170 / 358
第四部 亜弓と呉~氷の孔雀編~
第二話 和解を目指して
しおりを挟む月獅民族という民族は民族にしては多数派の、民族で小さな集落をぽつぽつと同じ大陸にだが散りばめて存在する。
それはより多くの同胞が生き延びる為の術だった。里が分けられていれば、何かあったとき分けられた里が復讐出来るし、食料不足に困ることもないからだ。
ガンジラニーニと違って健康的な小麦の肌色を元来から持っていて、ガンジラニーニを悪霊と長年言い続けてきた敵対民族。
正義感の塊みたいな部族で、蒼刻一に関係する者を一切許さない。だがそれと同時に蒼刻一に怯えきっているので、それに関わるガンジラニーニを蔑む民族だった。
――だが最近になり、何故かガンジラニーニとの和解を望んできた。
ガンジラニーニ達は、月獅民族は条約の破棄に関わっていなかったので、若干戸惑いつつもそれを受け入れるかどうか、迷っていた。
「と、いうわけで、俺たちが交渉に向かわされたわけ。分かった? 鮎」
「んー、なんっか難しいなぁ。ようは、親睦でしょー?」
青い頭の長身の男と、ピンク髪の少年が森を歩き、森林浴をしながら、月獅民族の里へ向かう。
青い頭の男の方は、名を海幸(みゆき)と言い、土樹(つちいつき)と呼ばれるガンジラニーニの妖術部隊の頭角で、ピンク頭の少年の方は名を亜弓(あゆみ)といい、風花(かざはな)と呼ばれる武術部隊の頭角だ。
海幸は青い髪の毛を陽に曝し、さらさらと少し長めの後ろ髪を指でいじくる。
本来ならば青白い肌なのだろうが、ガンジラニーニの妖術で彼は小麦色の、月獅民族に間違われても仕方ない肌色をしていて、ピンクの綺麗な瞳をしていた。
容姿は若干優れている方だろう。女子からウケが良いのは外見ではなく、彼の軽い人柄からなのだが、容姿が良ければそれはウケも更に良くなるというもので。
一方亜弓は女子よりも子供ウケする性格で、容姿も特別優れているわけではない。
だからか、泥んこになってもへっちゃらで子供達と遊び、海幸に説教される。
亜弓は色素の薄い桜髪を前髪だけ伸ばしていて、それをぼんぼんのついた髪ゴムで止めていて、おでこが綺麗に見えている。
海幸が民族衣装なのに、亜弓は青いジャージ姿で肌色は少し白めの黄色肌だ。
二人は幼い頃から仲が良くて、二人で――否、柘榴と三人でしょっちゅうつるむ仲だった。
だが柘榴は郷から旅立ち、巣立ちをした。亜弓は郷に残り、一族を守ろうとしている。
海幸は亜弓につられるように郷で妖術で、肌色の調整が未完である子供達の為の薬を作る日々だ。
そんなこんなで月日は流れ、二人はいつの間にかそれぞれの専門分野の頭角にまで出世して、こうして大事な親睦を任されることとなった。
だけど人選間違ったんじゃないだろうかと、海幸は亜弓があははと笑う度に、頭痛で顔を顰めて、痛感する。
――だが、彼の野生の勘は目を見張るものがあるので、その勘で掴めないこの事情がどうにかなれば、と思う所もある。
それを知らずに――知られていても困るが――亜弓は、森林を気持ちよさそうに歩き、伸びをする。
それを見て、海幸は苦笑を浮かべる。
「あゆー、よく分かってないじゃあ困るんだよ、いいか、おれたちゃーな、だいーじなお話しを任されてるんだよー? 一族代表でッ」
「うん、大事なのは分かるんだけどね、でも大事ってことしかわかんないや。難しい話を僕にしたって、無駄無駄! 難しい話ってね、僕、耳が素通りするんだよ、知ってた?!」
「薄々知っていました。だからお願い、理解してくれえいッ!」
ぐすぐすと大の男が泣き真似をしつつ、少年の後ろをついていく。
なんと奇妙な光景だろうか。
図体のでかくて年上の青年が、子供の幼さを残す少年に従っている。これを奇妙と言わず、どう言おう。
実際二人は、何処か亜弓の方が主導権を握っている部分が多々見られる。
それもひとえに、海幸が亜弓に甘いというのと、亜弓が何を言っても聞き入れてくれないからだろう。
亜弓はこうと決めたら、とことん突っ走る熱血馬鹿タイプで、海幸は熱しにくく冷めやすいという非常に変な立ち位置なのだ。
引っ張ってくれる亜弓だからこそ、海幸はその引っ張られる手に心地よさを感じ、「いいよ、好きなこと何でもしなよ。尻ぬぐいは任せて」と海幸に言わせてしまい、今にこういう関係にまで至った。
ぐすぐすと泣き真似をする海幸をそのままに鼻歌を歌い、亜弓は遠くをめざし歩く。
何故だかここまで天気が良い日には、思い出す遠い昔のことを。
そう昔、月獅民族に一人だけ亜弓は内緒で会ったことがあるのだ。だけどその子は何故だか名前がなくて、己を名無しと名乗っていた。
その子に何か名前をあげたのだが、その名前は遠い記憶の今ではすっかり色あせ無くしている。
その子供と定期的に遊んではいたのだが、とある日に、その子供が崖から落ちそうになり、己が子供を助ける代わりに落ち、柘榴が偶然それを目撃し、術で地面すれすれで亜弓を浮遊させて、助けて貰ってから、郷の大人達に怒られた。それ以来会っていない。
今、あの子供は何をしているのか。元気でいるだろうか、泣いては居ないだろうか。偶に気になる――何せ、初めてのガンジラニーニ以外の友達だったから。
「懐かしいなぁ」
「何が?」
「いや、何でも、――あ」
亜弓は何かを見つけたのか指を差す。
指を指された方角には、月獅民族の人間が立っていて、にこりと亜弓達を手招いた。
坊主頭の少年で、小麦色の上半身をさらけ出していて、下は動きやすそうな格好をしていた。
槍を手に持ってはいるが、威嚇はしてこない。
それを見て今回の親睦話はホンモノなのだと簡単に信じる熱血馬鹿と、まだ疑う軟弱男子。
双方の反応に少年は苦笑を浮かべながらも、自己紹介をする。
「始めまして、冬(トン)です」
「トン? 変わった響きだねぇ。あ、僕、風花の亜弓です」
「土樹の海幸です、此度は有難いお話、どうも。でもどうして急に心変わりを?」
「――詳しい話は、長に聞いてください。私のようなただの案内係には何も知らされてないんです」
「何も知らされてないのに、違和感ない?」
海幸が探りを入れるような質問をかけると、冬はにこりと微笑んで嬉しそうな顔を見せた。
「聖霊様の妖術があれば、私の病気の妹が治ります。とても有難い話なんです、私には」
「よーは、妖術目当て、か」
「こらっ海幸! いつからそんな子になったの! 妹さんを治したい、すっばらしい家族思いじゃあないか! 大丈夫大丈夫、親睦が深められたらこの人がきっと治してくれるよ」
「鮎! 早々に約束するんじゃないの! 出来ないかもしれないだろうがっ」
「僕は信じているよ、彼の妹、即ち海幸の女の子に対する良心と真の力を!」
きらきらと目を輝かせて亜弓は海幸を見つめる。海幸は無垢な亜弓の目、それも仄かに微妙な思いを抱いている相手にそんな目をされて、困惑し、ため息をつく。
この子供は己の思いを分かっていてそんな目をしているのだとしたら、相当な曲者だが、この子供に限ってはそれはない、そんなことを思いながら。
「……――鮎、お前ね、俺のこと何だと思ってるの」
「ナンパ野郎で脆弱な奴」
「ぐすん、その通りですわよっ!」
今までの素行が悪すぎた海幸は、両手で顔を隠し、泣き真似をし、亜弓に笑われる。
「ははっ、じゃあ行きましょうか。巧く話が纏まることを祈っております――」
冬は二人のやりとりに、ふっと可笑しそうに噴き出して、歩を進めて道を案内する。
亜弓ははぁいと片手をあげて、行こうとしたが、ふと立ち止まり、首を傾げる。
その様子に海幸はどうしたのかと尋ねるが亜弓は何も言わないので、このことは忘れることとした。
(気のせいかな、何か視線を感じたのだけれど――)
亜弓は、少し気にしながらも冬の後に続く――。
「……こいつぁ、参ったね。聖霊様、かね」
褐色の少年が、空の上からそれを見守っている――。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる