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第八部 大嫌い
第二十九話 大嫌いだもの(八部終)
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「おいらとあんたは一緒に居たら、ダメなんだって、今回判った。これ以上は、お互い、離れようよ」
「え……」
思いがけない言葉に、陽炎は驚いた。
陽炎は、柘榴を見つめ、魚座も柘榴を見つめ、二人とも不思議そうな顔をした。
柘榴は二人の表情なんか気にも留めず、言葉を続けた。できるだけ、軽く聞こえるように、明るい声で。
「字環と蒼刻一みたいになる。おいら、そのうち本当にあんたが呪いそうなことをしでかしてしまいそうだよ――これ以上憎まれたくない」
「憎まないよ。大丈夫だよ」
「――憎むよ。おいら、だって蒼刻一の不老不死を受け継いだ。またいつ不安定になるか判らないよ? また、何かが起こる前に、おいらから離れたいんだ……もう、歪んで、自分の理想を語れないようになるのは、イヤなんだ……」
「……柘榴、大丈夫だって……!」
「大丈夫じゃないって言える保証、ないでしょー? それに、おいら、あんたのこと……大嫌いだったんだ、大嫌い。大嫌いだよ、ほんとに」
柘榴は、妖術を唱え、その場から姿を消した――そのことに驚いた二人は辺りをきょろきょろとして、柘榴を捜した。
だが残るのは、柘榴の声だけだった。
「黒玉はおいらが持っておくけど、星座は残しておくから。だから――安心して。お幸せにね、かげ君。いつだって、おいらは祈ってるよ。あーたが幸せであること」
「……柘榴……ッお前、側にいるって言ってくれたじゃないか、昔!」
「今のあーたは大丈夫、鴉のにーさんがいるでしょ? 他にもあんたを思う人はいっぱいいる……大丈夫。だから、……じゃあね?」
「待てよ、なら、お前は……お前には――ッ!」
お前には、誰がいるんだ?
一族にも見放され、星座を陽炎の側に置き、寿命が限られてる蒼刻一。
それならば、柘榴の側には誰が居てやれる?
それを言う前に、気配は消えた。
陽炎は、茫然とした……――大事な、大事な人を守るために強くなろうとしたのに。
大事な人を守りたいから強くなりたいと願ったのに。
――貴殿は、人を守ることができるなんて、夢物語を描いてる?
雹が言ってきた言葉を思い出す。成る程、こういうことか、と陽炎は少し悲しく思った。
鴉座が部屋の外から、陽炎を呼んだので、鴉座の元へ行くと、抱きしめられた。
「――……大丈夫です。……私が、貴方がたを繋ぐ橋になりましょう。他の星座も協力してくれる筈です」
「鴉座……――」
「だから、今は泣いてください。人前では泣けぬ日が、いずれ来るでしょう。それまで、私の胸で泣いてください――私は、いつだって貴方の悲しみを受け止めましょう。貴方が泣けぬなら、私が泣きましょう。……――大丈夫、……ッまた、仲良く、……共に居られる日が、来ます」
鴉座が泣いている――珍しいこともあるもんだ、と陽炎はぼんやりと思いながら、そろ、とゆっくり鴉座の背中に手をまわした。彼の胸に顔を押しつけて、声を押し殺した――。
泣いて、今はすれ違った結果を受け止めようと、――努めた。
優しい師匠、優しい星座、優しい親友を失った。
陽炎は、まだ状況に少し混乱していたが、鴉座の言葉により、失ったという現実を思い知らされ、涙が溢れた。
そうだ、失った――暖かい温もりを、失った。
昔描いた、家族像。その中に、柘榴も獅子座も入っていた。絵に描いたように楽しかった家庭。……全てを失った。
その悲しみは計り知れなく――自責の念も強くて。
自責の念まで受け止めようと言ってるのか、鴉座は。彼に抱きしめられていると、自責の念がその時だけは少し薄れて、悲しみを分かち合ってる気がした。
雹の言葉を思い出す。
『誰かを救うほどの優しい人は、強いと悲しいだけですよ』
――救えなかったけど、悲しい結果になったよ、お師匠さん。
陽炎の呟きは、鴉座の胸の中に消えゆく――。
ふと窓辺に飾ってある花に気付き、陽炎は、獅子座を思い出した。
――ダリアの花と、紫蘭。
季節が違うだろ、と、陽炎は少し苦笑したその途端、それは霞のように消えた。
己の罪悪感が見せた幻だったのか、それとも誰かの妖術だったのか――。
獅子座の願いからの幻だったら良かったのに。ふと、思って、目を閉じ、獅子を象った星座を脳に思い浮かべた。
「え……」
思いがけない言葉に、陽炎は驚いた。
陽炎は、柘榴を見つめ、魚座も柘榴を見つめ、二人とも不思議そうな顔をした。
柘榴は二人の表情なんか気にも留めず、言葉を続けた。できるだけ、軽く聞こえるように、明るい声で。
「字環と蒼刻一みたいになる。おいら、そのうち本当にあんたが呪いそうなことをしでかしてしまいそうだよ――これ以上憎まれたくない」
「憎まないよ。大丈夫だよ」
「――憎むよ。おいら、だって蒼刻一の不老不死を受け継いだ。またいつ不安定になるか判らないよ? また、何かが起こる前に、おいらから離れたいんだ……もう、歪んで、自分の理想を語れないようになるのは、イヤなんだ……」
「……柘榴、大丈夫だって……!」
「大丈夫じゃないって言える保証、ないでしょー? それに、おいら、あんたのこと……大嫌いだったんだ、大嫌い。大嫌いだよ、ほんとに」
柘榴は、妖術を唱え、その場から姿を消した――そのことに驚いた二人は辺りをきょろきょろとして、柘榴を捜した。
だが残るのは、柘榴の声だけだった。
「黒玉はおいらが持っておくけど、星座は残しておくから。だから――安心して。お幸せにね、かげ君。いつだって、おいらは祈ってるよ。あーたが幸せであること」
「……柘榴……ッお前、側にいるって言ってくれたじゃないか、昔!」
「今のあーたは大丈夫、鴉のにーさんがいるでしょ? 他にもあんたを思う人はいっぱいいる……大丈夫。だから、……じゃあね?」
「待てよ、なら、お前は……お前には――ッ!」
お前には、誰がいるんだ?
一族にも見放され、星座を陽炎の側に置き、寿命が限られてる蒼刻一。
それならば、柘榴の側には誰が居てやれる?
それを言う前に、気配は消えた。
陽炎は、茫然とした……――大事な、大事な人を守るために強くなろうとしたのに。
大事な人を守りたいから強くなりたいと願ったのに。
――貴殿は、人を守ることができるなんて、夢物語を描いてる?
雹が言ってきた言葉を思い出す。成る程、こういうことか、と陽炎は少し悲しく思った。
鴉座が部屋の外から、陽炎を呼んだので、鴉座の元へ行くと、抱きしめられた。
「――……大丈夫です。……私が、貴方がたを繋ぐ橋になりましょう。他の星座も協力してくれる筈です」
「鴉座……――」
「だから、今は泣いてください。人前では泣けぬ日が、いずれ来るでしょう。それまで、私の胸で泣いてください――私は、いつだって貴方の悲しみを受け止めましょう。貴方が泣けぬなら、私が泣きましょう。……――大丈夫、……ッまた、仲良く、……共に居られる日が、来ます」
鴉座が泣いている――珍しいこともあるもんだ、と陽炎はぼんやりと思いながら、そろ、とゆっくり鴉座の背中に手をまわした。彼の胸に顔を押しつけて、声を押し殺した――。
泣いて、今はすれ違った結果を受け止めようと、――努めた。
優しい師匠、優しい星座、優しい親友を失った。
陽炎は、まだ状況に少し混乱していたが、鴉座の言葉により、失ったという現実を思い知らされ、涙が溢れた。
そうだ、失った――暖かい温もりを、失った。
昔描いた、家族像。その中に、柘榴も獅子座も入っていた。絵に描いたように楽しかった家庭。……全てを失った。
その悲しみは計り知れなく――自責の念も強くて。
自責の念まで受け止めようと言ってるのか、鴉座は。彼に抱きしめられていると、自責の念がその時だけは少し薄れて、悲しみを分かち合ってる気がした。
雹の言葉を思い出す。
『誰かを救うほどの優しい人は、強いと悲しいだけですよ』
――救えなかったけど、悲しい結果になったよ、お師匠さん。
陽炎の呟きは、鴉座の胸の中に消えゆく――。
ふと窓辺に飾ってある花に気付き、陽炎は、獅子座を思い出した。
――ダリアの花と、紫蘭。
季節が違うだろ、と、陽炎は少し苦笑したその途端、それは霞のように消えた。
己の罪悪感が見せた幻だったのか、それとも誰かの妖術だったのか――。
獅子座の願いからの幻だったら良かったのに。ふと、思って、目を閉じ、獅子を象った星座を脳に思い浮かべた。
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