【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
272 / 358
第六部~梅花悲嘆~

番外編6 悪魔座

しおりを挟む
 月に出るだけが、幽霊ではない。
 闇に出るだけが、悪魔ではない。
 
 朝に例えば、支度を調えて、出かける準備をすれば、ハイキングにだっていける。
 いける、筈なのに。
 
「ちょっと、重い……つぶ、潰れる!!」
 
 がらがらがらっと、音を立てて、支えの扉を失い、悪魔座は倒れた。
 背中の幽霊座が重すぎて。というか、でかすぎて。
 当然だ、自分は鷲座と大体変わらぬ背丈なのに、鴉座くらいある背丈の幽霊座を背負って移動しようとしたのだから。
 それも小脇に他の物を抱えて。
 早朝だったからか、まだ誰も起きてはおらず。幸いなのか、不幸なのか、音が響き渡るだけで、誰も来なかった。
 悪魔座は、やっとの思いで、幽霊座の下から這い出て、溜息をついた。
 
「お兄ちゃんは、こんな大きい弟を持った覚えはないんだね!」

 こんなときだけ、兄貴面。悪魔座は、幽霊座を睨み付けて、どうしよう、とうなだれる。
 幽霊座は眠っているけれど、出かけたい。出かけて、何か衝撃を与えたい。起きてしまえるような衝撃を。
 彼の好きそうな玩具があれば買いに行ったし、彼の好きそうな遊びがあったら、眠ってる彼に教えてあげた。
 でも、幽霊座は一切反応しなかった。寝言の一言ですら、言わなかった。
 もしも、起きてるときに、あげていたら、きっと彼は白目と黒目をおろおろ動かし、喜んでいただろう。己にとっては可愛らしい笑みを浮かべてくれていただろう。
 悲しいかな、今は眠っている幽霊座。
 すやすやと眠る姿は、冬眠ではなく、夏眠のようで。
 
 悪魔座は溜息をついて、幽霊座を引っ張り、部屋に戻した。
 小脇に持っていた荷物達は後から、拾って、部屋の中に置いた。

「――……きっと、アトューダ様が、きみに恋するなって言ってるんだね」

 悪魔座は苦笑して、悪魔座をベッドに戻そうとする。
 大きな体は中々持ち上がらなくて、元の位置に戻そうとするだけでも一苦労。
 漸く元の位置に押しやることができたとき、幽霊座が笑ったような気がして、悪魔座は思わず、秘密の名前を呟いていた。

「カレン――?」
「お……にぃちゃん……」

 寝言。
 寝言だが、己を求められた。
 大声を出すわけにはいかなかったのに、悪魔座は堪らず、幽霊座を揺さぶっていた。

「もうお兄ちゃんでいいよ! お兄ちゃんでいいから、起きて! 起きるんだね、カレン! 起きて、一緒に――……」

 揺さぶってると、幽霊座は言葉を無くし、寝言をもう呟かなくなった。
 ただ一つの行動で、彼の言葉を邪魔した。後悔の念は強く、悪魔座にのし掛かる。

(何が、お兄ちゃんでいいから、なんだか。――ぼかぁ、きみが起きることを願うが、起きたとき、どう接すればいいんだか、さーっぱりだね)

 秘密の兄として接するべきなのか、片恋するものとして接するべきなのか。
 ただ。今は――。
 
 この唇が愛おしいから、内緒で、彼にキスをするだけ――。
 
「いつか、行こうね。ハイキングや、ピクニック」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...