190 / 358
第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第四話 他人事じゃないな
しおりを挟む
「いつ? あゆちゃんが孔雀の力に取り込まれる日って」
「わかんない。でも呉は焦ってた……だから、蒼刻一なんかにっ」
「……――もし短い期間だったら、間に合わなさそうだ。いや、間に合うかも……微妙な時期に来たなぁ、あゆちゃん!」
「じゃあ……僕は、死ぬしかないの?」
亜弓は鴉座の胸ぐらを放すと、また俯き、ため息をついた。
そのため息は悲しみからではない、呉という人物への思いからだ。
自分が死ぬくらいどうってことないと似たようなことを言ったとき、あの怒り方は尋常じゃなかった。まるで閻魔を見ているような、彼こそが悪魔なんじゃないだろうかと思うほど怖くて。
「あいつ、暴走しそうだな……」
その一言に陽炎は何処か身近なものを感じてしまい、ふと他人事ではない感じがしてしまった。
暴走しそうな連中を抱えたときの苦労といったら、今思い出せば苦笑で済まされるが、当時はため息を永遠についてしまえる程、気苦労が絶えなかった。
「やるだけやってみたらいいと思う」
だから、少しでも亜弓の力になれればいいと思って、そう言ってみると、亜弓はその年頃らしい少年の笑みを浮かべて、うん、と可愛らしく頷いた。
それから鼻を啜って、涙でぐちょぐちょだった顔を両手で拭う。それを見た柘榴がハンカチを差し出して、それを使うように勧める。
亜弓はハンカチを受け取ると涙で濡れた手をハンカチで拭いて、にっと三人に笑いかけた。
「そうだね、やらずに諦めるよりかはマシだ! 有難う!」
「……それにしても、何で皆を排除して俺と柘榴と鴉座を入れた会話にしたの?」
陽炎がそれを問うと、亜弓は頭をかいて、非常に寂しげな笑みを浮かべて、ため息をついた。
先ほどまでの歯切れの良さを忘れてしまいそうなほど、非常に切り出しにくそうに頬をかいて、視線を彷徨わせる。
「――同性愛の話って、しづらい、から」
「……ああ」
その言葉で陽炎は納得した。
そういえば、日頃から男に好かれてる陽炎には最早何とでもないが、最初の頃は己も彼のように受け入れがたかったのだ。
世界中が己に注目してるような感覚が襲って、いけないことのような気がしたのだ。
亜弓は多分その感覚を背負っている。
それを己が解きほぐすことは難しいだろうけれど、少しでも力になりたかった。
やはり、他人事だとは思えないからだろう――。
それに気付いた柘榴が先に口を開いて、にーっと亜弓と同じような微笑み方で、笑った。
「……あゆちゃん、そこにいるかげ君はね、なんと鴉のにーさんの他に、カニ男、わっしー、獅子舞、水瓶と四人の男に好かれていたから、この家では気にしないでいいんだよ?」
「……そう言われても、気になる物は気になるんだ。僕、人目を気にするタチだから」
「……――じゃあ、せめて鴉のにーさんとかげ君が一緒の時は気にしないで平気。おいらだって、平気だよん。そんなことで差別しませんカラ」
ね、と柘榴が笑いかけると、亜弓はまたしても涙腺が緩み、柘榴に飛びつくのだった。
「わかんない。でも呉は焦ってた……だから、蒼刻一なんかにっ」
「……――もし短い期間だったら、間に合わなさそうだ。いや、間に合うかも……微妙な時期に来たなぁ、あゆちゃん!」
「じゃあ……僕は、死ぬしかないの?」
亜弓は鴉座の胸ぐらを放すと、また俯き、ため息をついた。
そのため息は悲しみからではない、呉という人物への思いからだ。
自分が死ぬくらいどうってことないと似たようなことを言ったとき、あの怒り方は尋常じゃなかった。まるで閻魔を見ているような、彼こそが悪魔なんじゃないだろうかと思うほど怖くて。
「あいつ、暴走しそうだな……」
その一言に陽炎は何処か身近なものを感じてしまい、ふと他人事ではない感じがしてしまった。
暴走しそうな連中を抱えたときの苦労といったら、今思い出せば苦笑で済まされるが、当時はため息を永遠についてしまえる程、気苦労が絶えなかった。
「やるだけやってみたらいいと思う」
だから、少しでも亜弓の力になれればいいと思って、そう言ってみると、亜弓はその年頃らしい少年の笑みを浮かべて、うん、と可愛らしく頷いた。
それから鼻を啜って、涙でぐちょぐちょだった顔を両手で拭う。それを見た柘榴がハンカチを差し出して、それを使うように勧める。
亜弓はハンカチを受け取ると涙で濡れた手をハンカチで拭いて、にっと三人に笑いかけた。
「そうだね、やらずに諦めるよりかはマシだ! 有難う!」
「……それにしても、何で皆を排除して俺と柘榴と鴉座を入れた会話にしたの?」
陽炎がそれを問うと、亜弓は頭をかいて、非常に寂しげな笑みを浮かべて、ため息をついた。
先ほどまでの歯切れの良さを忘れてしまいそうなほど、非常に切り出しにくそうに頬をかいて、視線を彷徨わせる。
「――同性愛の話って、しづらい、から」
「……ああ」
その言葉で陽炎は納得した。
そういえば、日頃から男に好かれてる陽炎には最早何とでもないが、最初の頃は己も彼のように受け入れがたかったのだ。
世界中が己に注目してるような感覚が襲って、いけないことのような気がしたのだ。
亜弓は多分その感覚を背負っている。
それを己が解きほぐすことは難しいだろうけれど、少しでも力になりたかった。
やはり、他人事だとは思えないからだろう――。
それに気付いた柘榴が先に口を開いて、にーっと亜弓と同じような微笑み方で、笑った。
「……あゆちゃん、そこにいるかげ君はね、なんと鴉のにーさんの他に、カニ男、わっしー、獅子舞、水瓶と四人の男に好かれていたから、この家では気にしないでいいんだよ?」
「……そう言われても、気になる物は気になるんだ。僕、人目を気にするタチだから」
「……――じゃあ、せめて鴉のにーさんとかげ君が一緒の時は気にしないで平気。おいらだって、平気だよん。そんなことで差別しませんカラ」
ね、と柘榴が笑いかけると、亜弓はまたしても涙腺が緩み、柘榴に飛びつくのだった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる