340 / 358
第八部 大嫌い
第二十一話 強くなって欲しくない
しおりを挟む雹は陽炎達がスノードームに入ると、それを胸元にしまい込み、剣を手に、鴉座の縄を斬ってあげた。
斬り解けられた解放感に鴉座はほっと息をつくも、雹に銃口を向けた。
雹はさして驚いた様子もなく、微笑ましげに鴉座を見つめた、銃口ではなく。
「さて、ここで考えられる貴殿の思考回路。もう耐えきれない、糸遊が乱暴にされるのは。それか、糸遊を解放しなさい、かな」
「――違います、あの中に私も入れなさい」
「ふふ、それは無理だ。貴殿には、この中で生き延びることのできる強さはない。糸遊の足手まといになるだけ――足手まといにならない為に、これから俺が鍛えようとしてるんじゃないですか。バカですね、無傷の騎士と呼ばれてることを忘れてるんですか? 銃など効きません、例え頭でもね? それが――無敵という名の、強さです」
「……陽炎は、そんな化け物になるんですか?」
鴉座が化け物と言うと、雹は目を細め、初めて瞳を伏せ目じゃなく見開き、鴉座を見やった。そして、彼の気迫に怯えてる隙に、雹から短銃の先を斬られ、使い物にならなくさせられた。
雹は、淡々とした口調なのに、何処か冷淡さが伺える声で鴉座を説く。
「愚弄するな。強くなろうとする者を、化け物と呼ぶこと、これ即ち、侮辱であり愚弄です。貴殿は、強くなりたいと願った糸遊をバカにするのですか? 弟子二号といえども、許しませんよ。ましてや、可愛い方の弟子を愚弄されたんですから」
「……――昔、誰かの言葉で聞きました。痛み虫が多ければ多いほど、……化け物になると。人間ではなくなると。私は、陽炎に強くなんか……」
「――中途半端な強さは、この国でもよその国でも、死に繋がるだけだ。糸遊ほどの逸材なら、手練れた奴なら速攻潰そうとするでしょう。そんなとき、弱かったら貴殿は責任が取れますか? 中途半端な者の死を目に、笑えますか? こうやって」
雹は笑って見せた――その笑みは、自然体で、どこもおかしくはない。
いつもと変わらぬ笑みで、鴉座は既視感を覚えた。まるで、どこかの自分を見ているようだと。
鴉座は壊れた短銃を捨て、溜息をついた。
「……何を言っても納得しないんですね」
「しないのは貴殿でしょう? どうして強者達の気持ちを判らない? そんなことでは、益々糸遊は孤立してしまいますよ――見たところ、あの人間は、世界最強の環に入るみたいですからね。無事生き延びて、俺の剣の型を覚えれば」
「……はぁ。苛つきますね。お前を殴ることで解消しても宜しくて?」
「――そうですね、武術を教えたいところですが、客が来てるようです。それも……良くない客」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる