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第六部~梅花悲嘆~
番外編3 大犬座と蓮見
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優しい優しい子と、可愛がられていると、いつも影からこっそり羨ましそうにしているのが大犬さん。
かげろちゃんはぼくを、過保護なほどに可愛がっている。
だけど僕が生まれるまでは、その愛は大犬さんのものだったらしい。
大犬さん、それならぼくのこと嫌いなんだろうな、って思った。
だけど、思い切って聞いてみたら、答えは違った。
「え? あたし、好きよ。蓮見ちゃんも、陽炎ちゃんも。陽炎ちゃんなんか、甥馬鹿ってあたりも可愛いと思えるわ!」
「でも、いつも――羨ましそうに、見てるから、嫌いなんだと思った。ぼくのこと」
「そうね。羨ましいわ、確かに。でも、どんなに羨ましく思ったって、その位置になれるわけがないじゃない?」
大犬さんはにこりと笑って、ケーキをもぐもぐと食べた。
今はお茶の時間。パパに大犬さんのことで相談したらこうして二人で話す時間を作ってくれて、ママはバナナの果肉たっぷりのケーキを焼いてくれた。
バナナの果肉と、ホットケーキみたいな食感のスポンジがとても美味しくて、ママは料理上手なんだな、って思った。
大犬さんは喜んで来てくれて、きぱっと嘘を一つも零すことなく、誠実に答えてくれた。
ぼくが大犬さんをじーっと見ていると、「食べないなら貰うわよ?」と悪戯めいた笑みを浮かべた。
ぼくは慌てて食べて、取られまいと必死になった。
「蓮見ちゃん。あたしが陽炎ちゃんのこと好きなの、知ってるわよね」
「うん」
「確かに嫉妬はするわ? でもその人しか得られないポジションだってあるって思うの。鴉座っちは恋人、柘榴ちゃんは親友、雪ちゃんはお兄ちゃん。あたしのポジションはね……」
妹系かなぁ、って思っていたら、驚くべき言葉が聞こえた。
「シモネタ系よ!」
「……――……大犬さん。あの、それ、やんなくていいと思う……っていうか、ずれてると思うよ」
「何言ってるの、蓮見ちゃん。あたしはね、陽炎ちゃんを辱めて顔を赤らめさせることを夢に生きてるのッ。昔は子供を孕むことだったけど、……皆して、無理だって言うんだもーーーん!!!」
大犬さんは顔を伏せて、うわぁああんと泣いた。泣き声に驚いたのか、ママがやってきた。
ママは大犬さんを抱き上げて、頭を撫でていた。
「どうしましたの、大犬様」
「うっ、うっ、何でもないわ。大丈夫よ、羊ちゃん。ああー、いいなぁ。あたしも、羊ちゃんみたいに子供産みたいなぁー好きな人の。それで、蓮見ちゃんみたいに美形な子供が生まれるの」
「ふふ、急がなくても大丈夫ですわ。長い月日をかけて、大きくなれば宜しいんですわ」
「長い月日かけたって、髪の毛が数センチ伸びる程度よー? 背だって、三センチしか伸びてないし。……と、まぁこんなわけで、貴方のことは嫌いじゃないわよ、蓮見ちゃん」
「……――大犬さんは、かげろちゃんを諦めようと思わないの?」
「誰が諦めるものですか! 誰にも邪魔させないわ、この恋心はッ! ……一方的に思い続けるのは、確かに疲れるけれど……。でも、やっぱり、あたしには陽炎ちゃんしかいないと思ってるの」
大犬さんはママに笑いかけてから、下ろして貰い、ぼくに笑いかけた。
ぼくの耳元で、それに、とママに聞こえないように囁いた。
「それに、蓮見ちゃんだって、雪ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「!!」
――ぼくは、少し言葉に詰まった。
パパのこと、ばれてるんだ。大犬さんには。パパのことが大好きだってばれてるんだ。
大犬さんはくす、と笑ってぼくの頭を撫でた。
「大丈夫よ、誰にも言わないわ。ほら、そうなるとあたし達、同じような者じゃない。そんな同胞を嫌えって? ばかばかしい。あたしが嫌いなのは、陽炎ちゃんに仇をなす奴だけよ。あと蟹座っち! バカにしてくるから!」
「――……大犬さん」
大犬さんって、かっこいいな。どうして、女性なのにそんなにかっこいいんだろう。
ぼくがいつか大人になっても、この人が変わってなかったら、また色々話したいと思った。
その時には時代も環境も変わってるかもしれない。だけど、大犬さんだけは何があっても変わってない気がしたから。
大犬さんにだけは、ママにもパパにも言えないこと、こっそりと言えそうな気がした。
「蓮見ちゃん、頑張って、イイ大人になりましょう! それで、魅力的になるのよ!」
「う、うん! そうだね、大犬さん!」
ぼくは、フォークを握りしめ、こくっと頷いた。
大犬さんが帰った後から、パパがやってきて、どうだった? と聞かれた。
「仲直り、できたの?」
「今まで以上に、仲良くなれた」
「良かったね――あの子は、いい子だからね。何かあったら、頼りなさい。今は年が近い者同士、何か共感するものがあるだろう」
うん、そうだね。
例えば、恋愛感情。
大犬さんは陽炎さんのことが好きだけど、どうやったって恋人になれないって頭では判ってる。
ぼくはパパのことが好きだけど、ママから取るのはイヤ。
だから、ぼくらには同じ思いが宿って居るんだ。
大犬さん、また、一緒に遊ぼうね――ぼく、大犬さんと遊びたい。
二人で、ミシェル、頑張ろうね?
かげろちゃんはぼくを、過保護なほどに可愛がっている。
だけど僕が生まれるまでは、その愛は大犬さんのものだったらしい。
大犬さん、それならぼくのこと嫌いなんだろうな、って思った。
だけど、思い切って聞いてみたら、答えは違った。
「え? あたし、好きよ。蓮見ちゃんも、陽炎ちゃんも。陽炎ちゃんなんか、甥馬鹿ってあたりも可愛いと思えるわ!」
「でも、いつも――羨ましそうに、見てるから、嫌いなんだと思った。ぼくのこと」
「そうね。羨ましいわ、確かに。でも、どんなに羨ましく思ったって、その位置になれるわけがないじゃない?」
大犬さんはにこりと笑って、ケーキをもぐもぐと食べた。
今はお茶の時間。パパに大犬さんのことで相談したらこうして二人で話す時間を作ってくれて、ママはバナナの果肉たっぷりのケーキを焼いてくれた。
バナナの果肉と、ホットケーキみたいな食感のスポンジがとても美味しくて、ママは料理上手なんだな、って思った。
大犬さんは喜んで来てくれて、きぱっと嘘を一つも零すことなく、誠実に答えてくれた。
ぼくが大犬さんをじーっと見ていると、「食べないなら貰うわよ?」と悪戯めいた笑みを浮かべた。
ぼくは慌てて食べて、取られまいと必死になった。
「蓮見ちゃん。あたしが陽炎ちゃんのこと好きなの、知ってるわよね」
「うん」
「確かに嫉妬はするわ? でもその人しか得られないポジションだってあるって思うの。鴉座っちは恋人、柘榴ちゃんは親友、雪ちゃんはお兄ちゃん。あたしのポジションはね……」
妹系かなぁ、って思っていたら、驚くべき言葉が聞こえた。
「シモネタ系よ!」
「……――……大犬さん。あの、それ、やんなくていいと思う……っていうか、ずれてると思うよ」
「何言ってるの、蓮見ちゃん。あたしはね、陽炎ちゃんを辱めて顔を赤らめさせることを夢に生きてるのッ。昔は子供を孕むことだったけど、……皆して、無理だって言うんだもーーーん!!!」
大犬さんは顔を伏せて、うわぁああんと泣いた。泣き声に驚いたのか、ママがやってきた。
ママは大犬さんを抱き上げて、頭を撫でていた。
「どうしましたの、大犬様」
「うっ、うっ、何でもないわ。大丈夫よ、羊ちゃん。ああー、いいなぁ。あたしも、羊ちゃんみたいに子供産みたいなぁー好きな人の。それで、蓮見ちゃんみたいに美形な子供が生まれるの」
「ふふ、急がなくても大丈夫ですわ。長い月日をかけて、大きくなれば宜しいんですわ」
「長い月日かけたって、髪の毛が数センチ伸びる程度よー? 背だって、三センチしか伸びてないし。……と、まぁこんなわけで、貴方のことは嫌いじゃないわよ、蓮見ちゃん」
「……――大犬さんは、かげろちゃんを諦めようと思わないの?」
「誰が諦めるものですか! 誰にも邪魔させないわ、この恋心はッ! ……一方的に思い続けるのは、確かに疲れるけれど……。でも、やっぱり、あたしには陽炎ちゃんしかいないと思ってるの」
大犬さんはママに笑いかけてから、下ろして貰い、ぼくに笑いかけた。
ぼくの耳元で、それに、とママに聞こえないように囁いた。
「それに、蓮見ちゃんだって、雪ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「!!」
――ぼくは、少し言葉に詰まった。
パパのこと、ばれてるんだ。大犬さんには。パパのことが大好きだってばれてるんだ。
大犬さんはくす、と笑ってぼくの頭を撫でた。
「大丈夫よ、誰にも言わないわ。ほら、そうなるとあたし達、同じような者じゃない。そんな同胞を嫌えって? ばかばかしい。あたしが嫌いなのは、陽炎ちゃんに仇をなす奴だけよ。あと蟹座っち! バカにしてくるから!」
「――……大犬さん」
大犬さんって、かっこいいな。どうして、女性なのにそんなにかっこいいんだろう。
ぼくがいつか大人になっても、この人が変わってなかったら、また色々話したいと思った。
その時には時代も環境も変わってるかもしれない。だけど、大犬さんだけは何があっても変わってない気がしたから。
大犬さんにだけは、ママにもパパにも言えないこと、こっそりと言えそうな気がした。
「蓮見ちゃん、頑張って、イイ大人になりましょう! それで、魅力的になるのよ!」
「う、うん! そうだね、大犬さん!」
ぼくは、フォークを握りしめ、こくっと頷いた。
大犬さんが帰った後から、パパがやってきて、どうだった? と聞かれた。
「仲直り、できたの?」
「今まで以上に、仲良くなれた」
「良かったね――あの子は、いい子だからね。何かあったら、頼りなさい。今は年が近い者同士、何か共感するものがあるだろう」
うん、そうだね。
例えば、恋愛感情。
大犬さんは陽炎さんのことが好きだけど、どうやったって恋人になれないって頭では判ってる。
ぼくはパパのことが好きだけど、ママから取るのはイヤ。
だから、ぼくらには同じ思いが宿って居るんだ。
大犬さん、また、一緒に遊ぼうね――ぼく、大犬さんと遊びたい。
二人で、ミシェル、頑張ろうね?
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