196 / 358
第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第十話 愛しい貴方に銃口を
しおりを挟む朝――、それも早朝の誰もが寝てる時間だ。起きているのは百姓か、漁師くらいだろう。
そんな時間にふと鴉座は目が覚めて、ふと眠れず、このまま起きていようと朝の支度をする。
朝の支度を調えるなり、鴉座はタオルを用意してから台所へ。
台所で、昨日沸騰させてから放っておいた水に檸檬汁を絞り入れて、それを水筒に入れる。
それから小腹も空いてるだろうと、昨夜作った夜食の残りの材料で小さめのサンドイッチを作って、水筒と共にバスケットへ入れて、外へ出ようとする。
白雪の部屋の前で、何か会話が聞こえた。
「……しよう、オレの所為だ」
「あなたの所為ではありませんわ。仕方がない、仕方がないんです」
牡羊座と白雪、夫婦の会話のようだ。
そのような会話は聞いては駄目だろうと、鴉座は空気を読みすぐさま去ろうとしたが、そこには射手座も居たらしく、射手座の声を耳にすると、立ち聞きしてしまう。
彼の声はどうにも耳の方が気になってしまうようで、鳥の性分かも知れない、狩人への。
「蓮見が狙われるとは思わなかった――保父失格で御座る」
「人馬の妖仔、君の所為じゃない――この子を守らなくては……」
「……――兎に角、黙認するしかないのですね」
「それどころか、昨日、呉とやらが来て、……待て、気配がする。誰だ、そこにいるのは?」
扉が開いて、鴉座は目を見開く。白雪が己に気づいたからではなく、目を見開いたのは彼の声が鋭さがなく力なかったからだ。
今にも倒れてしまいそうなほどか弱い声。
鴉座は扉を開かれれば片手をあげて、すみません、と立ち聞きを謝罪した。
白雪は力なく笑い、扉にもたれ掛かりながら、此方を見る。
「今の話、聞いた?」
「ええ、少し」
「――陽炎君と聖霊と亜弓をさ、呉が渡せって言うの。邪魔させないよ」
「白雪ッ!」
先手必勝とばかりに、彼らしくなく手の内を見せる。
鴉座は一見ただの挑発と見えるそれに、彼の心の「助けてくれ」という叫びを感じ取り、にぃと片笑む。
それを見ても白雪のぐったりとした様子は元気にもならない。だが構うものか、彼もきっと己に構ってはいない。
「ご安心を。外部には漏らしません――邪魔もしません。だから、何があったか、お教え下さい」
「……――人質が居る。蒼刻一が母国に渡そうとしている」
「そう、情報はそれだけあれば結構。後を知ってしまうと、先にお前を殴ってしまいそうですから、もう去ります。射手座、それから慈悲深き母君、幸運を」
「……鴉様」
牡羊座はぽろぽろと涙を零し、ぺこりと頭を鴉座に下げた。
鴉座はそれを見て牡羊座の頭を撫でると、バスケットを持ち直して、庭先に向かう。
庭先には朝の鍛錬を一人でしている陽炎の姿。
彼は偶に朝早く白雪とこの時間に鍛錬をしている。少しでも痛み虫のない自分が非力にならないようにと。
人並みより上、賞金首になったら金貨十枚を賭けられるレベルなのに、それだけじゃ彼は納得しない。白雪を越える強さにならないと納得しないのだ。
「お、鴉座。おはよう。どうしたんだ?」
「いえね、気苦労が。……――ねぇ、陽炎、少し私、残酷になってもいいですか?」
「いいよ」
随分と簡単に言う彼に鴉座は、ため息をついて、己の腰から黒鉄を取りだし、その先を陽炎に向ける。
銃口を向けられても陽炎はそれを夜色の目で見つめてから、鴉座に視線をやるだけ。
鴉座は、口の端をあげて、陽炎を試すようにセーフティを外す。
「こんなことより、もっと酷いことなんですけれど」
「お前が俺に対して残酷になるときは、大抵俺絡みだから俺がいいって言えばいいんじゃない?」
「陽炎」
鴉座は、指先で引き金を絞る。
「死なないでくださいね」
かちゃり。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる