【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー

第三話 陽炎と亜弓の邂逅

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 広間につくと、そこには柘榴と魚座が居て、一人見知らぬピンク髪の少年が居たので陽炎はそれが亜弓だと分かるなり、緊張する。
 それを見抜いていた柘榴は苦笑を浮かべて、「かげ君、顔引きつってる」とからかいながら、亜弓に陽炎を紹介する。
 少年は、ピンク髪の頭で、長くて邪魔なのか前髪をボンボン付きのゴムで留めている。
 瞳の色は、青緑色で、とびきり綺麗な宝石のようだったが、つり目の印象が強くて、綺麗と思うよりも前に、少し生意気そうだなと思う気持ちのが先に思ってしまうタイプの外見だった。
 青いジャージは少し色あせていて、泥がついていた。
 少年の外見は全く違うのに、何処かの誰かを思い出させる――雰囲気が、まったくもってそっくりなのだ。柘榴に。
 何処か身に纏ってる、気安い雰囲気が、思わず手を差し伸べたくなるような親しみを覚えさせる。
 だがそれがつり目により打ち消されているので、残念だ。
 荷物が少し泥を被って放っておかれている、旅人のようだ。何よりこの街で見かけないタイプの顔だから。

「陽炎さん? ああ、良かった、まだ無事だったんだね……本当に、良かった」
「初めまして。それで、何かあったのか? 柘榴の顔を見に来たってわけでもなさそうだし……」
「ああ、ええとね……ああと、その、鴉座と陽炎さんと柘榴兄にだけ話したいから、場所作ってくれないかな。その後で他の星座達に巧く話を纏めて伝えて、僕じゃ巧く言えないから」

 亜弓が赤面して言いづらそうに口ごもりかけながらそう言うと、柘榴はきょとんとしてから、分かったと頷いて、己の部屋を使おうと言いだし、鴉座と陽炎と亜弓を連れて行く。
 
 そして皆の注目を浴びながら部屋に辿り着いたとき、亜弓が感極まったように、わぁっと泣き出して、柘榴に飛びつく。

「柘榴兄、柘榴兄ーーーっ、どうしよう、どうしよう!!」
「ど、どしたの、あゆちゃん?」
「僕、僕、男の人、好きになっちゃったんだぁああ! しかもその人が、僕を郷から攫うって宣言してるんだ!」
「……えっと、郷から攫わないでも、みゆに族長の座を明け渡せば……分からない人じゃないと思……?」

 亜弓は柘榴から少し離れて、えぐえぐと泣きながら首をぶんぶんと横にふる。

「蒼刻一に陽炎さんと、柘榴兄を差し出して、攫うって言ったんだ! その馬鹿は!」
「!!」

 蒼刻一の名を聞いて、それまでのほほんと僅かにしていた柘榴の顔も、少し緊張していた陽炎の顔も、興味なさそうだった鴉座の顔も引き締まった。
 亜弓はそれぞれの反応を見ることなく、顔を俯かせて、涙を拭う。

「僕ね、氷の孔雀を体内に飼って居るんだ。意識を失うとこいつ、出てくるんだけど、海幸が言うには、その人のことを孔雀が好きで、孔雀は僕にとられないために、その人に僕に心を許さないって契約を結んだんだって」
「氷の孔雀が!? 何だってそんなことを?!」
「わかんない! ……それで、その人は僕が孔雀の氷で凍り付いて死なないうちに、孔雀から解放するために蒼刻一と取引したみたいなんだ。それが……」
「俺と柘榴、か」

 陽炎が亜弓をまじまじと見やる。
 この小さな体に、本当に氷の孔雀なんて幻想的な生き物が住んでいるのかと、まるで内側を見るような目で見やったが、亜弓はそれを責めてる目だと受け止めて、ごめんなさい、と続ける。
 陽炎は謝られると、頬をかいて、亜弓に苦笑を浮かべる。

「気にするな、とは言えないけど、まぁしょうがないさ。それで、どんな人? お前が好きになった人って」
「……呉っていう人で、ちまたでは人間鑑定士って言われてるらしいだけど、知ってる?」
「人間鑑定士……確か、自分の決めた額に見合うかどうか二週間見届けて、見合ったら人に売って、見合わなかったら殺すんだっけ?」
「そうそう、そんなこと言っていた」

 人間鑑定士は、確か賞金の額も高かった、とは流石に彼が思い人の亜弓の前では言い出せず、それで覚えていたなんて言おうものなら青ざめられそうだった。
 亜弓は兎に角、気が動転していて、鴉座はそれを宥めて、柘榴は何かを考えていた――。
 
「何を考えて居るんだ、柘榴?」
「いや、おいらだけなら兎も角、かげ君を巻き込む理由って何だろうって思って――」
「……また、星座関連かな」
「今回は、違う気がする。あゆちゃんにまで被害がいくって、何かいやーな予感がするんだわさ」

 柘榴はため息をついて、ポケットからプラネタリウムを取り出す。
 そしてプラネタリウムを宙に放り投げて、キャッチして、それを眺める。
 黒い塊を見て、鴉座は一つ何かを思い出したらしく、亜弓に声をかける。

「……幽霊座って知ってますか?」
「幽霊座?」
「亜弓のことを仰っていたので。以前お会いしたんですよ――幽霊座、ご存じない?」
「幽霊座? いや……知らない、いや、待って。それってゴースト?! ゴーストなら知ってる!」
「ゴーストって単語は確か、俺の国の単語で、幽霊を意味するよ」

 陽炎がそういうと亜弓は目を丸くして、そう、と呟き、遠い目をした。
 あれが幽霊座だったのか、と何処か納得がいく。そういえば蒼刻一の妖仔とはいえ、物凄く感情豊かで、己の思い人と戦っていた妖仔とは少し異質だった。
 鴉座は亜弓に笑いかけて、以前会った幽霊座の話をする。あの火の玉と、薄暗い泣き虫の声を思い出して。

「貴方のことをとても気に入ってる様子でした。仮ご主人様とやらが、貴方について頑張っていると仰ってましたが、まさか悪い方面で頑張っているとは……」
「……ねぇ、ゴーストは何しに君に会いに来たの?」
「闇の十二宮を自覚するようお教え下さいました」
「……君の能力って……」
「呪いを、食べてしまうんです。塩コショウかけて、ね」

 にこりと鴉座が微笑むと、亜弓は目を輝かせて、鴉座の胸ぐらをがしっと掴む。
 鴉座は目を見開くと同時に亜弓の眼前にまで顔を持って行かれて、驚いている。

「呪いを食べる!? 僕の孔雀も食べられる?!」
「……どうでしょう、柘榴様」

 柘榴の方に視線を二人で向けると、柘榴は信用半分だけの教科書を取り出してピピッと弄る。
 そして出てきた文字を見つめて、唸り、亜弓に視線を向ける。
 
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