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第六部~梅花悲嘆~
第三十九話 魔王誕生
しおりを挟む眼を凍てつかせ、何もかも拒む力だけの領域。
力でもってねじ伏せようと、妖術を絶え間なく唱え続ける、数式の鬼がそこにいる。これがあの蓮見だろうか、と一同は躊躇う。だが、蓮見は陽炎たちを気にした様子もなく、もう一人の妖術の鬼に戦いをし向ける。父親という姿を持つ、白雪に――。
白雪は白雪で何が起こってるのか冷静に考えた結果、陽炎たちへの怒りが重なり、髪の毛を紫に染めていた――。
――蓮見も白雪もまずい。
とっさに、魚座は柘榴を、鴉座は陽炎を隠した。
四人に気付いた白雪が、髪の毛先をふわふわと浮かせながら、サングラスを取り外し、にこぉと微笑んだ。
「やぁ。久しぶり――これ、どうなってるのかな」
「に、兄さん……」
「陽炎君――この仔は、誰だね。まさか、蓮見とか言わないよね? ねぇ、夜空の目を持つ、オレの可愛い弟よ……」
こんな時に可愛いとつけるところが、本格的に怒ってることを予感させる。
にこにこと微笑んでる癖に、その表情は何処か異質で、陽炎へ向ける笑みですらこんなに恐ろしいのだから、柘榴は己は声をかけないほうがいいな、と直感的に悟った。
「――仮に」
白雪は陽炎の返事を待つ前に、言葉を投げかける、穏やかな、緩やかな声で。
「仮に、この子が蓮見だとしよう――何故、蓮見はこうもオレを憎んでいる?」
「は!?」
「見てて。オレがね、近づこうとすると――」
白雪が蓮見へ一歩近づいただけで蓮見が何か唱えて、白雪の足下がぼろぼろと崩れるように消えて、それを白雪は数式を編み出し、何とか元に戻す。
それを見た陽炎は、一瞬ぞわっと鳥肌がしたが、すぐに元に戻って安堵した――これが白雪相手でなかったら、蒼刻一以外どうにも出来ない。それは、陽炎にも何となく判る。
これは、憎んでいないと使えない、本気の数式だ――それも、蒼刻一の作った妖仔を消せる数式!
「こうなるの。何で、こんなに憎んでいるのかな、ねぇ、蓮見――パパに教えてくれない?」
「パパ? パパだって? こんな何週間も、ぼくをほったらかしにして、ママのことも考えないで、どっかいっちゃう人がパパだって!?」
「――蓮見、それは、君を思ってのことだ。いいかい、回りくどくてもしなきゃいけないことがあるのだと、そこの聖霊のクソガキは言ってきた。だから、パパは頑張ってお爺ちゃんを説得してきたんだよ……」
「そんなの嘘だ! どこかで遊んでいただけなんだ!」
「……――蓮見……、いい加減におし?」
白雪は、サックを床に置いて、妖術を唱える。
まさか、わが子相手に何かするわけでもないだろうと思っていたが、それはとんだ誤算で、白雪は蓮見の足下を氷で凍てつかせ、動けなくした。
それに驚いた陽炎が、兄さん! と、声をかける。
「兄さん、ちょっと待って! 力に力で対抗してねじ伏せてどうするの?! きっと何か、そんな風になった原因が在るはずだよ!」
「……それを知るために、動けなくさせたの。……オレだって心痛まないわけじゃないよ。だけどね、逃げられたら、読み取ろうとする数式も読み取れない。この香りの正体もつきとめなきゃ……」
「香り?」
反応したのは柘榴だった。
先ほど、陽炎に変な影響を与えたらしきものも、何かの術で、鍵は梅の花だった。
柘榴は試しに、白雪に梅を、と伝えようとしたが、それよりも先に蓮見から妖術がきて、柘榴は姿をリスにされた。
「ああっ、柘榴?!」
「あああああ、可愛い!!! 可愛い、なんと愛らしい姿に!!! 柘榴君ッ!!!」
魚座が感極まって喜んで良いのか、悲しんで良いのか判らない顔をして、とりあえず抱きしめて、逃げないようにしておいた。
リスは毛繕いをしている。
陽炎はそれを見て、あわわわと焦りながら、どうしようと鴉座に視線を向ける。
鴉座は慎重に白雪を見やり、それから唸る。
同じことを言おうものならば、同じ目に遭うからだ。
その間にも、蓮見と白雪の妖術対決は始まる。白雪が雪を作れば、蓮見は業火を出し、屋敷を燃やし尽くす勢いで出す。だがそれでも足下の氷が溶けないことに苛立ち、蓮見は白雪を睨み付ける。
蓮見は今度は雷を白雪に落とすが、白雪はそれをあっさりと岩を作り出し、それに受けさせた。
互いににらみ合い、白雪は戸惑い、蓮見は苛々としている。
あんなに暖かかった家庭が、壊れようとしている。
陽炎は、そんな光景を見たくはなくて、早く何とかしなければ、と焦る。
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