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第七部 鬼夢花
第二十五話 目覚めた子
しおりを挟む梅は夜はずっと咲き誇り続けていた――朝に己が酒を飲むのをやめるまで。
庭先で梅の花を肴に、酒の酔いに浸る――昔、愛した女の思い出にも浸る。
菫、それは愛した女の名前をそのままつけた名前だった。彼女のことを忘れないようにつけたというのに、菫二世はあと二十日以内に死ぬ。
死に神が見えた、昔から死期が近い人間を目にすると、己は死に神を目にする。
見たくない、来るな、と願っても、死に神は現れ、己に笑いかけ、取り憑いた人物を奪って共に天へ行ってしまう。地獄かもしれないが。
(どうしろと言う――? まだ、子という実感もない子相手に、何を話せと?)
翡翠はぼんやりと梅を見上げ、この寒い風に身を凍えさせる。
ぎし、とふと廊下の軋む音が聞こえた。
後ろを振り返れば誰もいない――気のせいか、と梅を見つめ直せば、梅の前には、一人、誰かが。粉雪のような儚さを漂わせ、存在していた。
「――……あッ」
声をかけたい。
声をかけたいのに、声をかければその存在は妖精のように消えてしまいそうで、思わず言葉を失ってしまう。
「それ」は梅を見上げて、何かぼんやりと考え事をしているようで――何かを思い出そうとしているようで。じっと見上げ、何かを考えている。
小首傾げて、梅にそっと「それ」が触れた時、「それ」が此方に気付いた。
驚いたような目を少し向けたが、表情は無表情をずっと保っている。否、無表情を保っているというよりか――。
「――こ、んば、んわぁ」
「――……今は、朝だ」
「あ、そうか……じゃああ、おは、よう、ござ、います」
まるで寝ぼけていて、たった今起きたような。
にこ、彼が微笑んだ瞬間、今までの一切の悩み事ははじけ飛んだ。
見かけはあんなにも大人なのに、どうしてこう、好みのどストライクをいくのだろう。
何と幼い笑みなのだろうか!
翡翠は鼻以外から、破裂するように、血を噴出させて、彼を驚かせる――。
――目覚めた水子、幽霊座を。
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