【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第六部~梅花悲嘆~

第四十話 親子げんか

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 陽炎はどうしようと焦ったところで、ふと中指の指輪に気付く。それは、ローズクォーツの石がついた、女の子がするような指輪で己には似合わない。だけど、似合わない指輪にも一つ、良いことがあった。
 ――菫の能力、超能力……つまりテレパシーが使える、ということ。
 陽炎は、心の中でバイオレット、と祈って、白雪に話し掛ける。
 
(白雪、それさっき俺もかかってたらしいんだ)
(――あれ、陽炎君、君、こんな力、あったっけ?)
(ないけど、とある奴がちょっと貸してくれた。……――その香りは、梅の花だ、多分)
(梅? ああ、これ梅の花なんだ――……ああ、本当だ、数式が見えてきた。でも、……オレの妖術では解けない。これは、ガンジラニーニの術が必要だ)
(柘榴を元に戻せば?)
(……戒めに、ちょっとリスのままで居させようと思ったのに。仕方ない)
 
 白雪はため息をついて、指をぱちんと鳴らす。すると、リスがちゃんと柘榴に戻り、柘榴は頭を抱えて、リス姿だった己を恥じていた。
 白雪が視線をちらりと向けてくる、陽炎に。

(気を引いておくから、その間に)
(判った――)
 
「さぁ、蓮見。パパと遊ぼうか――遊べなかったものね、ここ最近?」
「嫌だ、来るな! パパなんか大嫌いだ!」
「蓮見、君がパパを嫌うのは百年早い――反抗期がきてから、そういうことは言いなさい」

 百年後といったら、反抗期どころか長寿なのだと思うのだが。
 というつっこみをしてるどころじゃない、陽炎は柘榴に先ほど、テレパシーを送り、柘榴にガンジラニーニの妖術で解くように頼む。
 柘榴は頷き、気付かれないように――気付かれそうなときは黙りこくり、そして密やかに小声で唱える。
 
「パパなんか、どうせ国の方が大事なんだ! 王様になっちゃえばよかったんだ!」
「――蓮見、悲しいことを言うね」

 白雪は秋の風のようなもの悲しい笑みを浮かべ、そっと手を指揮者のように揺らす。
 すると蓮見の周りには幻覚が表れようとしたが、蓮見はそれをすぐに打ち破る。
 ふぅふぅと鼻息荒く白雪を睨み付け、その眼差しは白雪には凶器で――。
 こんな目を、本当はされるべきだったのだろう。己は、牡羊座が許さなかったのなら。
 己は牡羊座を無理矢理に、最初は行為を強いた。強いた結果の子供だった。白雪は愛せる気持ちは十分にあるのだが、子供からしてみればきっと憎らしい出来事なのかもしれない。
 母親が暴行にあうなどと。
 
 それをふと脳裏に過ぎらせて、白雪は頬をかく。

(だとしたら、どうだ――? 例えそうだとしても、オレはもうこの子達を手放すつもりはない。だって、どんなことがあったとしてもオレはこの子の父親で、牡羊座の――旦那だ。負けないよ)
 
 蓮見は白雪の体が消えゆく数式を次々とあげている――このままでは消えゆく。
 それでも、白雪は抵抗せず、蓮見に微笑んだ。
 
「何で抵抗しないの!?」
「――親は止めてばかりは駄目だ。時には成長を快く思わないと。もしも君が本当にオレを憎いと思うのなら、殺せばいい。但し、悲しむのは君とママだよ」
「……――ぼくはパパが居なくても生きていける」
「――ただ一人で生きていける子供なぞ、居ないよ。パパは一人で生きてきたから、こんなに追いつめられた人格になったんだ。ねじ曲がっちゃイケナイ。君は、天使のような愛らしい性格を持っているんだから。ねぇ、蓮見――大好きだよ。いつまでも、愛してるよ。君は、オレがこの世に居て良かったと思える存在なんだ。君は、オレの命だ」
「パパ……」
 
 白雪の足が完全に消えたと思ったその時――蓮見に迷いが生じた。
 瞬間、白雪の足は、元に戻る。
 蓮見は頭を左右に振り、その場から一瞬にして消えた。
 陽炎たちが蓮見! と慌てて呼ぶも、白雪は大して驚きはせず、皆の前に腕を制するように置き。

「探して捕まえてくるよ――」
「……気をつけろよ、前の蓮見じゃないんだから」
「判ってるよ、陽炎君――」
 
 白雪は、とっと軽い足音で駆け出して、屋敷内を駆け出す。きょろきょろと左右を見回し、天井も見やる。
 蓮見が好きそうな庭には居なかったし、己の妖術研究室にも居なかった。牡羊座の居る寝室にも居なかった、ともなると皆目検討もつかない。何処にいるのやら。

「蓮見――愛してるよ、出ておいで」
“うるさいっ、パパなんか大嫌いだ、大嫌いだ!”
「君が嫌いでも、パパは君のことをとても愛しているよ――馬鹿の一つ覚えみたいにね」

 白雪がくすっと笑うと、蓮見の脳に響く、その声は消え去り、一気に妖術が集中する場所が判った。
 蠍座の毒研究所だ――そう悟るなり、白雪は苦笑して、そこへ向かう。
 

「――パパに飲ませる毒でも探してるの?」

 こつん、ドアをノックもせずに開き、もたれ掛かって、背中を向ける蓮見に笑いかける。
 蓮見は白雪を見るなり、目を先ほどまで憎悪だったのに、今は恐怖に塗り替えて、妖術を唱える。

「毒なら殺せると、思った?」
「――だって毒がパパを殺したから」
「ここにはあの毒はないよ――それとも蓮見は自分の手で殺せないほど、臆病なのかな、それとも怖いのかな? それなら、殺すなんて物騒なことお止めなさいよ」
「……パパ、が、いけ、ないんだ! ぼくを置いて、出て行くから! ママを一人にするから! ママはパパとじゃなく、人馬ちゃんと結ばれれば良かったんだ!」
「……――そう、かもね」

 白雪は黄昏れて、儚い笑みを浮かべる……だが次の瞬間、強い光りを瞳に宿し、蓮見を妖術で捕らえる。シャボン玉のような膜の中に、蓮見を入れて、それを柘榴の元に送る。己も一緒に。
 
 柘榴は蓮見が来た瞬間に、術を完成させ、彼の中に電流を走らせる。
 
「うわ!?」
「蓮見――それでも、パパはママと結ばれて良かったと思うよ。君が生まれたし、ママが笑ったから」
「……――え、……あ、パパ……ごめ、んなさい……」

 蓮見が倒れかける、その瞬間、白雪は膜を破らせ、己もその場所へ現し、駆け寄り、慌てて抱き留めた。
 久しぶりの父の腕は、逞しくて――細い腕なのに、力強くて、蓮見はそれだけで安心して、意識を手放した。
 強い妖術を使い続けた反動で、疲れたのだろう。
 
 それに安堵した白雪と一同。
 
「蓮見、ごめんね……――君のことは、悲しい生まれだったけれど、とても愛してるよ……ふぅ」
 
 だが、地獄はこれからだった――。
 
 
「さて、テメェら……覚悟はいいか?」
 
 白雪の口調が荒ぶっているときは、きれているとき。
 この場にいる四人は地獄を見る――。
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