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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第二話 来訪者の聖霊
しおりを挟む「蓮見ッ、蓮見ー!」
「かげちゃー! かげちゃー! あはっ!」
庭に、陽炎と少し大きくなった蓮見がじゃれる姿。
それを見守り、微笑ましげに頬の筋肉が緩んでる牡羊座と鴉座。
「……地上の楽園ですわ」
「こんな光景があったんですね、この世にも」
「生きていて良かったと思える日が、再び来るとは、流石我が元・神ですわ!」
牡羊座は瞳を潤ませて、そっと涙を拭うふりをした。
鴉座は暖かい紅茶を入れて、砂糖とミルクの確認をしてから、二人を呼ぶ。
陽炎は蓮見を腹の上に乗せていて、声に気づくなり蓮見を抱き上げて、陽炎は満面の笑みでオープンテラスに歩み寄る。
「何、話してたんだよ?」
「蓮見様のこれからについて」
「蓮見は父ちゃんみたいな妖術師になりたいんだってさー」
そういって陽炎は破顔しながら抱えてる蓮見に笑いかけると、蓮見は、朗らかに笑い返しこくこくと頷いた。
その姿を見て、牡羊座は顔をしかめっつらにして、ため息をつく。
「駄目。あたくし、どっちに嫉妬していいか分からない。我が元・神を独り占めする蓮見に、それとも蓮見に名前を覚えて貰える我が元・神にか……」
「あれ、まだ蓮見、ママって呼べてないの?」
「ええ、こんなにも愛してるのにあたくしのことママって呼んでくださりませんの。悪鬼のことはパパって呼んでくださるのに……!」
蓮見を陽炎から受け取り、牡羊座はため息を深くした。
それを見て、陽炎は苦笑を浮かべて、もうすぐ蓮見の誕生日なのだなぁと思い出す。
蓮見は感情豊かだが、あまり物を欲しがると言うことをしないから、鴉座と二人で蓮見を見ては悩み、を繰り返していた。
息の詰まるこの週末、ちょっと蓮見と触れ合ってみたらという柘榴の意見に耳を傾けて、久しぶりにこの幼子とふれあい、若返った気がした陽炎だが、陽炎はあまり外見が老けることはない。
というのも昔に白雪に捕らえられているときに、外見の変わることのない薬を飲まされていた副作用だ。
陽炎自身は気にした様子もないが、白雪はそのことについて少しは気にしているようだ。 時折、陽炎を見ては悲しげな目をして、謝罪することがある。
「白雪は何をあげるんだろう」
「白雪は能力じゃなく、自力で雪だるま一緒に作るって約束してましたわ」
「蓮見、雪だるま好きなの?」
「パパーだるまーかぁいー」
蓮見は単語ごとに伸ばし喋る。そしてにこにことして、鴉座からジュースの小さい子用の水筒を受け取り、ジュースをストローで飲む。
牡羊座はそんな蓮見を抱き支えながら、牡羊座は蓮見に笑いかけて、頬をぷにっと潰す。
「蓮見はパパが大好きですものね」
「ねー」
「ママは? ママは好き?」
「好きー。まー。」
「あと一文字……!!」
「陽炎どのっ」
室内の方から声を掛けてきたのは鷲座。
鷲座はオープンテラスに繋がる通路から駆けてきて、陽炎を見るなり、微笑みかけた。
そして鴉座と目が合うなり、火花を散らせる。
「ああ、居たんですか」
「ええ、いつも一緒ですから。寂しがりですからね、この人は」
「それなら小生が一緒に居よう、ね、陽炎どの。ああ、もうとりあえず来てください」
「えーっと、何の用事か聞いてからにする」
「亜弓どのが来て、貴方に会わせろって言うんです」
「は?!」
陽炎は持っていたティーカップをソーサーにがちゃんと音を立てて置いて、立ち上がる。
座っていた椅子が地面に反動で転がり、それを鴉座は直しながら二人の会話に耳を傾ける。
「亜弓って誰……?」
「ガンジラニーニの一族ですわ。聖霊様の義弟のような方だと聞いたことがありますわ」
「そんな子がどうして、俺に?」
「二人揃わないと話さないって言ってる上に、一刻も争うときだと仰ってます。というわけで、来てくださいますね?」
鷲座が細い目を光らせて陽炎に問いかけると、陽炎はこくりと頷く。
頷くなり、陽炎の手を繋ぎ、鷲座はオープンテラスを出て行く。
鴉座が慌てて牡羊座に去ることを告げてから、追いかける。
「誘導するなら私がやりますから、お前は手を放しなさい」
「断る。小生が繋ぎたくて繋いでいる」
「鷲座、あのな、何回も言うようだけれど……」
「小生はッ……すっきりと、蟹座のようになるまで、諦めません」
「……――あれ、大分時間かかったぞ」
陽炎は苦笑して、しょうがないと諦めの姿勢を見せる。
それに鴉座はため息をつきながらも、きっと自分が鷲座と逆の立場なら同じようなことを言っていた気がするので、同じく少しだけ諦めの姿勢を見せる。
それでもちょっとの隙を見せても奪われないように。
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