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第四部 三章――月の誕生
第十五話 月を生み出したくないと親友殿が言うから
しおりを挟む「美味しい役をおおおおお、鷲座っちめぇえええ!!」
「片眼鏡のむっつり! 陽炎も何センチメンタルになってるだー!」
「陽炎を昔、奴隷生活から助け出したのは鴉座で、逃げ出したときのことを思い出しているのだろう」
蟹座が鴉座を見やり、嫌な笑い方をした。
鴉座は嫉妬で黙りこくり、睨み付けるように絵本を眺める。
その様子に柘榴はアイコンタクトで、その話題はタブーだと蟹座に物言うが、蟹座は素知らぬ顔。
「陽炎が、奴隷?」
「ああ、奴隷。その前は囚人、その前は盗人」
「……あの人は話してくれませんでした。そんな目に……そこから救い出せて良かったです」
「ふむ、意外だな。昔の自分に嫉妬せぬのだな」
蟹座がつまらなさそうに呟くと、その呟きが聞こえたようで、鴉座は苦笑を浮かべながら柘榴を見やる。
柘榴はにっと笑ってくれて、白雪を見やる。
白雪は嫌な顔をして、絵本を睨み付けているので、柘榴はふと違和感を感じる。
いつもならば穏やかに、されど嬉しそうに笑う筈なのに。
「どうしたん? 白雪」
「……一つ、共通点を、思い出した。聖霊の仔、教科書を貸してくれないか?」
「ああ、ほらよ」
柘榴が放り投げるように渡すと、白雪はふわりと雪のクッションを作り出し、それによって受け止める。
雪ははらりと解けて、ぽとりと己の手の上に落とされる。
雪に一瞬包まれた教科書は冷たく、白雪の手の中にある教科書――水晶の地球儀――を、ぽん、と弄ると文字が浮かび上がる。
白雪が見ている情報は、月に関して。
だが以前見たときと情報は違い、そこには――。
「なんだ、これ……?」
「“たどり着けておめでとう。まだ孵化は続いてる――”……やっぱり。鷲の妖仔と、陽炎君の共通点は、プラネタリウムの月だからね。蒼刻一はよっぽど月を作りたいらしい」
「でも、もうプラネタリウムの主人はおいらで……!」
「生み出す切っ掛けの主人を傷つければ、生み出せる。それと同時に鷲の仔も傷つけば良いんだ。オレらには見るに堪えないかもしれない事がこれから、彼らに起こることを覚悟しないとね――」
「……かげ君とわっしーが同時に傷つくようなこと……って、やっぱりかげ君関連じゃないか。かげ君は大層な不幸の星の下に生まれたよ」
柘榴は腕まくりをして、大犬座の手元にある絵本に触れる。
絵本は不穏な空気で柘榴に触れられるのをよしとしない空気を持っていた。
それでも柘榴は半目で笑い、何かを口走る。
すると、柘榴の手に電流がぱちりと走り、手を焦がした。
それに驚いた獅子座が柘榴を絵本から離れさせて、手当をするために水瓶座を呼びつけに行く。
「白雪。頑張ってかげ君を、そこから救出すんぞ。月なんか誰が生み出してたまるか」
「――君がそう考えるのなら手助けしよう」
(月を生み出すのが、君たちにはいいことだとは思うけれど、無理矢理はよくないよ――オレが言うのも何だけどね)
白雪は無表情のまま、教科書を弄り、他に月に関する情報がないか調べる。
以前と変わっていたら、己だったら分かるはずだからだ。あれだけ昔に調べまくった己ならば。
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