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第三部 第三章――露呈
番外編1-牡羊座と陽炎
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流星群を見ると、無性に切なくなる。
あの散る星々は、一体どんな星になっていたのだろう。
あのぶつけて砕け散った星々は、宇宙のゴミとしてしか扱われないのだろうかと。
「――我が神? こんな時間に何処へお行きに?」
――牡羊座に見つかった。
ちょっと抜け出して流星群を見ようと思った。
鴉座と本当は見る予定だったんだけど、鴉座は情報収集に出かけてしまった。
何やら白雪と話し込んでる内に気になる賞金首が出たらしく、偵察にいっちまった。
恋人を置いて偵察なんて、冷たいよなーと思いつつも、流星群は見たいので、一人で見てみようかと思って、窓から抜け出そうとしたときに見つかった。
牡羊座はきょとんとして、小首を傾げている。
子供の蓮見(はすみ)は白雪が寝かせつけているのか、今は両腕に抱えていない。
完全に寝る体勢のパジャマ姿だ。
「あーっと、星を見ようかと」
「……星なら、聖霊様に仰ってプラネタリウムを見れば宜しいじゃないですの」
牡羊座はホンモノの星に嫉妬し、つんとした物言いで俺にそう言った。
俺は苦笑して、今宵がオリオン座流星群であることを教える。
「星が、落ちる?」
「そう、さーっと流れ星が落ちるのを見放題なんだ」
「まぁ、そうなのですか。で、何故お一人で見ようと?」
「らびゅんなあいつが仕事で居ないからです」
「……成る程。全く、我が神を仕事より優先するなんて闇鳥様ってば! ――宜しいでしょう、少しの間、あたくしが付き合います。我が神を一人にしたと言えば、あの人に何を言われるか分かりませんもの」
くす、と微笑んで牡羊座は決心したようだ。
俺はその決心が揺らぐことがないのを感じて、苦笑を浮かべ了承した。
窓から器用に屋根へと伝って、屋根の出っ張り部分に座る。
すると姿勢が安定するので、一番安定する場所を牡羊座に譲った。
「――流れ星なんてないじゃないですの」
「こういうのはじーっくり待たないとダメなんだよ」
「そうでしたの……ねぇ、我が神。流れ星にもしかして願い事でも?」
「うん、そう。こんだけありゃ、どれか一つでも聞いてくれるかなって」
俺は苦笑を浮かべて、頬をかく。
どうにもこの星座は生真面目で、少し苦手な部分がある。だからか、素直にならざるをえない。
何より、もう主人ではないのに我が神と崇めてくる姿勢が、嘘をついてはいけませんと言われてるような気がして。
牡羊座は、少し伸びたカールのかかった髪の毛を耳にかけて、少し身を震わせたので、上着を貸してやる。
すると有難う御座います、と申し訳なさそうな顔をしてから空を見上げる。
俺もつられたように空を見上げて、流れ星を待つ。
「――何を、願うんですか?」
「え?」
「過ぎた幸せは、不幸への道でしてよ」
「……だな、欲張り、だよな。今の状況に更に願い事なんて」
俺はくすくすと笑ってから、願いたいことを牡羊座に教える。
人差し指をたてて、秘密だよ、と念を押して。
「鴉座が、思い出さないように――思い出さないままで、ずっと一緒に居られますようにって」
「――……何故思い出して欲しくないんです?」
「……だって、なぁ。思い出したら、あいつの思いをまた信じられなくなりそうで。あれは名残じゃないのか、って疑いそうだから」
「……確かに、プラネタリウムに主は影響をとてつもなく与えてますから、それは否定出来ませんわね」
牡羊座は成る程と頷き、上着の端を摘む。
それから、くす、と微笑んで空を見上げたまま牡羊座は俺に話し掛ける。
「ねぇ、主よ。あたくしは、偽物ですが空が全てです。でも、空以上に全てなのは、我が神とうちの人達。だから、あたくしは貴方にしか叶えられない願い事をしても宜しくて?」
「……叶えられるものだったら」
「……――この先、どんなことがあっても決して白雪を許さないであげてやって」
意外だった。
白雪の罪を許すなと、白雪の妻である牡羊座が口にするなんて意外だった。
俺は首を傾げてどうしてか問う。だって不思議じゃないか。
「――あの方は常に許された、ねじ曲がった人ですわ。王子だからと許され、許されてる癖に陰口を叩かれて。だから、どうせなら許されない方があの人には楽なの。我が神の寛大さには感謝致しますわ。でもね、あの人自身許されないことをしたと分かっているから、それを許さないと口にする人が必要ですの――」
「……――そう、か」
俺が牡羊座の方を見ていると、牡羊座は落ちる星を見られたのか、あ、と声を弾ませて方角を指さす。
「見まして!? 流星群ですわ!」
「え、あ、嘘ッ!? 願い事願い事ッ……」
「これからも、我が神に日常が与えられますように――」
「これからも、牡羊座に愛情が注げられますように――」
「まぁ、我が神。これ以上は困りますわ、あたくし。悪鬼は十分すぎる愛情をくださいますもの」
「念のため」
「酷い方ですね、主は。さて、ではあたくしは眠りますわ。そろそろ戻らないと、蓮見がぐずりそうで……おやすみなさい、我が神」
「おやすみ、牡羊座」
上着有難う御座います、と微笑んで牡羊座は帰って行った。
俺はそのまま夜空を眺めて――一人、考え事をしていた。
今も消えぬその声は。
(陽炎さん、助けて)
「そのままにしていいんだろうか……? なぁ、アザワ」
「助けちゃだめぇ……」
「え……?」
聞こえた声は、確かにあった。
だけれど、か細いそれは瞬く間に消えた。
……陽炎がそれを気のせいにしなければ、見つからぬ星座を見つけられたかも知れない。
憎しみの星座を。
あの散る星々は、一体どんな星になっていたのだろう。
あのぶつけて砕け散った星々は、宇宙のゴミとしてしか扱われないのだろうかと。
「――我が神? こんな時間に何処へお行きに?」
――牡羊座に見つかった。
ちょっと抜け出して流星群を見ようと思った。
鴉座と本当は見る予定だったんだけど、鴉座は情報収集に出かけてしまった。
何やら白雪と話し込んでる内に気になる賞金首が出たらしく、偵察にいっちまった。
恋人を置いて偵察なんて、冷たいよなーと思いつつも、流星群は見たいので、一人で見てみようかと思って、窓から抜け出そうとしたときに見つかった。
牡羊座はきょとんとして、小首を傾げている。
子供の蓮見(はすみ)は白雪が寝かせつけているのか、今は両腕に抱えていない。
完全に寝る体勢のパジャマ姿だ。
「あーっと、星を見ようかと」
「……星なら、聖霊様に仰ってプラネタリウムを見れば宜しいじゃないですの」
牡羊座はホンモノの星に嫉妬し、つんとした物言いで俺にそう言った。
俺は苦笑して、今宵がオリオン座流星群であることを教える。
「星が、落ちる?」
「そう、さーっと流れ星が落ちるのを見放題なんだ」
「まぁ、そうなのですか。で、何故お一人で見ようと?」
「らびゅんなあいつが仕事で居ないからです」
「……成る程。全く、我が神を仕事より優先するなんて闇鳥様ってば! ――宜しいでしょう、少しの間、あたくしが付き合います。我が神を一人にしたと言えば、あの人に何を言われるか分かりませんもの」
くす、と微笑んで牡羊座は決心したようだ。
俺はその決心が揺らぐことがないのを感じて、苦笑を浮かべ了承した。
窓から器用に屋根へと伝って、屋根の出っ張り部分に座る。
すると姿勢が安定するので、一番安定する場所を牡羊座に譲った。
「――流れ星なんてないじゃないですの」
「こういうのはじーっくり待たないとダメなんだよ」
「そうでしたの……ねぇ、我が神。流れ星にもしかして願い事でも?」
「うん、そう。こんだけありゃ、どれか一つでも聞いてくれるかなって」
俺は苦笑を浮かべて、頬をかく。
どうにもこの星座は生真面目で、少し苦手な部分がある。だからか、素直にならざるをえない。
何より、もう主人ではないのに我が神と崇めてくる姿勢が、嘘をついてはいけませんと言われてるような気がして。
牡羊座は、少し伸びたカールのかかった髪の毛を耳にかけて、少し身を震わせたので、上着を貸してやる。
すると有難う御座います、と申し訳なさそうな顔をしてから空を見上げる。
俺もつられたように空を見上げて、流れ星を待つ。
「――何を、願うんですか?」
「え?」
「過ぎた幸せは、不幸への道でしてよ」
「……だな、欲張り、だよな。今の状況に更に願い事なんて」
俺はくすくすと笑ってから、願いたいことを牡羊座に教える。
人差し指をたてて、秘密だよ、と念を押して。
「鴉座が、思い出さないように――思い出さないままで、ずっと一緒に居られますようにって」
「――……何故思い出して欲しくないんです?」
「……だって、なぁ。思い出したら、あいつの思いをまた信じられなくなりそうで。あれは名残じゃないのか、って疑いそうだから」
「……確かに、プラネタリウムに主は影響をとてつもなく与えてますから、それは否定出来ませんわね」
牡羊座は成る程と頷き、上着の端を摘む。
それから、くす、と微笑んで空を見上げたまま牡羊座は俺に話し掛ける。
「ねぇ、主よ。あたくしは、偽物ですが空が全てです。でも、空以上に全てなのは、我が神とうちの人達。だから、あたくしは貴方にしか叶えられない願い事をしても宜しくて?」
「……叶えられるものだったら」
「……――この先、どんなことがあっても決して白雪を許さないであげてやって」
意外だった。
白雪の罪を許すなと、白雪の妻である牡羊座が口にするなんて意外だった。
俺は首を傾げてどうしてか問う。だって不思議じゃないか。
「――あの方は常に許された、ねじ曲がった人ですわ。王子だからと許され、許されてる癖に陰口を叩かれて。だから、どうせなら許されない方があの人には楽なの。我が神の寛大さには感謝致しますわ。でもね、あの人自身許されないことをしたと分かっているから、それを許さないと口にする人が必要ですの――」
「……――そう、か」
俺が牡羊座の方を見ていると、牡羊座は落ちる星を見られたのか、あ、と声を弾ませて方角を指さす。
「見まして!? 流星群ですわ!」
「え、あ、嘘ッ!? 願い事願い事ッ……」
「これからも、我が神に日常が与えられますように――」
「これからも、牡羊座に愛情が注げられますように――」
「まぁ、我が神。これ以上は困りますわ、あたくし。悪鬼は十分すぎる愛情をくださいますもの」
「念のため」
「酷い方ですね、主は。さて、ではあたくしは眠りますわ。そろそろ戻らないと、蓮見がぐずりそうで……おやすみなさい、我が神」
「おやすみ、牡羊座」
上着有難う御座います、と微笑んで牡羊座は帰って行った。
俺はそのまま夜空を眺めて――一人、考え事をしていた。
今も消えぬその声は。
(陽炎さん、助けて)
「そのままにしていいんだろうか……? なぁ、アザワ」
「助けちゃだめぇ……」
「え……?」
聞こえた声は、確かにあった。
だけれど、か細いそれは瞬く間に消えた。
……陽炎がそれを気のせいにしなければ、見つからぬ星座を見つけられたかも知れない。
憎しみの星座を。
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