなぁ。
人見知りなんだろうな。
それなのに ちゃんと自己紹介出来て偉いな。

俺は微笑みながらその光景を見ていた。

子供と猫耳お姉さん。

うん。
なごむ。




















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...