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第六部~梅花悲嘆~
番外編1 家族写真
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今日という日を、覚えられないから。
いつまでも覚えられないから、形にしたいことがある。
形に残せば、いつかは貴方と笑って、話せるでしょう?
「はぁ、写真?」
「はい、愛しの我が君と撮りたいなーって思いまして」
私が微笑むと、陽炎はたいてい甘くなる。文句を言おうにも、文句が思いつかないで不機嫌になる。微笑んで、頭を撫でれば、視線を彷徨わせて、照れるのだ。
なんて、可愛い人なのだろう。
「何で……高いじゃねぇか、写真って。一枚幾らすると思ってるんだ? 金貨三枚だぞ!? 部屋が増築できるじゃん! 蓮見専用の部屋が作れる!」
「――この甥馬鹿が。私は、貴方といつも一緒にいたいけど、そうはいかないみたいですし」
「え?」
「浮気。されたじゃないですか」
にっこり笑えば、彼は私に弱くなる。後ろめたさで、口をぱくぱくとさせ、額を両手で押さえて項垂れる。
それで得られる言葉は、了承の類だ。
当日、写真家を呼ぶと、物珍しさに白雪がこんなことを言い出した。
「それなら皆で撮ろうよ。オレも家内や、皆の写真、欲しいな」
「えー、おいらめんどい。勝手に撮ってて」
「聖霊ちゃんと撮りたいー」
「一緒に撮らないと絶交すんぜ、柘榴」
「……この甥馬鹿がっ!!」
我が主人も、愛しのあの人には弱くて。時々、その思いは本当に友情なのかと疑ってしまうときがある。
一度、恋しい人が誰かと寝てしまうと、ライバル達が「その手があったか」と言わんばかりに、襲ってくるんじゃないだろうかと思ってしまう。
鷲座はかちかち頭で堅いからないとして、蟹座なんかはあり得そうだ。
そういうときは。
「愛しき霊鳥、あの蟹のお隣に写ってみてはいかがでしょう?」
「……まぁ、でも蟹座様、許してくださるかしら……」
「大丈夫ですとも。彼はきっと心が広いので」
そういうときは、この女をし向けるに限る。
彼女の報われ無さは可哀想だが、利用するに越したことはない。ほら、蟹座は案の定、何かする気力なくして、魂が抜けてる。鳥肌が見える。
「大人の余裕持った方がいいよ、鴉座」
冠座から笑われた。彼女には、いつも心を見透かされてる気がする。
だがそれが不思議と心地良いから、私は苦笑して、彼女の頭を撫でた。
「何で、写真なんて撮ろうと思ったの?」
「――柘榴様と、陽炎の話。ご存じですか?」
冠座は首を縦にふった。
知ってるなら、言わせないでくださいな。
もしも、あの方が自然死する方を選んだなら、いつかは私とあの人は離ればなれになってしまうかもしれないじゃないですか。
そう、死というどうしようもない垣根で。
私はどうやっても、死ぬことができない。きっと彼と共に消えたいと願っても、彼は許さないでしょう。
そんなとき、どうやって孤独に耐えればいい?
永久の時を、どう蒼刻一様のように狂わず、耐えればいい? 今まで思いもよらなかった、自分の時を埋める方法なんて。
陽炎は、白雪や蓮見と写真を撮って、柘榴様とはしゃいで裏ピースして写真を撮ってる。
この愛おしい光景が、いつかは崩れる。
だって、彼らに流れる時間は、陽炎次第だから。陽炎が選べば、同じか、別つかのどちらか。
でも、陽炎は永久を嫌いそうだから、きっと――別つときがくる。
とこしえの闇に一人きりなんて、耐えられない。
だから、私は――。
「鴉座、撮ろうぜ!」
「――抱きしめても宜しくて? 愛しの我が君」
今日という日を、覚えられないから――貴方が死んでしまうことが辛すぎて。
いつまでも覚えられないから、形にしたいことがある――形があればそれに縋って笑えるでしょう?
形に残せば、いつかは貴方と笑って、話せるでしょう――そう、墓を作って。そこの墓守となりましょう、私は。
そして、貴方だけの番人に。
だから、その為に、家族写真を撮りましょう?
永久なんてものが人にはないけれど、写真だけは人を永久だと思わせるから。
幸せだった貴方を、思い出せるから。
いつまでも覚えられないから、形にしたいことがある。
形に残せば、いつかは貴方と笑って、話せるでしょう?
「はぁ、写真?」
「はい、愛しの我が君と撮りたいなーって思いまして」
私が微笑むと、陽炎はたいてい甘くなる。文句を言おうにも、文句が思いつかないで不機嫌になる。微笑んで、頭を撫でれば、視線を彷徨わせて、照れるのだ。
なんて、可愛い人なのだろう。
「何で……高いじゃねぇか、写真って。一枚幾らすると思ってるんだ? 金貨三枚だぞ!? 部屋が増築できるじゃん! 蓮見専用の部屋が作れる!」
「――この甥馬鹿が。私は、貴方といつも一緒にいたいけど、そうはいかないみたいですし」
「え?」
「浮気。されたじゃないですか」
にっこり笑えば、彼は私に弱くなる。後ろめたさで、口をぱくぱくとさせ、額を両手で押さえて項垂れる。
それで得られる言葉は、了承の類だ。
当日、写真家を呼ぶと、物珍しさに白雪がこんなことを言い出した。
「それなら皆で撮ろうよ。オレも家内や、皆の写真、欲しいな」
「えー、おいらめんどい。勝手に撮ってて」
「聖霊ちゃんと撮りたいー」
「一緒に撮らないと絶交すんぜ、柘榴」
「……この甥馬鹿がっ!!」
我が主人も、愛しのあの人には弱くて。時々、その思いは本当に友情なのかと疑ってしまうときがある。
一度、恋しい人が誰かと寝てしまうと、ライバル達が「その手があったか」と言わんばかりに、襲ってくるんじゃないだろうかと思ってしまう。
鷲座はかちかち頭で堅いからないとして、蟹座なんかはあり得そうだ。
そういうときは。
「愛しき霊鳥、あの蟹のお隣に写ってみてはいかがでしょう?」
「……まぁ、でも蟹座様、許してくださるかしら……」
「大丈夫ですとも。彼はきっと心が広いので」
そういうときは、この女をし向けるに限る。
彼女の報われ無さは可哀想だが、利用するに越したことはない。ほら、蟹座は案の定、何かする気力なくして、魂が抜けてる。鳥肌が見える。
「大人の余裕持った方がいいよ、鴉座」
冠座から笑われた。彼女には、いつも心を見透かされてる気がする。
だがそれが不思議と心地良いから、私は苦笑して、彼女の頭を撫でた。
「何で、写真なんて撮ろうと思ったの?」
「――柘榴様と、陽炎の話。ご存じですか?」
冠座は首を縦にふった。
知ってるなら、言わせないでくださいな。
もしも、あの方が自然死する方を選んだなら、いつかは私とあの人は離ればなれになってしまうかもしれないじゃないですか。
そう、死というどうしようもない垣根で。
私はどうやっても、死ぬことができない。きっと彼と共に消えたいと願っても、彼は許さないでしょう。
そんなとき、どうやって孤独に耐えればいい?
永久の時を、どう蒼刻一様のように狂わず、耐えればいい? 今まで思いもよらなかった、自分の時を埋める方法なんて。
陽炎は、白雪や蓮見と写真を撮って、柘榴様とはしゃいで裏ピースして写真を撮ってる。
この愛おしい光景が、いつかは崩れる。
だって、彼らに流れる時間は、陽炎次第だから。陽炎が選べば、同じか、別つかのどちらか。
でも、陽炎は永久を嫌いそうだから、きっと――別つときがくる。
とこしえの闇に一人きりなんて、耐えられない。
だから、私は――。
「鴉座、撮ろうぜ!」
「――抱きしめても宜しくて? 愛しの我が君」
今日という日を、覚えられないから――貴方が死んでしまうことが辛すぎて。
いつまでも覚えられないから、形にしたいことがある――形があればそれに縋って笑えるでしょう?
形に残せば、いつかは貴方と笑って、話せるでしょう――そう、墓を作って。そこの墓守となりましょう、私は。
そして、貴方だけの番人に。
だから、その為に、家族写真を撮りましょう?
永久なんてものが人にはないけれど、写真だけは人を永久だと思わせるから。
幸せだった貴方を、思い出せるから。
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