【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第四部 亜弓と呉~氷の孔雀編~

第二話 和解を目指して

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 月獅民族という民族は民族にしては多数派の、民族で小さな集落をぽつぽつと同じ大陸にだが散りばめて存在する。
 それはより多くの同胞が生き延びる為の術だった。里が分けられていれば、何かあったとき分けられた里が復讐出来るし、食料不足に困ることもないからだ。
 ガンジラニーニと違って健康的な小麦の肌色を元来から持っていて、ガンジラニーニを悪霊と長年言い続けてきた敵対民族。
 正義感の塊みたいな部族で、蒼刻一に関係する者を一切許さない。だがそれと同時に蒼刻一に怯えきっているので、それに関わるガンジラニーニを蔑む民族だった。

 ――だが最近になり、何故かガンジラニーニとの和解を望んできた。

 ガンジラニーニ達は、月獅民族は条約の破棄に関わっていなかったので、若干戸惑いつつもそれを受け入れるかどうか、迷っていた。

「と、いうわけで、俺たちが交渉に向かわされたわけ。分かった? 鮎」
「んー、なんっか難しいなぁ。ようは、親睦でしょー?」

 青い頭の長身の男と、ピンク髪の少年が森を歩き、森林浴をしながら、月獅民族の里へ向かう。
 青い頭の男の方は、名を海幸(みゆき)と言い、土樹(つちいつき)と呼ばれるガンジラニーニの妖術部隊の頭角で、ピンク頭の少年の方は名を亜弓(あゆみ)といい、風花(かざはな)と呼ばれる武術部隊の頭角だ。
 海幸は青い髪の毛を陽に曝し、さらさらと少し長めの後ろ髪を指でいじくる。
 本来ならば青白い肌なのだろうが、ガンジラニーニの妖術で彼は小麦色の、月獅民族に間違われても仕方ない肌色をしていて、ピンクの綺麗な瞳をしていた。
 容姿は若干優れている方だろう。女子からウケが良いのは外見ではなく、彼の軽い人柄からなのだが、容姿が良ければそれはウケも更に良くなるというもので。
 一方亜弓は女子よりも子供ウケする性格で、容姿も特別優れているわけではない。
 だからか、泥んこになってもへっちゃらで子供達と遊び、海幸に説教される。
 亜弓は色素の薄い桜髪を前髪だけ伸ばしていて、それをぼんぼんのついた髪ゴムで止めていて、おでこが綺麗に見えている。
 海幸が民族衣装なのに、亜弓は青いジャージ姿で肌色は少し白めの黄色肌だ。

 二人は幼い頃から仲が良くて、二人で――否、柘榴と三人でしょっちゅうつるむ仲だった。
 だが柘榴は郷から旅立ち、巣立ちをした。亜弓は郷に残り、一族を守ろうとしている。
 海幸は亜弓につられるように郷で妖術で、肌色の調整が未完である子供達の為の薬を作る日々だ。
 そんなこんなで月日は流れ、二人はいつの間にかそれぞれの専門分野の頭角にまで出世して、こうして大事な親睦を任されることとなった。
 だけど人選間違ったんじゃないだろうかと、海幸は亜弓があははと笑う度に、頭痛で顔を顰めて、痛感する。
 ――だが、彼の野生の勘は目を見張るものがあるので、その勘で掴めないこの事情がどうにかなれば、と思う所もある。
 それを知らずに――知られていても困るが――亜弓は、森林を気持ちよさそうに歩き、伸びをする。
 それを見て、海幸は苦笑を浮かべる。

「あゆー、よく分かってないじゃあ困るんだよ、いいか、おれたちゃーな、だいーじなお話しを任されてるんだよー? 一族代表でッ」
「うん、大事なのは分かるんだけどね、でも大事ってことしかわかんないや。難しい話を僕にしたって、無駄無駄! 難しい話ってね、僕、耳が素通りするんだよ、知ってた?!」
「薄々知っていました。だからお願い、理解してくれえいッ!」

 ぐすぐすと大の男が泣き真似をしつつ、少年の後ろをついていく。
 なんと奇妙な光景だろうか。
 図体のでかくて年上の青年が、子供の幼さを残す少年に従っている。これを奇妙と言わず、どう言おう。
 実際二人は、何処か亜弓の方が主導権を握っている部分が多々見られる。
 それもひとえに、海幸が亜弓に甘いというのと、亜弓が何を言っても聞き入れてくれないからだろう。
 亜弓はこうと決めたら、とことん突っ走る熱血馬鹿タイプで、海幸は熱しにくく冷めやすいという非常に変な立ち位置なのだ。
 引っ張ってくれる亜弓だからこそ、海幸はその引っ張られる手に心地よさを感じ、「いいよ、好きなこと何でもしなよ。尻ぬぐいは任せて」と海幸に言わせてしまい、今にこういう関係にまで至った。

 ぐすぐすと泣き真似をする海幸をそのままに鼻歌を歌い、亜弓は遠くをめざし歩く。

 何故だかここまで天気が良い日には、思い出す遠い昔のことを。
 そう昔、月獅民族に一人だけ亜弓は内緒で会ったことがあるのだ。だけどその子は何故だか名前がなくて、己を名無しと名乗っていた。
 その子に何か名前をあげたのだが、その名前は遠い記憶の今ではすっかり色あせ無くしている。
 その子供と定期的に遊んではいたのだが、とある日に、その子供が崖から落ちそうになり、己が子供を助ける代わりに落ち、柘榴が偶然それを目撃し、術で地面すれすれで亜弓を浮遊させて、助けて貰ってから、郷の大人達に怒られた。それ以来会っていない。
 今、あの子供は何をしているのか。元気でいるだろうか、泣いては居ないだろうか。偶に気になる――何せ、初めてのガンジラニーニ以外の友達だったから。

「懐かしいなぁ」
「何が?」
「いや、何でも、――あ」
 亜弓は何かを見つけたのか指を差す。


 指を指された方角には、月獅民族の人間が立っていて、にこりと亜弓達を手招いた。
 坊主頭の少年で、小麦色の上半身をさらけ出していて、下は動きやすそうな格好をしていた。
 槍を手に持ってはいるが、威嚇はしてこない。
 それを見て今回の親睦話はホンモノなのだと簡単に信じる熱血馬鹿と、まだ疑う軟弱男子。
 双方の反応に少年は苦笑を浮かべながらも、自己紹介をする。

「始めまして、冬(トン)です」
「トン? 変わった響きだねぇ。あ、僕、風花の亜弓です」
「土樹の海幸です、此度は有難いお話、どうも。でもどうして急に心変わりを?」
「――詳しい話は、長に聞いてください。私のようなただの案内係には何も知らされてないんです」
「何も知らされてないのに、違和感ない?」

 海幸が探りを入れるような質問をかけると、冬はにこりと微笑んで嬉しそうな顔を見せた。

「聖霊様の妖術があれば、私の病気の妹が治ります。とても有難い話なんです、私には」
「よーは、妖術目当て、か」
「こらっ海幸! いつからそんな子になったの! 妹さんを治したい、すっばらしい家族思いじゃあないか! 大丈夫大丈夫、親睦が深められたらこの人がきっと治してくれるよ」
「鮎! 早々に約束するんじゃないの! 出来ないかもしれないだろうがっ」
「僕は信じているよ、彼の妹、即ち海幸の女の子に対する良心と真の力を!」

 きらきらと目を輝かせて亜弓は海幸を見つめる。海幸は無垢な亜弓の目、それも仄かに微妙な思いを抱いている相手にそんな目をされて、困惑し、ため息をつく。
 この子供は己の思いを分かっていてそんな目をしているのだとしたら、相当な曲者だが、この子供に限ってはそれはない、そんなことを思いながら。

「……――鮎、お前ね、俺のこと何だと思ってるの」
「ナンパ野郎で脆弱な奴」
「ぐすん、その通りですわよっ!」

 今までの素行が悪すぎた海幸は、両手で顔を隠し、泣き真似をし、亜弓に笑われる。

「ははっ、じゃあ行きましょうか。巧く話が纏まることを祈っております――」

 冬は二人のやりとりに、ふっと可笑しそうに噴き出して、歩を進めて道を案内する。
 亜弓ははぁいと片手をあげて、行こうとしたが、ふと立ち止まり、首を傾げる。
 その様子に海幸はどうしたのかと尋ねるが亜弓は何も言わないので、このことは忘れることとした。

(気のせいかな、何か視線を感じたのだけれど――)
 亜弓は、少し気にしながらも冬の後に続く――。


 「……こいつぁ、参ったね。聖霊様、かね」

 褐色の少年が、空の上からそれを見守っている――。

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