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最終章 いかないで
第九話 さようなら、ありがとう
しおりを挟む「関わりたくないって、聞こえなかったかな、かげ君」
「このままじゃ駄目だと思ったから関わりにきた」
「このままじゃ? いいじゃないか、あんたは星座と暮らしてハッピーエンド。それで満足いくじゃないか?」
「――……満足しない。お前がハッピーエンドじゃないからだ。俺は、お前にハッピーエンドを迎えてほしいんだ」
「そんなの不老不死になったから、あり得ないんだよ。終わりは永遠にこない」
柘榴はようやく振り向き、青白い肌のまま陽炎に向き直った。
陽炎は久しぶりに見る柘榴だからこそ、青白い肌でも気にせず接した。
それがかえって柘榴の心をいたぶるとは知らずに。
「一緒にいたくないんだ。おいら、蒼の心まで引き継いで不老不死になってるんだよ? いつねじ曲がるかわかんねーんだぜ? そんときに、字環のように、あんたをプラネタリウムに閉じこめてしまったらどうすんのさ!」
「馬鹿にすんなよ、そこまで柔じゃねーんだよ、もう。俺はもう強いんだ、大概のことなら受け流せるようになったんだ、舐めンなよ」
「……ッでも、わかんないじゃないか! あんたが負けたら、おいらは……何をするか判らないじゃないか! 蒼の長年眠っていた感情が、ずっとおいらと戦っている。欲しい者は手に入れろ、誰にも期待するな、何かをぶち壊せ、ずっと叫んでいる……! 字環とあいつの関係みたいになりたくねぇんだ! おいらは、あんたとは……親友でいたいんだ」
「親友っつーのは、絶対に親友を傷つけないのか? 決して本音を言わず、決してぶつかりもしないままなのか?」
陽炎の言葉に柘榴は怯んだ。
柘榴は、肌色を取り戻しつつ、陽炎を泣きそうな目で睨み付け、首をぶんぶんとふった。
「じゃあ本音をぶつけてこいよ! そうでないかぎり、俺とお前は一生親友じゃねぇよ!」
「本音なら色々あるさ! 何で城にきちゃったの、何で死ぬような目に遭うためにこんな城にきちゃったの、字環にくんなって伝えるよう頼んだのに! 何で、あんたはいつだって自由気ままで、誰にでも優しいんだ! 何で、強くなっちゃったんだ! 何でおいらを放っておかないんだ! おいらなんて、通りすがりの赤の他人なんだ! あんたの家族なんかじゃねぇ!」
「家族じゃなけりゃなんなんだ!」
「親友だよ、馬鹿野郎! 一生大事で、一生側にいたい親友だったんだよ!! おいらが、何で離れたか、その少ない脳みそで考えてみせろよ!」
「うっせぇな、考えた結果が今これだ! いい加減、開き直れよ、このウジ虫!」
陽炎は柘榴を殴りつけて、宙に止めさせる。柘榴は宙に地面があるように浮きながら、陽炎を睨み付けて、己も殴り返した。
「開き直れるか、獅子座を殺したんだぞ! 獅子座を殺したというのに、開き直れるものか!」
「今までだって、他の誰かを殺していただろ、今更だろ殺しなんて! お前は元賞金首だ、俺はハンターだ。今までだって、誰かにとっての獅子座みたいな存在を殺してきたんだ、今更獅子座が特別扱いか?!」
「……ッ!! あんた、狡いよ……狡いよ、いつも、正論ばかりで生きることができて。夢を見ないですんで」
柘榴は膝をついて、頭を抱えた。その時にはもう夕方で、日が出ていく姿はまさに壮麗。荘厳な景色がとても雄大で、夕陽の色は柘榴の色に似ていた。
闇に染まりそうなのに、昼間のままでいたい柘榴に――似ていた。
「どうして、あんたは夢を見ないんだ」
「夢を見てる、見てるけど現実も知ってる」
「おいらだって、現実を知ってる! おいらの知ってる現実は、迫害さ! どうしてあんたはおいらを迫害しなかったんだ、どうして受け入れてしまったんだ、どうして底なしに優しくしようとするんだ――ッおいらは、そんなあんただから……」
柘榴の顔はぼろぼろで、ぼろぼろと泣き崩れていた。
今日はやけに男の泣き顔を見る日だな、と陽炎は苦笑しながら、待つ。
生きてきた中で柘榴がずっと言えなかった、文句。
柘榴はきっと幼い頃から、文句を言うことを減らしていた。だからこそ、歪にはならなかったが、綺麗事を言うのが得意な者になってしまった。
文句を言えば誰かが、傷つくと判ってるから言えないのだ。
でもその結果が彼を苦しめた。
文句を言い合える関係こそがきっと、柘榴と己には――相応しい。
「そんなあんただから、大嫌いで大嫌いなんだよっ!」
最初の大嫌いはそのままの意味。二度目の大嫌いは、好きという意味の大嫌いなのだろう。
陽炎は、頷き、柘榴に言葉を続けさせようとする。
「もっとあるだろ、俺に文句。言えよ、全部いっちまえよ」
「な、んで……何でおいらに獅子座の模型を見せたのさ、傷ついたよ、流石にあれは」
「ごめんな」
「なんで……あんたを売る兄貴がいるんだ。あんたの兄貴はいつも大嫌いだった。悔しかった、勝てないことが判ってたから」
「……そうだな」
「なんで……なんであんたは、そこの鴉を許したの? そいつさえいなかったら、こんなことにはなれなかったのに」
「……ごめんな」
「なんで……おいらには誰もいないの? あんたには星座の仲間が山ほど居るから、その度においらは寂しさを感じていたんだ。おいらには、誰もいないから……」
「……柘榴様、今プラネタリウムを見てください、そして夜空を」
鴉座がいきなり横から口を挟んできたので驚いた二人は、柘榴の持つプラネタリウムを見やった。
柘榴はポケットから黒玉を取り出し、空に掲げると、そこからは幾つも穴が開き、光が差し込んでいた――幾つもの穴。本物のプラネタリウム、プラネタリウムが完成している。
柘榴の受けた傷? ――そうではない。これは……。
「字環が、蒼刻一を殺し、た?」
「――……陽炎が、蒼様と話されてる間、字環と話していたんですよ。蒼様は、何がハッピーエンドか判っているから、柘榴様が何を求めているか判るから、それを与えたいと。その結果は、字環と蒼の消滅。星座全ての解放です――貴方は、もう一人になりえません。星座の皆を、貴方が纏めねばならないのですよ。忙しいでしょう?」
「……蒼……字環……」
「夜空は、貴方を一人にはさせません。空はいつだって、貴方の物。ほら、星座集めをしてくださいよ、忙しくなるでしょう? 楽しくなるでしょう?」
「……鴉座……――あー、くそ、もう、あんたらには負けたよ。字環め、蒼刻一め。なんだって、死んだりするんだ…寿命を待てばいいのに」
「いつか来る死ならば、どうせなら貴方の印象に残りたいかららしいですよ」
「あー、くそ、あいつ性格悪いよ、マジで!」
柘榴は苦笑して、そっとプラネタリウムを指でなぞる。
この黒玉から解放された星座達の気配を辿り、今、鴉座以外を従者にしたところだ。
鴉座の存在は、陽炎に預けることにした。そのことに気付くと、鴉座は礼を告げる。
「柘榴――」
「うん、かげ君。有難う……あり、がと、う」
柘榴は締め泣き、陽炎に思いっきり飛びついてから、うおんうおんと大声で泣き出した。
陽炎はそれを優しく抱き留めて、柘榴のしたいようにさせていた。
大声で泣きたければ泣けばいいし、殴りたければ殴ればいい、と。
だが柘榴は陽炎に、父を求めるように抱きつき泣くだけで、何もしなかった。
「かげ君、ほんとは、嫌だったんだ――誰かと深く関われば、不安定な自分がでる。だから、本当は深く関わりたくなかったって気持ちがあったと思う。でも、今、皆がおいらのために色々してくれてる姿見て、おいらは……あんたに出会えてよかったと思う」
「うん、だからこそ、な」
「うん、だからこそ――」
『さよなら』
夕陽は煌めいたまま沈み込み、気付けば夜が空には広がっている。
幾つもの本物の星が広がる中で、二人は、互いに誓った。
お互いの理想を貫くには、互いの存在は、最早要らぬ。最早判りきっている。
互いに、理想は孤独を極めていくことだと判りながらも、理想を貫きたいのだ。
「いつか会いに来てくれ――また話そう」
「かげ君、人と関わってね。白雪たちはおいらに任せて――長生きしてくれよ」
「任せろ、驚くほどの爺になってやるよ」
――二人の間の溝は、埋まり、元通りとはいかなかったけれど、二人の仲はよくなった。
あとは、死ぬまで関わらなければいい話だ――そう、死ぬまで。
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