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第七部 鬼夢花
第三十六話 不満の白雪
しおりを挟む白雪は城の中を歩く。
着物はこの数日で大分慣れた。寧ろ、中々面白い作りなので、一度慣れれば着やすい。
陽炎が出て行ってから城に仕掛けた盗聴器のうち、翡翠たちが居る場所からは翡翠の幸せそうな呟きが聞こえる。
つまりは今がチャンスということだ。
城を散策し、中を歩いて回った。歩いている途中で女中が話し掛けてきたりしたので、そういうときはにこりとお愛想に微笑んでみる。目を見せても怖がられないというのは不思議なもの。この目がまだ白い色素を保っているということは柘榴は死んでない。結構丈夫なのだなぁ、と白雪は思った。
(全てが丸く収まるエンディング? そんなのあったら、誰だって苦労しないさ――)
白雪は柘榴のやりかたにも、陽炎のやりかたにも不満があった。
あの蒼刻一を何故憎めない? 二人とも彼には酷い目にあったではないか。そう、己の時だって許してしまった、彼ら。
不思議で仕方ない。偽善とも違うようだった。彼らは本心から、皆に幸せを訪れさせたいと願っているのだ。
(そんなことを考えていると、いつか悲しむよ。何も出来ない自分の力に――いつか、どうしようもできない出来事ってのがふってくるんだ。そんなとき、一番に傷つき、思うだろう。何故救えなかったと)
白雪は溜息をつき、彼らの未来を思う。
若い。けど、死ぬのがいつと決まってるわけではないから、どこまで生きるのか判らない。特に陽炎は。だから彼には円満な道を歩んで欲しい。そこには、蒼刻一という存在はいらないのだ。
第一、蒼刻一を許してどうする? どのみち彼は――彼は……。
「おや?」
ふと気付く、大きな間らしいのに、厳重に警備兵がいる先の廊下に。
妖術で中身を見ようとしても、一切見ることが出来ない。精術で妨害されているのだな、と気付けば、そこが要なのだと悟る。
――精術で守られてる彼らには、どうすればいい?
ふと考えていると、己の足下に立つ黒い子。ああ、己の妖仔だ、懐かしい。
白雪は愛しげに抱き上げ、微笑む。
「君が手伝ってくれるというのかな?」
蒼刻一が作ったのと違う妖仔なのだから、返事なんてするわけがなかった。ただ、己が無意識に頼ってしまっただけだ。
白雪は彼らに命じる――お盆に特製ブレンドティーを載せて、もっていくよう。
黒い妖仔はお盆を持ち、てこてこと歩いていく。
番人は、おや、と目を見開き、その妖仔に注目する。
「おや、これは何ぞ」
「皆に今、妖仔を見せて回っているところなのですよ。世界で真っ先に名をあげられる術です。その最高傑作ですよ、どうです、この仔の淹れたお茶でも? 暖まりますよ」
「白雪様。これは有難い、ではいただきます……」
番人達は黒い妖仔を可愛がりながら、ブレンドティーを口にする。
変わった味だと喜ぶ番人達は徐々に意識が遠のく。
ブレンドティーには、即効性の睡眠薬が入っていた。そして、そこに前後の記憶を消す薬も。
蠍座に毒薬を教わってて役だったな、と白雪は苦笑し、扉をあけた。
中には、――大きな物体が。そう、万華鏡があった。
(――……これが、かな? 力を感じはしない。だけど――恐ろしさは感じる)
白雪はすっと扉をしめて、湯飲みを片付け謀った形跡も完璧に消して、その場を立ち去った。
(超能力を使った兵器か。エネルギー補給とかなさそうで、怖いな)
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