コンビニで働く私の日常

みやび

文字の大きさ
上 下
5 / 5

私と女の子

しおりを挟む
少し暗くなる時間帯。

お客さんもまばらで、雑誌の立ち読みの所にお客さんがいる。

そこに見掛けた小学生くらいの女の子。

習い事の帰りでしょうか?
あの……でも、その場所は……。

私はどうして良いか分からず、先輩に声を掛ける。

「あの、先輩……?あそこにいる女の子なんですけど……。」

私がこそっと視線で示した先を確認した先輩は笑顔で私の質問に答えてくれた。

「あー!なるほどねっ!私がレジをやっておくから、声を掛けてあげてくれるかな?」

「え!?あ、はい!分かりましたっ!」

私は先輩の言葉を聞き、ゆっくりと女の子の方へ歩く。
女の子の横に着いた私は、視線を合わせる為に膝を折る。

「あ、あの~、何を読んでいるんでしょうか……?」

私は女の子を怖がらせない様に、出来る限り優しく問い掛けると女の子は首を傾げる。

「わかんない!」

分からないですか~。
あの、えーっと……。

私は次にどんな言葉を掛ければ良いか迷っていると、女の子は読んでいた雑誌を広げて私に見せる。

「おねえさん!なんで、この ひとは はだかなの?」

「え!?あ、あの!?」

そのいちページを見せられ、私は恥ずかしくなり顔が暑くなってきた。

女の子がいるのは“成人向けコーナー”なのだ。

まだ、あなたには早いと思いますっ!!
あの……それを見せないで下さいっ!!

私の混乱は女の子には伝わらず、どんな答えが返って来るのかと期待の眼差しで見られていた。

「あ、あのですね!これは、大人向けの本……と言いますか……。その~……」

「おとなは みんな よむの?」

「い、いえ!そう言う訳でも無いのですが……何と言いますか……」

「おねえさん も よむの?」

そう言って女の子はページを広げたまま、私に渡してくる。

あわわわわ。
私は読んだ事が無いんですっ!
どう答えたら正解なんでしょうか!?
と、とりあえず……
ページを閉じて貰えませんか?
すごく恥ずかしいです……。

こてん、と首を傾げる女の子から、そっと雑誌を受け取りそのまま閉じる。

「あ、あのですね……ここのコーナーは成人向けになっていますので……そのぉ……あなたの年齢ではまだ見てはいけないんですよ。」

「ここ、ぜんぶ みちゃ だめなの?」

女の子は雑誌コーナー全体を示しながら聞いてきた。

「いえ、違いますよ?ここの看板に“成人向け”と書かれている所以外は見ても大丈夫ですよ。」

私がにこりと笑い答えると、女の子は不思議そうな顔をする。

「せーじんむけ?そう よむの?」

ああ!
そ、そうですよね!
漢字で書かれていたら読めないですよね!
気付かなかったです……。

「えっと、そうですね……。ここのお店だとここからここの間は読まないで貰えますか?」

私は“成人向けコーナー”の部分を手で示しながら言葉にする。

「うん!わかった!」

可愛らしい笑顔で私の言葉に頷いてもらえた。
すると、女の子はキラキラとした眼差しで質問をしてくる。

「せーじんむけ の おんなのひと が はだか の ほん は どんな おはなし なの?」

え!?
あの!?
え、絵本では無いです!!
お話は……あるのでしょうか?
よ、読んだ事が無いので答えられません!!
ど、どうしましょう!?

「えー……と。おうちの人に聞いてみて下さい…………?」

うちの方、すいません!!
私には答えられそうに無いんです!!

「うん!わかった!ありがと、おねえさん!ばいばい!」

「はい。またね。」

女の子は手を振りながらお店から出ていった。

私はレジに戻り、先輩に声を掛ける。

「先輩……あれで良かったのでしょうか?」

「うん!大丈夫だと思うよ!ちゃんと注意も出来ていたし、女の子も分かってくれたみたいだからね!」

先輩はニコニコと笑いながら、私の頭をポンポンと優しく叩て、ねぎらってくれた。




────────



数日後。

一人のタクシーの運転手をしている男性が缶コーヒーを持って、先輩のレジに来た。

先輩がレジに通すと、男性は一万円札を出す。

「一万円、でよろしいでしょうか?」

「あぁ。」

先輩の言葉に男性は短く答えると、先輩は店内を少し見てから男性に声をかける。

「全て千円札の方がよろしいでしょうか?」

「え?あぁ、その方が助かるよ。」

「五百円と五十円はどうされますか?」

「あ、そうだな……五十円だけ替えて貰っても良いかな。」

「はい!かしこまりました!」

すると、先輩は千円札を九枚男性に渡し、次に小銭を数える。

「ありがとう、助かるよ。」

「いえいえ!何かお疲れですか?」

「最近、娘がませててね。この前なんか、成人向けの本がどーとか聞いて来たんだよ……。」

「それは大変ですね。」

男性の言葉に苦笑しながら、先輩は小銭を男性に渡すと、男性が缶コーヒーを先輩に渡す。

「両替のお礼と話を聞いてくれたお礼。受け取ってくれ。」

「良いんですか!ありがとうございます!!」

先輩の言葉に男性が笑うと、そのまま店を出ていった。

それを見送っていた先輩はレジを出て、近くにある小さいお茶のペットボトルを持って外に出た。

え!?
先輩!?

先輩は車に乗り込んだ男性の元へ行き、そのお茶を渡す。

閉じられていない自動ドアから会話が聞こえてくる。

「はい!缶コーヒーのお礼です!コーヒーばかりだと胃も痛めますので、お茶をどうぞ!お仕事、お疲れ様です!身体を大切にしてくださいね!」

先輩の言葉に男性は照れ臭そうにお茶を受け取ると、別れを言い車を出した。

先輩はレジに戻る前に、先程持っていったお茶と同じ商品を取ると自分で会計をし、その商品を棚に戻した。

「先輩、良いんですか?」

「ん?なにが?両替かな?別に良いよね、店長?」

バックヤードから出てきた店長は笑顔で頷いた。

「お客様あってのお店だからね。お客さんが喜んでくれるなら両替するのは大丈夫だよ。」

そうなんですね……。
先輩は凄いです!
色々な事に気が回って……。
私もそんな風になりたいです!!

「そういえば、さっきのお客さんの娘ちゃんは、前に佐倉さくらちゃんが注意した子かもね!」

先輩はにこにこと嬉しそうに缶コーヒーを持ちながら、元気な笑顔で私にそう言葉にした。

そんな。
まさか、ね?
























しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

おれは農家の跡取りだ! 〜一度は捨てた夢だけど、新しい仲間とつかんでみせる〜

藍条森也
青春
藤岡耕一はしがない稲作農家の息子。代々伝えられてきた田んぼを継ぐつもりの耕一だったが、日本農業全体の衰退を理由に親に反対される。農業を継ぐことを諦めた耕一は『勝ち組人生』を送るべく、県下きっての進学校、若竹学園に入学。しかし、そこで校内ナンバー1珍獣の異名をもつSEED部部長・森崎陽芽と出会ったことで人生は一変する。  森崎陽芽は『世界中の貧しい人々に冨と希望を与える』ため、SEEDシステム――食料・エネルギー・イベント同時作を考案していた。農地に太陽電池を設置することで食料とエネルギーを同時に生産し、収入を増加させる。太陽電池のコストの高さを解消するために定期的にイベントを開催、入場料で設置代を賄うことで安価に提供できるようにするというシステムだった。その実証試験のために稲作農家である耕一の協力を求めたのだ。  必要な設備を購入するだけの資金がないことを理由に最初は断った耕一だが、SEEDシステムの発案者である雪森弥生の説得を受け、親に相談。親の答えはまさかの『やってみろ』。  その言葉に実家の危機――このまま何もせずにいれば破産するしかない――を知った耕一は起死回生のゴールを決めるべく、SEEDシステムの実証に邁進することになる。目指すはSEEDシステムを活用した夏祭り。実際に稼いでみせることでSEEDシステムの有用性を実証するのだ!  真性オタク男の金子雄二をイベント担当として新部員に迎えたところ、『男は邪魔だ!』との理由で耕一はメイドさんとして接客係を担当する羽目に。実家の危機を救うべく決死の覚悟で挑む耕一だが、そうたやすく男の娘になれるはずもなく悪戦苦闘。劇団の娘鈴沢鈴果を講師役として迎えることでどうにか様になっていく。  人手不足から夏祭りの準備は難航し、開催も危ぶまれる。そのとき、耕一たちの必死の姿に心を動かされた地元の仲間や同級生たちが駆けつける。みんなの協力の下、夏祭りは無事、開催される。祭りは大盛況のうちに終り、耕一は晴れて田んぼの跡継ぎとして認められる。  ――SEEDシステムがおれの人生を救ってくれた。  そのことを実感する耕一。だったら、  ――おれと同じように希望を失っている世界中の人たちだって救えるはずだ!  その思いを胸に耕一は『世界を救う』夢を見るのだった。  ※『ノベリズム』から移転(旧題·SEED部が世界を救う!(by 森崎陽芽) 馬鹿なことをと思っていたけどやれる気になってきた(by 藤岡耕一))。   毎日更新。7月中に完結。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

初恋の相手と結ばれて幸せですか?

豆狸
恋愛
その日、学園に現れた転校生は私の婚約者の幼馴染で──初恋の相手でした。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...