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第七部 鬼夢花
第十一話 音の立てられない街
しおりを挟む「逢魔が時――ね」
「気になるのか」
「逢魔が時は古来から、不思議な物と人が入り交じる時間とされてきたんだよ。だからね、あながちオニっていうのも嘘じゃないんだろうなって。だって――外から、もう声が聞こえないもの」
先ほどまでは、城下町の賑やかな喧騒が聞こえていたのに、今はすっかりしーんとして、何処か寒々しくて、寂しい。
町民達は命令でもされたかのように、一切音をたてない城下町にしている。音を立てないというか、音を「たてられない」町。
その静けさが、オニの存在を半分見せているような気がした二人。
陽炎は白湯をもう一口口にして、夢を思い出しかけた時――部屋に悪魔座がやってきた。
「聖霊、聖霊。あ、陽炎、やぁ」
「よぉ」
「んー何? あくまん」
柘榴がそう呼んで振り返ると悪魔座は嫌そうな顔をして、嘆息をつく。
「あくまんって……なんかあんまんみたいだから、やめるんだね。酷いんだね。ぼかぁ子供なのに、ぼかぁ駄目なんだって、交渉手段には」
「ああ、あんた無垢じゃないからね」
「――……そんなに無垢が大事なのかね。ね、ゴーストにも布団っていうのを味わわせたいから、ゴーストを出してくれないかね? ゴースト、きっと窮屈だよ、その中」
「あー、はいはい。いいよ。しっかし、仲良いね、本当あんたら」
「同じ闇の十二宮だからね」
悪魔座は苦笑を浮かべて、眠れる幽霊座を出して貰うと、一生懸命にその小さい身で抱えて行こうとするので、陽炎はつい「俺、手伝うよ。背負ってやる」と幽霊座を背中に乗せて部屋から出て行ってしまった。
「助かるね!」
そうすると悪魔座がにこにこと微笑むので、悪い気はしない。
ちょっと幽霊座はあまり好きではないけれど、その感情は嫉妬からくるものなのだから、彼が悪いわけではない。
悪いのは、何処か彼らを特別扱いしてる鴉座だ、と責任転嫁を終えたところで、陽炎は悪魔座にまたその話をする。
「何で闇の十二宮たちは、鴉座と仲が良いんだ?」
「おやおや、また嫉妬かね? 正確には、ゴーストがカラス兄さんを慕う理由が知りたいんだね? でも、ぼかぁ教えないね。だって――秘密、だからね。でも嫉妬しなくてもいいと思うんだがね」
その返事は何回も聞いた。
陽炎はまたか、とため息をついたところで、ふと誰かの立ち話を耳に入れてしまう。
「菫様は、大丈夫なのかしら、あのままで……」
「お食事だって、二日に一回しかお取りになる時間がなくて……」
「翡翠様に言っても、翡翠様は『仕方ないことだ』で終わるのよ……困ったわね」
――いったいどういうことだ。
菫は、この国で働いてるのではないのだろうか。
働いているならば、寝食住を保証されてるのではないのだろうか?
そこまで考えて、陽炎は、ふとあの日の夜にされたことを思いだし、今の話を聞かなかったことにする。
(ばかばかしい――俺が、スミレを気にするなんて)
そう、彼は己を辱めた人間なのだ、そんな人物を気に掛けてどうする?
陽炎は、嘆息をついて、その場から立ち去った、だからこんな言葉は聞こえてない――。
「菫様、――実の父親にも見捨てられるなんて、可哀想ね」
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