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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第十三話 正義になれない
しおりを挟む「あー、何?」
陽炎は亜弓と話していた時だったので、少し面倒くさそうに柘榴に振り返る。
そんな姿を見て柘榴は「冷たくなったなー」と苦笑しながら、陽炎に話し掛ける。
「羊さんがさ、蓮見ちゃんが居なくなったから皆で探して欲しいんだってサ」
「……うっそ、マジで!? 大変じゃないか! ごめん、亜弓、また今度ッ」
陽炎としては蓮見は大事な大事な可愛い甥。
目に入れても痛くない! と断言できるほど可愛い甥で、陽炎は密かに白雪夫妻の第二子を期待している。可愛い子は増えて欲しいからだ。
蓮見や、牡羊座や、兄という存在は、彼にとってはかけがえのない家族が出来たので、嬉しいのだ。
幼い頃から陽炎は家族というのに憧れていた。だけどいつも疎外感を感じていて、唯一身近に感じることが出来たのが劉桜と、賊時代の仲間だった。
奴隷になってからは家族は諦めていたのだが、星座が家族となって幸せだったのに、兄が居ると知り、更には兄に嫁が出来た。嬉しいに決まってる、経緯は兎も角。繰り返そう、兄が妻をどう嫁にしたか、経緯は兎も角! 人道から外れたその経緯は兎も角!
鬼畜兄とそれに耐えられるマゾと思われる兄嫁は子供を、夫婦になる前に無理矢理に作ってしまった。今では愛されてるが、その経緯は今考えると本当酷い。
生まれてきた子供は大変愛らしく、両方に似たのに、天使のような性格――今現在。将来、どんな風になるかは兎も角――。
蓮見が笑えば、白雪も牡羊座も己も笑う。
そんな大事な家族の中心、蓮見が居ないのは、この世の何よりも悲劇だ。
陽炎はプラネタリウムに居るだろう蟹座を、外から呼ぶと、探しに行くぞ! と、声を張り上げる。
今は鴉座は洗濯物を片付けているので、蟹座は仕方なしに面倒くさそうに現れ、ついていく。
柘榴はそれを見送ると、己も行こうとする。
だが、プラネタリウムから現れた鷲座に止められる。
鷲座は目を少し柘榴から外して、腕を掴んだところで、すぐに手を離す。
そして少々考え込むような素振りで、慎重に言葉を選んで、こわごわと口にする。
「――何か、嫌な予感がする」
「あれ、わっしー。白雪の手伝いしてたんじゃないの?」
「……断られた、急に。何か、嫌な予感がするんだ」
「――……おいらだけ行かないってわけにはいかないだろう?」
柘榴は目を細めて、それから鷲座と亜弓にばいばい、と手をふって、魚座を呼び、外に出る。
魚座は鷲座と亜弓を一瞬見て戸惑ってから、柘榴に続いた。
その背中を見つめて、鷲座は沈黙を保つ。亜弓は既に興味対象を無くしてるのか、持っていたクロスワードパズルを眺めて、空欄を考え込み、唸る。
だがクロスワードパズルからふと視線を外し、ちらりと鷲座を見やり、その真剣な顔つきにぎょっとし、そこまで何か問題があったのだろうか、蓮見に何かあるのだろうか、と不安になる。
「鷲座?」
今朝の白雪との会話を思い出す――。
(鷲の妖仔……味方は嬉しいけれど、辛いね)
(何故辛いんですか?)
(さぁ、何でだろうね――オレには、やっぱり一人が似合うんだと思う。これは天が一人になれと告げてるんだ……オレは、妖仔になってから生まれ変わった気がしたのに、……結局は何一つ変わってないんだ、そう判った)
その時浮かべた彼の寂しげな笑みが離れず、嫌な予感を思わせた。
白雪は全て一人で背負い込む――嬉しいことも、辛いことも、怒りも。だから、いつ彼が怒るか、彼が何をするかなんて予測がつかないし、いつの間にか全てが片付いてから、知ることだってある。
――もし、何かが起こっていて、それが陽炎や柘榴にとって悪いことならば、終わる前に気付きたい物だが、それは憶測でしかないから、何も言えない。
「鷲座、こるぁああ! 僕を無視するなぁああ! 少しは大きくなったねーとか言えよぉ!」
「あ、亜弓どの。ん、少し縮みましたか?」
「……君……――君だけは背丈の低い者同士の悩みを分かってくれると思っていたのに! 嫌味かそれは! 風花最強の技を喰らいたいかい……?!」
「出来れば柘榴に与えてください、それは。それで吸収して覚えますので」
「鬼! 悪魔! 白髪! 鷲の名の癖に、イメージ鳩男!」
「鳩?!」
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