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第七部 鬼夢花
第七話 異文化
しおりを挟むとても、不思議な目をしている。
色合い的にも、少し珍しい色だ。何処か頼りたくなる色をしている――それに、少し顔つきも幼いからか、無垢に見えてしまう。そんなことなど、決してないというのに。
彼に頼ることで、この国に纏わる呪縛のような物が、解き放たれたらいいのに。ふと、翡翠はそう思い、気紛れを起こした。
「……陽炎もよしとしよう。菫が気に入ってる人間だ、どのような人間か興味ある――」
「――はぁ、有難う御座います」
陽炎が追加されたことに、白雪は苦笑してしまった。
己の弟は本当に、誰でも彼でも惹きつけるのだなぁ、と半ば感心し、少し妬いた。可愛い弟が好奇の視線に晒されるのは嫌だからだ。
だがそんな思惑など無視して、翡翠が声をかけてくる。
「今日は飯はどうする――そちは、そちでとりたいか、黒雪」
「ああ、そうですねー。うちの家族だけ殿下とご一緒させて頂きます。家内と蓮見も連れて行きますので」
「――だそうだ、頼むぞ、飯の支度は。別々だ」
「っは、御意に、殿下」
側の部下が頭をさげ、すすっと器用に頭を下げたまま、後ろへ下がり、立ち上がる。そして、出て行く。
白雪はそれと、と名前の訂正をしておいて、蓮見と大犬座を手招き、頭を下げてから出て行く。
もう翡翠が見えなくなった場所で、白雪は、ふぅん、と何か考えて頷いたので、陽炎は興味津々にどうしたの、と尋ねる。
「いや、なんかやっぱり外見老けてないから、年は噂通りなんだなって思って。陽炎君、気に入られてしまったね」
「……何でだろうな」
「君はやっぱりオレの弟だ。そういう星の下に生まれてきたんだよ――うん」
「そんなんじゃ納得出来ないって。ねぇ、かげ君?」
くすくすと柘榴は笑い、陽炎の首根っこをとっつかまえて、引っ張っていく。
「んじゃ、後は任せたからー。おいらたち、部屋で休んでるわ」
「ああ――大犬の仔はまた後でね。涎垂らしてないから、あれはまだ陥落してないレベルだ。まだまだ君と蓮見は好みになってない。仕草で好みのレベルにさせるから」
「……雪ちゃん、手段を選ばないわね。……それにしても驚いたわ。翡翠ちゃんって、角が四本あったわ! 何処か牙っぽい感じのものもあったし」
「……――そこにも秘密がありそうだよね。こう、オタクとしては是非とも知りたいことだから、頑張ってね、大犬の仔、蓮見、陽炎君」
「何で俺が入ってる」
陽炎がうんざりとした表情で嘆息をつき、白雪を見やる。
それから、柘榴と共に歩き出し、部屋に戻っていく。鴉座と陽炎の部屋が別々なのは菫が部屋分けをしたと思われる。陽炎と柘榴が同じ部屋で、鴉座はよりによって蠍座と同じ部屋だ。しかも遠く離れている。
「……――何かこういう建物って天守建築の連立式っていうんだって」
「……見たことない建物だよなぁ。さっき、翡翠と会った場所にも驚いた!」
「ああ、うん、あれね。驚いたよね――あんなに大勢の人が、土下座みたいなことしてるんだもの。なんか嫁に行くとき、此処の人たちはああいう姿勢で、三つ指ついて、“ふつつかものですが、宜しくお願いします”って言うらしいよ」
「なんだそりゃ。わけわからんなー」
途中の通路で、何者かが話し込んでいた、目を向けるとささっとゴキブリのように素早く散り、どこかへ行ってしまった。
柘榴は小首傾げて、彼らによくないものを感じて、通り過ぎた通路を振り返り、睨み付けていた。そうしていると、何時の間にやら、着いていたようだ。
「……――あ、部屋についた、此処だよ、俺たちの部屋」
「へぇ、襖かぁ――どうやって鍵かけるんだろう、あ、この棒をつっかえにして……成る程ねー」
二人は部屋に入ると、城の中に入るときに脱いだ靴を持って上がり込み、ふーっと息をついた。
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