【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第六部~梅花悲嘆~

第三十四話 手籠め

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「牡丹」
「あ、この間の子供。どうしたんだ?」

 夕方、菫が居ない時間を見計らって、悪魔座は、また宿屋に来た。
 牡丹を見つけるなり、悪魔座は、牡丹に向かって指を指して、鷲座が苦労して調べてくれた呪を唱える。
 どうか、これで何か変わってくれと、願うように――。
 

「香り消えゆくは冬の季節――香り、消えゆくは、冬の季節!」
「は? ……――ッ……あ、たまが……」

 陽炎が身をかがめた。
 悪魔座は心配して、駆け寄ろうとしたがその時、菫がやってきた。

「牡丹! あんた、ここで何してんねや!」
「げ、スミレだね! 逃げるね! 牡丹、いいかね、君は牡丹じゃない。陽炎なんだね。それじゃあね」

 悪魔座は消えて、後はその場に任せた――これが良いことに繋がるように、と。
 菫は苛つきながら、消えた悪魔座の名残があるような天井を睨み付けてから、牡丹に駆け寄り、牡丹を支えようとする――。

「牡丹ッ、牡丹!」
「スミレ――……あ、あ、あああああ!!!」

 頭に、雪崩のように大量に情報が押し込んでくる。一気に入ってくる情報は、走馬燈のように駆けめぐり、己の頭を苛ませる。
 菫はあたふたとしながら、牡丹を抱きしめ、落ち着かせようとする。
 

 
 それは、突然に訪れた冷気――否、警戒心。
 
 どん、っと牡丹がスミレを突き飛ばした。
 菫は、訳が分からなかったが、牡丹の目を見て判った――あれは、牡丹ではない、陽炎だ。
 
 陽炎に、記憶が戻ったのだ。

(あのクソガキめ、余計な真似しおって――)

 菫は内心舌打ちして、陽炎を見つめる。薄暗がりのどんよりとした眼差しで。
 陽炎は陽炎で、苛つきを露わにした警戒色で、見つめ返す。
 
「手当してくれたことだけは、礼を言おうか」
「――……思い出した、か?」
「よくも騙そうとしやがって。誰がお前と駆け落ちなんざ、するかよ」

 陽炎は、ずきんと過ぎった頭の痛みに手をあて、ふ、と微笑を浮かべる。
 彼を慕う者が見れば、その笑みで何でもしてしまうと覚悟できるようなほど、妖しい笑み。香しくて、そのくせ上品で。
 菫は、その目を見て、どきりとした。

「お前とは、これまでだ――世話になったな、じゃあな」
「ま、待って……待ちぃや、陽炎!」

 菫は、陽炎の手を掴む。
 陽炎はそれを面倒くさそうに見やると、菫の真剣な目にぶつかる。

「僕は、このままオマエを帰しとうない」
「……――もう、お前の理想の俺、はいないんだよ、スミレ」

 陽炎は、菫が幼い頃の自分に懸想してるのだと思っていた。だから、そんな言葉を浴びせる。だが、菫は首をふって、陽炎に無理矢理キスした。
 陽炎は抵抗しようとするが、菫の力の方が強かった。流石は、元盗賊頭領だ。

「す、みれ……!」
「残念やったな、陽炎。僕が欲しいのは、こうなって判った。オマエや、陽炎――」

 菫は、陽炎を力ずくでベッドに放り投げ、上からのし掛かり、押さえつけた。
 陽炎は、目に身を焦がしそうな炎を宿し、菫を焼き尽くそうな勢いで睨み付け、笑った。
 その目を見て、菫は背筋にぞくりと粟立つものを感じ、口端をつり上げた。

(――ああ、その目や。その目が、欲しかったんや)

 菫の様子を見て、陽炎は彼の中に巡る欲を察知し、抵抗するが――。
 
 抵抗したが――。
 
 部屋の隅に、忘れられたように落ちていた、指輪が入った小箱。
 それが、菫の恋を、否、欲を叶えたのだろうか。
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