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第七部 鬼夢花
第二十二話 力がないということ
しおりを挟む陽炎は、どうしたらいいのか、判らなくて、一人部屋に籠もっていた。
心配して白雪が来たりしたが、追い返した。
陽炎が白雪を拒否するなんて初めてで、星座一同は驚き、戸惑ってしまった。だが、それでも陽炎や柘榴を心配しないわけにはいかない。
星座たちは特に、柘榴から言いつけられていた。もしも己が居ないときに、己に何かあったときは心配するよりも先に、陽炎を気遣うこと、と。
言われたときは皆、そんなの当然だ、と思っていたが、いざ二人同時に何か起こるとどうしたらいいのか判らない。ただ、陽炎がふさぎ込む姿なんて見たくないから、励ましたい。励ましたいのに、陽炎は誰一人受け入れてくれない。
これは、あの星座しか受け入れてくれないのだろう、あの闇鳥しか。
だがしかし、鴉座が心配というのもあって、陽炎は落ち込んでいるのもあったのだ。
鴉座、柘榴、菫、いっぺんに心配事が三つきてしまった。
陽炎は不安定な気持ちに、くそ、と顔を顰めて己の部屋で膝を抱えて蹲る。その姿は拗ねてるようにも見えるが、落ち込んでいるだけ。
何も出来ない、何も手助け出来ない三人。
柘榴と同じことを感じていた、無力だということに――。
(俺には妖術も、何もない――不老不死も怖い……でも、三人を助ける方法が判らない)
陽炎は、少し血の付いた扇を見やり、鴉座を思う――あの折れた羽は痛かっただろうか、あの羽は再び飛べるのだろうか、彼はもう傷は癒えてるだろうか――。
昔、白雪が黒雪だった時に思ったことを思いだした。
力があることは、何て可哀想なのだろう、と思ったことがあった。だが実際どうだ。力がない方が不便で仕方がない。こんな自分では、いつしか本当に何かあった時、力不足で後悔する――。
(力がない方が哀れなのか、力がある方が哀れなのか――もう判らない)
陽炎が、くそ、と呟くと、何処かで何か声にならない声が聞こえたような気がした。
陽炎の耳には届いていない――「悲しまないで」という、何者かの声が。
丑の刻――心配になった陽炎は医療室を訪れる。
いつまでもうじうじしてても仕方がないと思うまで時間はかかったが、漸く少し気持ちが前向きになってきたのだから、行動せねばならないと思い、医務室にこっそりと訪れようとした。
その時――廊下で、音がした。
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