【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
281 / 358
第七部 鬼夢花

第八話 お前には甘えられるのに

しおりを挟む
 
 長旅は疲れる――ユグラルドよりも遠いこの地に来るなんて、夢にも思わなかった。夢のような異国は、本当に何から何まで向こうの国と違っていて、まるで異世界に迷い込んだようだった。不思議な単語も、白雪と翡翠の間で飛び交っていたし、それでも向こうの国の言葉が通じるのが凄いな、と思った陽炎。
 後で白雪に聞いたのだが、この国の第二国語は、陽炎たちの住んでる地域の言葉なのだそうだ。
 陽炎はソファーも椅子もないので、何処に座るのだろうと不思議に思ったが、柘榴が座布団を出し、低いテーブルのようなものの側で敷いて座ったので、見よう見まねで座ってみる。

「かげ君、足つらかったら、伸ばしていいよん」
「え、あ、いいのか? ああ、助かった。正座は苦手なんだ」

 陽炎は綻んで足を伸ばし、あーっと呻いた。
 それから柘榴に、室内に置かれていたポットから茶を作られて、湯飲みに注がれたそれを出される前に、ストップをかけると、柘榴は白湯を出してくれた。己が苦いのが嫌いなのを柘榴は判ってくれていた。
 礼を告げ、湯飲みの白湯を一口飲んで、陽炎はため息をついた。

「どうしたの?」
「ん――、あの夜のことが、なかったことにならないかなぁって思って」
「ああ、浮気した夜ね」

 柘榴がげらげらと笑う――此方にとっては笑い事ではないというのに、柘榴は面白い冗句でも聞いたように、おかしそうに笑っている。

「おいら、あんたは絶対浮気はしない人だと思ってた」
「――るせぇよ。俺だって思ってたよ。だから、あれは……ッもういい」
「こらこら、拗ねない拗ねない」

 柘榴はくすくすと笑い、陽炎をあやすように頭を撫でて、ふと懐かしさを感じる。
 何だか彼と二人きりで話すのは久しぶりのような気がして、何処か落ち着く。
 嗚呼、居場所がある――と落ち着くことが出来る。魚座とはまた違った落ち着き方。だから、自分はきっとこの自分より年上の友人に甘いんだろうな、と一人納得した。

「かげ君、皆、あんただから取り合っちゃうんだよ」
「は?」
「あんたって人に警戒心高い癖に、一度懐くととことん不器用な甘え方をするからさ、それが癖になるんだろうね」
「……何ソレ、不器用な甘え方って」

 陽炎はその言葉に不満そうに、だけどあながち間違いではないので、少し控えめの小声で柘榴に視線で咎めた。
 柘榴はにこにことしながらお茶を一口飲んで、体を温める。

「んー、ほら、なんつーの? 小さい子供が甘えたいけど親が忙しそうで我慢してて、でもちょっぴり自己主張したくて、親がイッテキマスの時に服の裾を掴んで無言になっちゃう感じ?」
「……――リアルだな、例え方が。確かに俺は甘えるのが苦手だよ。お前には、甘えられるのになぁ」
「あはは、かげ君、それ鴉のにーさんとかの前で言うなよ?」

 でないと、笑顔で何か弱みを握られて脅迫されかねない。陽炎に近づくなとかそういう類で。陽炎の言葉に動揺しなくなった己にふと気付いた柘榴は、己は恋心を捨てることが漸く出来て、新しい恋を見つけてるのだな、とふと脳裏によぎった女性に、はぁとため息をつく。
 よりによって、星座。よりによって、蒼刻一の妖仔。よりによって、あの女王。
 これは早くあの星座を解放してやるしかないな、と柘榴は諦める。だって、それならば己はこの恋を認めると約束したのだから。
 それでも蒼刻一を殺さないで解放する術なんて、どうすればいいのか、まだ見当もつかない。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...