【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
246 / 358
第六部~梅花悲嘆~

第二十二話 睦言は夜にだけにして

しおりを挟む

 体のふしぶしが痛い。
 でも悔しいことに、肌はつるつる。
 さらに苛立つことに、隣で鴉座は幸せそうな顔で眠りについている。

 陽炎は、あれから一緒に寝ようと皆に声をかけようとするたびに、鴉座に見つかり、逃げ回っていたら、夜になってて、皆へ助けてーーーと声を残しながら、部屋に連れられて、思いっきりねちっこい行為をされた。

 確かに優しかったが、羞恥心を煽ってきたり、触れるようで触れられないもどかしいことをしてきたり、じれったいことばかりしてきた!
 そのくせ、体に痕が赤くついてる辺り、しっかりとやられたのだなぁと思われる。

 そりゃ一般男子――とは言えないが、それなりに性欲はあるが、それよりもまだ怖いという気持ちがあるので、中々性行為については甘えることは出来ない。

 ただ、一度ドツボの頂点にくると、――そっから先は思い出すだけで火照る程、大変なことになる。
 あんなことを言い出す自分が信じられない、あんな態度になる自分が恥ずかしい。
 陽炎は、何処か屈辱感を味わい、鴉座を睨み付ける。

「くっそ……――こいつ、元からこういうの狙って自分の部屋、シャワー付にしたんじゃねぇのか!?」

 警戒心が己に向かってるときに部屋は決めたのだからそんなことはないのに、八つ当たりに陽炎は鴉座を軽く叩いた。鴉座は健やかな寝顔を見せている。
 鴉座の部屋にはシャワールームがあるが、陽炎の部屋にはない。
 前に部屋割りのときに柘榴に不平等だと言ったが、柘榴からは、哀れまれるような視線を送られた。こうなることを予測してたように。
 鴉座はまだくぅくぅと寝ている。いつもの大人びた表情が消え、普通の顔になる瞬間だが、それがまた恥ずかしさをそそる。本当に警戒されていなくて、心から安心されているのだと実感させられて。
 陽炎は真っ赤になりながら慌てて、シャワールームに駆け込んで、シャワーを浴びてから此方に用意した夏服を取り出してため息をつく。

(あっついんだよなぁ、隠さなきゃいけないとはいえ)

 痕を隠すにはタートルネックのこの服を着なければならない。
 陽炎はため息をついて、それを着て、隠れてないところがないか、鏡の前で念を入れてチェックする。

「よし、んじゃ歯磨きするかー」

 顔を洗い、歯磨きをし終え、鴉座の元へ行くと、起きていて、鴉座はぼけーっとして、遠くを見つめていた。

「……鴉座?」
「え? あ、ああ陽炎、おはよう御座います。腰は痛くないですか?」
「痛ぇよ、馬鹿! 嫌だっていっても離さないし、いいって言った途端にじれったくなるし、なんなんだ、お前は」

 陽炎が呆れるようにため息をつくと、鴉座はくす、と笑い、風呂に入ったばかりの陽炎を手招き、抱き寄せて洗い立ての体から香る石けんの匂いを嗅ぐ。

「良い香でもつけてるみたいですね。呉から貰ったんですか? 私を惑わせる香でも」
「おー、貰ったかもなぁ。お前の独占欲が強くなる香を」
「それはそれは。道理で近頃、貴方が欲しくて堪らない筈でした。まだもっと――欲しいんですけれどね」

 鴉座はそういって、つつっとのど仏を撫でた、猫をあやすように。陽炎はびくっとし、その手をはたき落とす。

「お前、限度っつーのを覚えろ! 馬鹿!」
「でもイイんですよね? だから拒まないんですよね?」
「……――そこで、それを言うかよ」

 陽炎は、かあぁと顔を朱に染めて、項垂れる。
 鴉座はくすくすと笑って、陽炎の頬にキスしてから、シャワールームへ行ってしまった。

「……ばぁか」

 そりゃ、もっと触れたいとか、もっと接したい、とかあるけれど、あからさまに甘えることが苦手な己に、それを言うか。
 陽炎はため息をついて、部屋を出て行く。
 部屋を出ると、丁度大犬座と鉢合わせしてしまい、大犬座は女の直感で何かを読み取ったのか、ぐしょおおおおおおおおと泣き叫んで、不潔よーーーと走って行ってしまった。
 あの年であの直感力、恐るべし。戦慄いていると、誰かに肩を叩かれた。

「かげ君、おはよー」
「柘榴!」
「んとね、白雪から手紙が来て、なんか大丈夫になったみたい。条件付だけど、その条件はこっちついてから話すってさー」
「本当!?」

 陽炎は目を見開き、眼鏡をポケットに入ってるケースから取り出し、かけてから、喜ぶ。
 白雪が帰ってくるのだなーと何処か感慨深く――そして、一つの恐ろしい出来事を思い出してはっとした。

「柘榴ッ、薬は!? 蓮見を元に戻す薬!」
「出来てないんだ……それが……嘘みたいだろ……本当なんだ……」

 柘榴は諦めの表情を浮かべて、黄昏れている。
 陽炎はぞわっと背筋が凍り付くのを感じ、青ざめてうーん、うーん、と唸る。
 丁度その時に、蓮見がやってきて、おはよーと満面の笑みで二人に手をふってきた。
 ああ、天使。
 見かけは天使、でもこれが見られたら地獄が待っている。

「二人とも? どうしたの、青ざめて?」
「いや、何でもないけど……どうしたんだ、蓮見?」
「あのね、かげろちゃんに用事あるって人が来てる」
「誰?」
「菫ちゃん!」
「あー、スミレかぁ」

 柘榴はふと、違和感を感じた。
 以前は警戒心を出してた名前が、全然自然体に発音も違って名前が出てきた。
 陽炎は思い出した、というわけだろうか。
 陽炎は、二人に鴉座に内緒な、と言って、出て行っていこうとするので、柘榴はふと止めて、友達? と聞いてしまう。

「え? あ、ああ、言ってなかったっけ、俺の賊時代の仲間なんだ」
「え、じゃああの上品そうなにーさんも元・賊?!! 近頃の賊はどーなってんだ、上流階級がやってるのか?!」
「ははっ、スミレは違うと思うよ。それじゃ、行ってくるな――つもる話が結構あるんだ」
「そーいうことなら判りました、いってらっしゃいーかげ君」

 陽炎はにこっと微笑み、いってきます、と二人に手をふって出て行った。
 柘榴はその背中を見て、んーと呟く。
 
「どうしたの?」
「え? あ、あの……なんか、嫌な予感感じて……」
「……ふぅん。ぼくもいってみる」
「え?! あ、おい、蓮見ちゃん!」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...