【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
160 / 358
第四部 三章――月の誕生

第十七話 破裂した風船

しおりを挟む
「……ごめん、な」
「……分かってる、分かっていた、その返事は。だけれど、諦めきれないんだ……」

 鷲座は生き地獄を味わうように、じっくりと苦しみで煮詰められ、「どうすればいい」と言葉を絞り出す。
 こんな苦しみ、欲しくなかった。
 こんな仕組みを考えた蒼刻一は残酷だと思い、その仕組みを少し変えた陽炎は偉大だと思い、でもこんな苦しみに耐えろと二人が言うのなら、殴りたかった。
 どろどろとした気持ちが、膿のようにあふれ出てくる。


「小生は、鴉座が嫌いだ……一番嫌いだ。だって、狡い。君を陥れた最初の星座だというのに、何故その思いは報われる?」
「……――鷲座」
「もしも、あいつと作られる時期が入れ替わっていたら、君は小生を好きになってくれましたか?」

 鷲座は手のひらにまた口づけながら、苦しさの余り閉じた目を開き、陽炎を見やる。
 陽炎はゆるりと微笑むだけだった。
 ただ困り眉なだけで、己を拒否したりもしなかったが、受け入れもしなかった。
 彼なりの気配り――傷つかせたくなかったのだろう。己を。
 だが、その方が、鷲座は苦しくて、また瞳を閉じる。
 
(嘘でも良いから、そうだと言って欲しかった――)
 
「鷲座、俺はもうただの人間だ。痛み虫も少ない人間で、百も持っていたあの頃の主人じゃあないよ――」
「君が非力な人間でも、小生の生涯思い人だ――」
「……それは有難う。でも、――ごめんな」
「……――ッどうして……どうして、あいつなんだ!」
「鷲座……」
「どうして、一番小生に似ているあいつなんだ!」

 彼を泣かせたのはあの憎い鳥なのに。彼を苦しませるのはあの憎い鳥なのに。彼の笑みを左右するのは――あの憎い鳥だから。
 そう、答えなんてもうとっくに出ているのだけれど、それを認めたくないだけ。
 何百万分の一かの奇跡に縋りたかった。
 だけども、陽炎は奇跡の欠片さえも見せてはくれない――。
 ただ苦い笑みを浮かべて、ごめんと絶対的に希望の持てない返事をするだけだった。
 
 もう鷲座は我慢が出来ず、とうとう陽炎に飛びつくようにキスをした。
 陽炎は驚きから身動きが出来なかったが、すぐに離れようとする。
 だが、鷲座の力は意外と強くて、己を中々放してくれなかった。
 やがて酸欠で意識が途切れそうになったとき、鷲座が放してくれて、鷲座は呼吸荒く己の両頬にキスをし、それより先の行為をしようとする。
 陽炎は慌てて力を込めて、抵抗しようとする。

「んっ……わし、ざ。だめ、だ……」
「陽炎どの――……小生は、ずっとずっと君を――ッ! 陽炎どのッ。君を諦める方法が、分からないんだッ。小生は、もうずっと君を思い続けて苦しい。こんな苦しさ、要らない。どうして、どうしてあいつだったんだ――あんな奴だったんだ!」
「……あんな奴、だか、ら……」
「陽炎どの。お願いだから、一言でも好きだと言って――?」

 鷲座のお願いに陽炎は、少し顔を赤くしたまま、困ったように笑って、鷲座の頭をこつんと軽く頭突きをした。

「馬鹿。一言でも言ったら、お前、もっと欲しくなって辛くなるだろ?」
「――じゃあ、どうしたらいい? 君に、君にいつまで恋していればいい?」
 
 陽炎は困ったように俯いて、黙り込む。
 暫く沈黙が続く。鷲座は今更、キスしてしまったことに、今の体勢にも赤面しつつも、もう引き返せない状況だった。

「君をいっそ、閉じこめようか」
「――……馬鹿」
「……馬鹿にもなりたくなります。小生だけの君になってほしい。君をいっそ蝶に変えて、小生だけの蝶にして、ピンでとめようか、心臓を――」
 
 本気ではなかった。否、半分は本気だったが。でも本気になるには、彼が死ぬのは怖いという思いが支配して、なれなかった。
 なのに、陽炎に何かしら妖術のかかる気配がして、鷲座は思わず避けさせるため、陽炎を突き飛ばしたが、間に合わなかった!
 
 妖術――蒼刻一が居るのだろうか、と思うがそうじゃなく、――……己が寒気がした、あるものの仕業だった。
 
 
「どうしたんだ? 怖がることはないぞ――そいつはもう貴方の思い通りの玩具だ。要らないなら、僕が貰うけれどな?」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...