237 / 358
第六部~梅花悲嘆~
第十三話 兄上様にはご内密に
しおりを挟むそれから二週間後のことだった――ユグラルドから手紙が来たのは。
まず開けたのは、当然牡羊座。白雪に関することだから、妻が開けた方が良いに決まってると陽炎の意見により、陽炎は牡羊座にあけさせた。
陽炎は黙って牡羊座が開けるのを見つめ、その間外で蓮見を遊ばせた。
蓮見には白雪に何かあっても悟られてはいけない――不安にさせたくないのだ。
牡羊座は封を開け、文字に目を通す。最初は不安そうな牡羊座だったが、文字を目で追っていくごとにどんどん疲れたような、呆れたような眼差しになっていく。
「……あんの……悪鬼め!」
「え、何て書いてあるの?」
「……我が元・神。蓮見説得に暫く時間がかかりそうなうえに、説得出来ない気がして諦めてしまいそうだと弱音を……」
“弱音じゃないよ、事実そうだもの”
突然の声に驚いて一同がきょろきょろすると、手紙から声が聞こえる。
どうやら手紙を媒体に、妖術をかけているみたいだ。
くすくすと楽しそうな笑い声が、手紙から聞こえると、牡羊座と陽炎はほっとした表情を浮かべて、互いに目配せする。
牡羊座はきっと手紙を睨み付け、手紙に怒鳴りつける。
「あなた、どんなに時間がかかってもいいから、諦めてはいけないわ!」
“くじけそうだよ、これ。っていうか、蓮見こっちに連れてこい連れてこいって五月蠅いし。王位には他に相応しい人居るデショって言ったら、孫に会いたいだけって、人情の話しにすり替えるんだよ? タチ悪いよね、流石腐っても王――人の弱点が分かってらっしゃること”
「兄さん」
“ああ、陽炎くんも居るんだね。蓮見はどうだい、無事かな? 誘拐犯に攫われてたりしてないよね?”
「……――うん、無事」
今、自分は不自然でなく、自然な発音、発声が出来ただろうか。
まさか蓮見が大きくなっただなんて言えない。言おうものなら、手紙越しの癖に、そこから威圧感がすぐさま飛んでくるだろう、そして恐ろしい妖術も。
白雪は何せ、もう蒼刻一に近しい妖術者なのだ、どんな妖術を放ってこようと不思議ではない。ただ、蓮見を思って妖術を使ってないだけだ。
「ん? そういえば、妖術使って平気なの?」
“ああ、多分低級だから平気だろう――あ、でもそれはオレから見た場合、か。……ま、上級じゃないから平気だと思うよ。それに、少し妖術じゃないものも交じってる。昔、翡翠(ひすい)っていう不老長寿の王に教わったんだよ。外交のとき”
「へぇ……不老長寿、ってエルフみたいなものかなぁ」
“うん、それに近しい。まぁ、兎も角、思っていたよりかは穏便だ。――果てがない気がするけど”
そう言うと、牡羊座は手紙を頭より高く掲げ、睨んだまま、口を真一文字にする。
何か怒りたいのだけれど、心底疲れてるのが声の様子で分かるから、怒ろうにも怒れないのだろう。
なら、励ませばいいんだよ、と陽炎は肩をぽんぽんと叩き微笑むことで、無言で伝えて、牡羊座はそれに目を潤ませ、手紙に微笑む。
「――あなた、体に気をつけて頑張ってくださいましね」
“――ああ。気をつける。お前の声はいいね、元気が出るよ。何よりもの栄養だ――……。さて、そっちは気をつけてくれよ、蓮見の存在は珍しいんだから、人売りに狙われることってよくあるんだ。それじゃあ、蓮見に何かあったら怒るからね……?”
そう白雪の恐ろしくも美しく穏やかな声が響き終えると、手紙は突如触れたままでも火傷しない炎を出し、燃え尽きた。
陽炎は、黙ってそこにいた柘榴に視線を向けると、柘榴はがたがたと震えて、色んな国と己の民族の、祈り文句をごちゃまぜにして唱えていた。
まるで妖術の亜流みたいだ、と陽炎は思うも、今回ばかりは笑えない――。
それも――。
「すみません、蓮見どのがちょっと目を離した隙に、攫われました!」
「っぶ!!!!」
「でぇえええ?!!!!」
「きゃあああ?!!!!」
三者三様の反応をする。
――それも、こんなときに攫われたなんて、いえやしない。
どんなことがあっても、取り返そうと、三人の意志が今一つになった。
意志はただ一つ。
(笑顔で精神的拷問されたくない!)
「いいいい行くぞ!!」
「わわわ判りましたわ!」
「あああああれ、声が裏返るううう!」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる