【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第六部~梅花悲嘆~

第十三話 兄上様にはご内密に

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 それから二週間後のことだった――ユグラルドから手紙が来たのは。
 まず開けたのは、当然牡羊座。白雪に関することだから、妻が開けた方が良いに決まってると陽炎の意見により、陽炎は牡羊座にあけさせた。
 陽炎は黙って牡羊座が開けるのを見つめ、その間外で蓮見を遊ばせた。
 蓮見には白雪に何かあっても悟られてはいけない――不安にさせたくないのだ。
 牡羊座は封を開け、文字に目を通す。最初は不安そうな牡羊座だったが、文字を目で追っていくごとにどんどん疲れたような、呆れたような眼差しになっていく。
 
「……あんの……悪鬼め!」
「え、何て書いてあるの?」
「……我が元・神。蓮見説得に暫く時間がかかりそうなうえに、説得出来ない気がして諦めてしまいそうだと弱音を……」
“弱音じゃないよ、事実そうだもの”

 突然の声に驚いて一同がきょろきょろすると、手紙から声が聞こえる。
 どうやら手紙を媒体に、妖術をかけているみたいだ。
 くすくすと楽しそうな笑い声が、手紙から聞こえると、牡羊座と陽炎はほっとした表情を浮かべて、互いに目配せする。
 牡羊座はきっと手紙を睨み付け、手紙に怒鳴りつける。

「あなた、どんなに時間がかかってもいいから、諦めてはいけないわ!」
“くじけそうだよ、これ。っていうか、蓮見こっちに連れてこい連れてこいって五月蠅いし。王位には他に相応しい人居るデショって言ったら、孫に会いたいだけって、人情の話しにすり替えるんだよ? タチ悪いよね、流石腐っても王――人の弱点が分かってらっしゃること”
「兄さん」
“ああ、陽炎くんも居るんだね。蓮見はどうだい、無事かな? 誘拐犯に攫われてたりしてないよね?”
「……――うん、無事」

 今、自分は不自然でなく、自然な発音、発声が出来ただろうか。
 まさか蓮見が大きくなっただなんて言えない。言おうものなら、手紙越しの癖に、そこから威圧感がすぐさま飛んでくるだろう、そして恐ろしい妖術も。
 白雪は何せ、もう蒼刻一に近しい妖術者なのだ、どんな妖術を放ってこようと不思議ではない。ただ、蓮見を思って妖術を使ってないだけだ。

「ん? そういえば、妖術使って平気なの?」
“ああ、多分低級だから平気だろう――あ、でもそれはオレから見た場合、か。……ま、上級じゃないから平気だと思うよ。それに、少し妖術じゃないものも交じってる。昔、翡翠(ひすい)っていう不老長寿の王に教わったんだよ。外交のとき”
「へぇ……不老長寿、ってエルフみたいなものかなぁ」
“うん、それに近しい。まぁ、兎も角、思っていたよりかは穏便だ。――果てがない気がするけど”

 そう言うと、牡羊座は手紙を頭より高く掲げ、睨んだまま、口を真一文字にする。
 何か怒りたいのだけれど、心底疲れてるのが声の様子で分かるから、怒ろうにも怒れないのだろう。
 なら、励ませばいいんだよ、と陽炎は肩をぽんぽんと叩き微笑むことで、無言で伝えて、牡羊座はそれに目を潤ませ、手紙に微笑む。

「――あなた、体に気をつけて頑張ってくださいましね」
“――ああ。気をつける。お前の声はいいね、元気が出るよ。何よりもの栄養だ――……。さて、そっちは気をつけてくれよ、蓮見の存在は珍しいんだから、人売りに狙われることってよくあるんだ。それじゃあ、蓮見に何かあったら怒るからね……?”
 
 そう白雪の恐ろしくも美しく穏やかな声が響き終えると、手紙は突如触れたままでも火傷しない炎を出し、燃え尽きた。
 陽炎は、黙ってそこにいた柘榴に視線を向けると、柘榴はがたがたと震えて、色んな国と己の民族の、祈り文句をごちゃまぜにして唱えていた。
 まるで妖術の亜流みたいだ、と陽炎は思うも、今回ばかりは笑えない――。
 
 それも――。
 
「すみません、蓮見どのがちょっと目を離した隙に、攫われました!」
「っぶ!!!!」
「でぇえええ?!!!!」
「きゃあああ?!!!!」
 
 三者三様の反応をする。
 ――それも、こんなときに攫われたなんて、いえやしない。
 どんなことがあっても、取り返そうと、三人の意志が今一つになった。
 
 意志はただ一つ。
 
(笑顔で精神的拷問されたくない!)
 
「いいいい行くぞ!!」
「わわわ判りましたわ!」
「あああああれ、声が裏返るううう!」
 
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