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第四部 亜弓と呉~氷の孔雀編~
第十一話 いらつくからやめろ
しおりを挟む二日後には、遠くに旗が見えた。
どこの国の戦国時代だ、と思うような、戦の証である旗が。
亜弓は出来るだけ決闘で治めたいと思ったので、長に提案してみるも、却下される。
長が却下したのは亜弓の力を信じてないわけじゃない。
だが、また昔のように約束が破棄される恐れを抱いている。だから、亜弓が勝ったとしても、無かったことにされ、郷を襲われるのではないだろうかという不安がある。
呉曰く、その勘は正しい物らしく、海幸は妖術を使って水晶玉に敵陣を映しだし、様子を見守る。
「亜弓、海幸、月の子、偵察に行ってきてはくれんか?」
「んー、今、土樹と風花のトップが離れて大丈夫ですかねぇ?」
海幸が心配するようにそう長に尋ねたが、既に応戦する気満々の同胞達を見つけ、成る程、と頷く。
ようは、状況だけ見て、先に突っ込めと言ってるのだろう。
海幸は分かったと頷いた後、亜弓に確認するが、亜弓は少しぼーっとしていて、海幸の声ではっとし、すぐに謝る。
「ご、ごめん、僕、少しぼーっとしてた!」
「あゆ、いいのいいの。思う存分ぼーっとしてなさい。そして俺の生き様に惚れるがいいさ!」
「み、海幸!」
亜弓は慌てたように爽やかに笑いかける海幸の口を、塞ごうとするが、海幸は手を払いのけて、ぎゅーっと抱きつく。
それを見て、呉は眉をひそめ、正気を疑う。
「……? 亜弓、あいつの頭は大丈夫か? 何かあったのか?」
「ちょっと待った、根暗の呉くん。何で俺に直接聞かない」
「お前とは相性が悪いどころの話じゃないから」
「――あんたのそーいうところ、おにーさん嫌いでしてよっ!」
「け、喧嘩しないで、二人とも!!」
亜弓はすぐにまたぼうっとしたが、現実に戻るのが割合早く、けんか腰の海幸に気づくなり、海幸を落ち着かせる。
海幸はにこーっと笑い、亜弓を撫でてから、「外で待ってる」と、出て行ってしまった。
亜弓は彼の狙い通り意識して、集中できなくなっている。
ため息をつくなり、長と呉にどうしたと尋ねられるが、素直に「告白されましたー」なんて言えるわけがない。
亜弓は人目を気にしないようで居て、結構そういうのは気にするのだ。結果、二人には亜弓は何でもないと嘘をつき、テントをすぐに出る。
テントをすぐ出れば、郷の出口で待ってる海幸の姿を見つけ、亜弓は顔を少し火照らせる。
後に続いて出た呉は、亜弓の様子に、亜弓の視線の先に、成る程と納得がいき、亜弓に声を掛ける。
「好きだとでも言われたか」
「ええええええ!? あ、いや、その……」
「……お前も、好き、なのか?」
「……――違うと思っていたんだけど、分からないんだ」
「分からない?」
「海幸の顔見ると、なんていうんだろー、こう、顔が赤くなるんだ……意識しちゃってるのかなぁ」
「だろうな。――あの弱虫が、告白、ねぇ……よっぽど焦ってると見た」
呉が不敵に笑うので、亜弓は首傾げて何に焦るのと問いかけた。
呉は言おうか言うまいか悩んだ挙げ句に、曖昧に言葉を返すことに決めた。
「孔雀を奪われるのが嫌なんだろう。自分が仕掛けた妖術だ」
「ええと?」
「まぁ独占欲が強いということだ。お前はあいつに答えたいのか?」
「……答えるも、何も、僕も海幸も男同士で……」
「そのくだり、苛つく」
「苛つかれたって、やっぱり戸惑うよ! 他の人が苛ついたって知らないよ、僕の問題だ!」
亜弓は呉の言葉に躊躇うが逃げるようにそう言い残して海幸の元へ駆けると、海幸が己を気遣う。
何やら最後の言葉が聞こえていたらしく、亜弓は言葉少なく、ごめんと謝るだけだった。
その背を見て、呉はつまらなさそうな顔をした。
(――夢を本気にした俺が馬鹿だった。孔雀には、俺以外にも居るじゃないか……何だ、こう考えるとまるで俺もあの男と同じように孔雀が好きみたいじゃねぇか。違うんだ、俺は違う。俺は、――……ただ、)
「孤独が常の同類が居るかと思っただけだ」
呉はぼそりと呟き、彼らを警戒するように、まるで愛情に恐れるようにゆっくりと近づき、足並みを揃えず、じゃれあう彼らの後ろをついて歩く。
亜弓は後ろが気になるも、隣にいる海幸も気になり、ただ視線がくっついて回らないことを祈るだけだった。
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