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第四部 三章――月の誕生
第十七話 破裂した風船
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「……ごめん、な」
「……分かってる、分かっていた、その返事は。だけれど、諦めきれないんだ……」
鷲座は生き地獄を味わうように、じっくりと苦しみで煮詰められ、「どうすればいい」と言葉を絞り出す。
こんな苦しみ、欲しくなかった。
こんな仕組みを考えた蒼刻一は残酷だと思い、その仕組みを少し変えた陽炎は偉大だと思い、でもこんな苦しみに耐えろと二人が言うのなら、殴りたかった。
どろどろとした気持ちが、膿のようにあふれ出てくる。
「小生は、鴉座が嫌いだ……一番嫌いだ。だって、狡い。君を陥れた最初の星座だというのに、何故その思いは報われる?」
「……――鷲座」
「もしも、あいつと作られる時期が入れ替わっていたら、君は小生を好きになってくれましたか?」
鷲座は手のひらにまた口づけながら、苦しさの余り閉じた目を開き、陽炎を見やる。
陽炎はゆるりと微笑むだけだった。
ただ困り眉なだけで、己を拒否したりもしなかったが、受け入れもしなかった。
彼なりの気配り――傷つかせたくなかったのだろう。己を。
だが、その方が、鷲座は苦しくて、また瞳を閉じる。
(嘘でも良いから、そうだと言って欲しかった――)
「鷲座、俺はもうただの人間だ。痛み虫も少ない人間で、百も持っていたあの頃の主人じゃあないよ――」
「君が非力な人間でも、小生の生涯思い人だ――」
「……それは有難う。でも、――ごめんな」
「……――ッどうして……どうして、あいつなんだ!」
「鷲座……」
「どうして、一番小生に似ているあいつなんだ!」
彼を泣かせたのはあの憎い鳥なのに。彼を苦しませるのはあの憎い鳥なのに。彼の笑みを左右するのは――あの憎い鳥だから。
そう、答えなんてもうとっくに出ているのだけれど、それを認めたくないだけ。
何百万分の一かの奇跡に縋りたかった。
だけども、陽炎は奇跡の欠片さえも見せてはくれない――。
ただ苦い笑みを浮かべて、ごめんと絶対的に希望の持てない返事をするだけだった。
もう鷲座は我慢が出来ず、とうとう陽炎に飛びつくようにキスをした。
陽炎は驚きから身動きが出来なかったが、すぐに離れようとする。
だが、鷲座の力は意外と強くて、己を中々放してくれなかった。
やがて酸欠で意識が途切れそうになったとき、鷲座が放してくれて、鷲座は呼吸荒く己の両頬にキスをし、それより先の行為をしようとする。
陽炎は慌てて力を込めて、抵抗しようとする。
「んっ……わし、ざ。だめ、だ……」
「陽炎どの――……小生は、ずっとずっと君を――ッ! 陽炎どのッ。君を諦める方法が、分からないんだッ。小生は、もうずっと君を思い続けて苦しい。こんな苦しさ、要らない。どうして、どうしてあいつだったんだ――あんな奴だったんだ!」
「……あんな奴、だか、ら……」
「陽炎どの。お願いだから、一言でも好きだと言って――?」
鷲座のお願いに陽炎は、少し顔を赤くしたまま、困ったように笑って、鷲座の頭をこつんと軽く頭突きをした。
「馬鹿。一言でも言ったら、お前、もっと欲しくなって辛くなるだろ?」
「――じゃあ、どうしたらいい? 君に、君にいつまで恋していればいい?」
陽炎は困ったように俯いて、黙り込む。
暫く沈黙が続く。鷲座は今更、キスしてしまったことに、今の体勢にも赤面しつつも、もう引き返せない状況だった。
「君をいっそ、閉じこめようか」
「――……馬鹿」
「……馬鹿にもなりたくなります。小生だけの君になってほしい。君をいっそ蝶に変えて、小生だけの蝶にして、ピンでとめようか、心臓を――」
本気ではなかった。否、半分は本気だったが。でも本気になるには、彼が死ぬのは怖いという思いが支配して、なれなかった。
なのに、陽炎に何かしら妖術のかかる気配がして、鷲座は思わず避けさせるため、陽炎を突き飛ばしたが、間に合わなかった!
妖術――蒼刻一が居るのだろうか、と思うがそうじゃなく、――……己が寒気がした、あるものの仕業だった。
「どうしたんだ? 怖がることはないぞ――そいつはもう貴方の思い通りの玩具だ。要らないなら、僕が貰うけれどな?」
「……分かってる、分かっていた、その返事は。だけれど、諦めきれないんだ……」
鷲座は生き地獄を味わうように、じっくりと苦しみで煮詰められ、「どうすればいい」と言葉を絞り出す。
こんな苦しみ、欲しくなかった。
こんな仕組みを考えた蒼刻一は残酷だと思い、その仕組みを少し変えた陽炎は偉大だと思い、でもこんな苦しみに耐えろと二人が言うのなら、殴りたかった。
どろどろとした気持ちが、膿のようにあふれ出てくる。
「小生は、鴉座が嫌いだ……一番嫌いだ。だって、狡い。君を陥れた最初の星座だというのに、何故その思いは報われる?」
「……――鷲座」
「もしも、あいつと作られる時期が入れ替わっていたら、君は小生を好きになってくれましたか?」
鷲座は手のひらにまた口づけながら、苦しさの余り閉じた目を開き、陽炎を見やる。
陽炎はゆるりと微笑むだけだった。
ただ困り眉なだけで、己を拒否したりもしなかったが、受け入れもしなかった。
彼なりの気配り――傷つかせたくなかったのだろう。己を。
だが、その方が、鷲座は苦しくて、また瞳を閉じる。
(嘘でも良いから、そうだと言って欲しかった――)
「鷲座、俺はもうただの人間だ。痛み虫も少ない人間で、百も持っていたあの頃の主人じゃあないよ――」
「君が非力な人間でも、小生の生涯思い人だ――」
「……それは有難う。でも、――ごめんな」
「……――ッどうして……どうして、あいつなんだ!」
「鷲座……」
「どうして、一番小生に似ているあいつなんだ!」
彼を泣かせたのはあの憎い鳥なのに。彼を苦しませるのはあの憎い鳥なのに。彼の笑みを左右するのは――あの憎い鳥だから。
そう、答えなんてもうとっくに出ているのだけれど、それを認めたくないだけ。
何百万分の一かの奇跡に縋りたかった。
だけども、陽炎は奇跡の欠片さえも見せてはくれない――。
ただ苦い笑みを浮かべて、ごめんと絶対的に希望の持てない返事をするだけだった。
もう鷲座は我慢が出来ず、とうとう陽炎に飛びつくようにキスをした。
陽炎は驚きから身動きが出来なかったが、すぐに離れようとする。
だが、鷲座の力は意外と強くて、己を中々放してくれなかった。
やがて酸欠で意識が途切れそうになったとき、鷲座が放してくれて、鷲座は呼吸荒く己の両頬にキスをし、それより先の行為をしようとする。
陽炎は慌てて力を込めて、抵抗しようとする。
「んっ……わし、ざ。だめ、だ……」
「陽炎どの――……小生は、ずっとずっと君を――ッ! 陽炎どのッ。君を諦める方法が、分からないんだッ。小生は、もうずっと君を思い続けて苦しい。こんな苦しさ、要らない。どうして、どうしてあいつだったんだ――あんな奴だったんだ!」
「……あんな奴、だか、ら……」
「陽炎どの。お願いだから、一言でも好きだと言って――?」
鷲座のお願いに陽炎は、少し顔を赤くしたまま、困ったように笑って、鷲座の頭をこつんと軽く頭突きをした。
「馬鹿。一言でも言ったら、お前、もっと欲しくなって辛くなるだろ?」
「――じゃあ、どうしたらいい? 君に、君にいつまで恋していればいい?」
陽炎は困ったように俯いて、黙り込む。
暫く沈黙が続く。鷲座は今更、キスしてしまったことに、今の体勢にも赤面しつつも、もう引き返せない状況だった。
「君をいっそ、閉じこめようか」
「――……馬鹿」
「……馬鹿にもなりたくなります。小生だけの君になってほしい。君をいっそ蝶に変えて、小生だけの蝶にして、ピンでとめようか、心臓を――」
本気ではなかった。否、半分は本気だったが。でも本気になるには、彼が死ぬのは怖いという思いが支配して、なれなかった。
なのに、陽炎に何かしら妖術のかかる気配がして、鷲座は思わず避けさせるため、陽炎を突き飛ばしたが、間に合わなかった!
妖術――蒼刻一が居るのだろうか、と思うがそうじゃなく、――……己が寒気がした、あるものの仕業だった。
「どうしたんだ? 怖がることはないぞ――そいつはもう貴方の思い通りの玩具だ。要らないなら、僕が貰うけれどな?」
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