【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第八部 大嫌い

第十三話 視線

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「痛み虫を与えます。寄生の仕方はマチエから貴殿の方が詳しいと聞きましたが、俺が与えるのは千以上です。全部、物理ですが、これで多少は怪我に影響されるでしょう」
「千!?」

 陽炎は目を嬉々として光らせ喜んだ。その反応が意外すぎて、雹は苦笑してしまった。隣にいる獅子座は今にも止めようと何か言おうとしていたのに。
 陽炎は痛み虫が限りなくゼロに近い――はっきりいって、ここまで弱い弟子は初めてだ。異国では百の痛み虫と言われたことがあるようだが、それらは全てプラネタリウムに持って行かれたと言った。ならば、幼子並の自衛力しかないのだ。
 剣技を教える前に、丈夫にしなくては話しにならない。
 何より、世界最強になる以上は、どんな攻撃も痛み虫として寄生させるくらいの人間でなくば。
 喜ぶ辺りは、合格かな、と雹は思いながら、痛む虫を与える為の武器庫へと連れて行った。
 武器庫には、かなり豊富に武器があって、中には懐かしくもミシェル刀があった。陽炎はそれを手にとって、鞘から抜いてみた。

「おおー懐かしい」
「見たことあるんですか? かなり辺境の土地から取り寄せたのですが」
「……辺境の土地に、行ったことがあるからな。お、これは……ハーヴィーソード」
「ああ、それは銅貨一枚で貰いました。呪われてるそうです。ここに置いてある武器は全て呪われてますよ。何かしら持ち主が不運の事故でなくなってるみたいです」
「え、じゃあお師匠さん、やばいんじゃ……!」

 陽炎が慌てて手に取った武器をしまうと、雹は爽やかな笑みを浮かべて爽快に笑った。

「ははは、大丈夫です。別の方名義で手に入れ、別の方の名前を毎回武器に貼り付け、亡くなられる度に、ちゃんと新しい方を捜してますから」
「いや、それ人としてどうよ」
「大丈夫です。皆、安楽死を願う者ですから――これでも聖人君子とされてるんですよ、一部では。その評判を落とすなんて、今までの苦労が台無しですからね」
「……――お師匠さん、俺より八方美人……」

 陽炎は呆れてパルチザンに触れて、その柄を見ると、確かに誰かの名前が刻まれている。明らかに雹ではない名前が。可哀想なのか、それともこれでいいのか、何とも複雑な感情。でも安楽死を願うのに不運な事故ならば、それは願ってない死なのだから、可哀想なのかなぁと陽炎は、迷った。
 獅子座はランスを手にして、嬉々としている。

「似合うか? 似合うか、陽炎?」
「おお、似合うな。流石鎧武者」
「いや、騎士だから。おら、騎士だから」

 げらげらと笑っていると、ふと陽炎は何か、懐かしい気配を感じ取り、辺りを見回した。
獅子座もだ。獅子座も懐かしい気配を感じ取り、同時にきょろきょろとした。
 雹は目を伏せたまま、どうしたのですか、と問いかけた。

「――何か、視線が……」
「――……蛮族め。糸遊、獅子、これを額に貼りなさい」

 雹は舌打ちをすると、己の懐からシールのような物を取り出した。描かれているのは、この国の歴史上最大の聖人君子とされた偉人の絵。
 ――だがそれは、柘榴の先祖を殺す原因ともなった、偉人の絵。
 そんなことを知らない陽炎は、言われたとおりに額に貼って、獅子座にも貼ってあげた。
 雹自身も貼り付けて、瞳を武器へと移動させた。
 
「――気配はしませんか?」
「……何でだろう。消えていった」

 陽炎は辺りを見回し、首を傾げた。雹は、そんな陽炎の頭を撫でて、真顔で注意した。

「何者かが、この周辺をうろついてるみたいです。俺が見張ってるので、気にしなくて結構ですが、一応教えておきますね」
「……何で? あ、やっぱりお師匠さん、恨み買ってるんだ?」
「失礼な。感謝された覚えはありますが、恨みなんて……――まぁ、あったとしてもいいじゃないですか。まぁ、この国柄、仕方ない不気味さかもしれませんが」

 雹の言葉に、陽炎は首を傾げた。
 蛮族で、不気味――と陽炎は思考を巡らすが、判らなかった。普段、柘榴や亜弓達、ガンジラニーニのことをそんな風に考えたことなかったからだ。
 だけどこの国だけではなく、世界中でそれは共通する思いなのだ。故に迫害は続く。何せ、彼らには――恐ろしい殺し文句が待っているから。
 国を守り、一般市民や、王を守る騎士という職である雹には、聖霊は忌むべき存在であった。
 何より、自分が死ぬのが嫌だった。

「糸遊、では続けましょうか。ここにある武器で与えられる全ての痛み虫、教授いたします」
「……やった!」
「金貨百枚ですからね」
「金とるのかよ、まだ?!」
「いやー久しぶりのいいカモですから」

 雹は爽やかに言い切ると、金棒を手に取り、構えた。
 陽炎はそれを見て、ああ、とうとう修行が始まるのだな、とわくわくとし、獅子座に下がるよう命じた。
 
 
 ――だが、こんなことは、修行の始まりではなく、基礎の基礎でしかなかった、雹にとっては。
 
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