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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第二十五話 初めての敵対
しおりを挟む目を覚ませば、牢屋にいて――牢屋の前では亜弓が立っていて、泣いている。
陽炎は、目を覚ますなり、今までのことを思い出して、頭をかく。
そして、亜弓が何故泣くのか――と考えて、嗚呼呉が攫ったからか、と納得した陽炎は亜弓に笑いかける。
「気にすンな」
「……陽炎さん、僕じゃ呉を説得出来なかった……このままじゃ、呉は蒼刻一に君たちを売り渡す……」
「亜弓、よく考えてみろ。ちょっと間違えたことはしてるが、これってかなり愛されてる証拠だよな?」
「……陽炎、さん?」
陽炎は体に痛む部分がないことを確認すると、亜弓に向き直り、牢屋は寒いのか手を擦りあわせて、はぁと息をかける。息は白い。
今ならば亜弓が納得できる言葉をかけることが出来るんじゃないだろうか、そんな予感がして、陽炎は、亜弓の茶目っ気たっぷりなのに何処か鋭い印象のつり目を見つめる。
「そんだけ愛されても、やっぱり人目は怖いか?」
「――……怖い。変な目で、見られるのが、怖い」
「……そうか。じゃあかつての俺を教えよう。俺は、ノンケだったんだ」
「……――え!」
「毎日毎日、好きだ好きだっつー奴ら見ててな、嗚呼こいつら恥も外聞もないんだなって思ったんだ」
「――……陽炎さん」
「でもなぁ」
陽炎は、遠い昔を思い出す――蟹座にドメスティックバイオレンスを受け、水瓶座の水で依存してしまい、鴉座が彼らを謀って己を手にしたのに、手放したときのことを。
今思えば、彼らは彼らなりに必死だったのだな、と思えるが、それは過去だからだ。
現在進行形だったならば、怖い、と思うだろう。
許せる筈もない、普通ならば。でも自分が悪いのならば、話は別だ。彼らの話を聞こうとせず、彼らを突き放してしまい続けた結果。だから、陽炎は許し、接した。
「恥も外聞もないわけじゃなくって、それを承知の上で、でも言わないと相手が真剣になってくれないから、必死で訴えるしかないわけだ――」
「……必死で?」
「そう。だってそうでもしないと――他の奴らも好きだ、と言ってるから、己の存在に気づいて貰えなくなるって思ってな。今じゃ、昔のあいつらをそう思ってるんだ」
陽炎の言葉に亜弓は、息を飲み込んで、緊張した顔つきで、核心に迫ろうという決心がついた。
亜弓は、震えながら、口を開いた。
「……――どうして、鴉座を受け入れる気になったの?」
「……――呼吸するには酸素が必要で、酸素のように鴉座は俺にとって必要だったんだ。酸素が無ければ、死んじゃうだろ? それぐらい、自然だったんだ――そう思えるようになっていたんだ」
陽炎の言葉に、亜弓は少し黙り込み顔を俯かせて、ぎゅっと己の服を掴み、ぐすぐすと泣き出す。
その体は、可哀想に震えていて、見えない誰かを気にしているようだった。
彼は己の体に震えるな! と命令するように、両手で押さえつける。だが震えは止まらない。
亜弓はぐすぐすと泣きながらも、服の袖で涙を拭い、陽炎の牢屋の鉄格子にしがみつく。
「僕は、僕はどうしたら、貴方みたいになれる?」
「……その人が本当に好きなら、そのうち周りの目よりもその人が大事になってくる。一人じゃ怖いことも、二人なら怖さを分割出来る――……一緒に、周りの目と戦える。何も、理解してくれない奴が居ないわけじゃないじゃん、柘榴とか居るだろ?」
「……――うん、うん」
亜弓がしゃくりあげ、涙を堪えようとしている。だから、陽炎は亜弓の手を包み込んで、情けない笑みを向けた。
「まぁ、そうすぐには受け入れられないもんな。俺もそうだったし」
「うん、うん……」
「だから、さ。怖いときゃ、俺に言えよ。俺相手なら言えるだろ? 泣きたいだけ泣け。そんで、泣き終わった後、説得してこい」
陽炎がそう言うと、亜弓は泣き笑いで、こくこくと頷く。
今までの不安な気持ち、全てが解消したわけではない。それでも、その全てを聞いて貰ったような、暖かく、背徳感が少し薄くなる気持ちを、陽炎はくれた。
亜弓は、また呉に説得しに行こうと、覚悟を決めた。
その時、何者かが亜弓の秘孔をついて、気絶させて、横たわらせた。その秘孔は孔雀にも効くのか、孔雀が起きなかった。
陽炎は、視線をさっと巡らせる。
其処にいたのは――蟹座。
蟹座が助けに来たか、と思ったが、蟹座の目は何処か光りがない。
曇っているとでも言えばいいだろうか、兎に角普通じゃない。
だから、陽炎は少し警戒する――。
「蟹座?」
「――陽炎か」
「うん、そう。どうしたんだ?」
「貴様を、殺してやる――」
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