【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第四部 第二章――闇の十二宮

第十話 疑心暗鬼の不幸

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「柘榴! 鴉座は戻ったか!?」
「あれま、かげ君、血塗れ。お風呂入ってきたら? 怪我はないよねぇ、羊さん」
「はいっ、怪我はありませんが途中、創世神に会いましてッ……」
「あー、絵本の件?」
「いや、違う! どうしよう、柘榴! あいつ、記憶を取り戻すッ……!」
「……かげ君、かげ君、落ち着いて?」

 陽炎の取り乱しぶりを見ると、柘榴は一瞬目を見開くが、こほんと咳払いをし、柘榴は食べていた酢漬けイカを頬張り終え、酢臭いその手で陽炎の頭を撫でて今にも悲しみでこぼれ落ちそうな眼を見つめて、にこりと微笑む。

「ほら、深呼吸。そんなに焦ってたら言いたいことも言えないよん」
「あ、ああ……」
「痛み虫得た?」
「うん」
「ああ、じゃあ良かった。これで、赤子以上。赤子じゃないかげ君には力があるんだから、何かあっても解決出来るよ」

 柘榴の言葉は不思議と体に染み込む――優しく優しくそれは耳から皮膚から入り込み、心の奥底をぼっと明るく照らしてくれる。太陽のようで暖かい。
 彼が太陽のようなことは知っていたが、またしてもこの陽に照らされるとは思わなかった陽炎は、その暖かみに癒される。
 陽炎は落ち着きをやや取り戻し、柘榴に有難うと礼を告げる。
 柘榴が、うんと頷いたときに、蟹座と鴉座がやってきて、鴉座は陽炎に歩み寄る。
 
「陽炎ッ」
「鴉座……お前、幽霊座に会ったって本当か?」
「あれが幽霊座というのなら、お会いしました」

 下手に隠し立てすれば、怪しまれるだろうと、鴉座は素直に答える。
 ――が、鴉座の言葉に、陽炎はまた少し不安になり、弾くような反応をする。
「――本当の自分になりたいなんて、言わないよなッ!?」
「陽炎――どうしたんです、そんなにせっぱ詰まって……」
「言わないよな?! お前は今のままでいいんだっ、頼む、本当の姿になんてならないでくれ!」
「……――陽炎、蒼刻一様に何て言われたんですか」
「お前が本当の姿を知った、って言われたんだ!」
「……本当ですか? 慈悲深き母君」

 鴉座は小首傾げて、問いかける。どう考えても今の陽炎は普通じゃない。何かこの言葉以外に吹き込まれた言葉があるはずだと、鴉座は考え問いかける。
 牡羊座は陽炎を気にしながら、必死に思い出して、言葉を紡ぐ。

「記憶を取り戻すことが出来ると言っておりましたわ」
「まさか。あの火は記憶は取り戻せないって言ってましたよ?」
「……え。じゃあ、蒼刻一の嘘?」
「教科書で調べたらいいんじゃないですか?」
「はいはい、待って待って」

 鴉座の提案に、これで修羅場が消えるならばと柘榴は教科書――水晶の地球儀を取り出して、じーっと見つめる。そして、ぽん、と何処かの国のような場所に触れると、文字がすぅっと浮かび上がる。

「……ん?」
「どうした、柘榴」
「いや、なんか……一瞬文字が変わったような気がしたんだけど、まぁいいか」

 柘榴がその文字の羅列を読み、解読に時間をかけて読み解くと、柘榴は少し複雑そうな顔で、まずは二人の話を聞くことにする。
 そして間違いがあったら訂正することに。
 結果、記憶が戻らないということだけが教科書には書かれていなかった。
 寧ろ、記憶が戻るようなことが仄めかされていた。

「鴉のにーさん、残念だけど……そういうことで」
「……ッ私は、あの火が嘘をついてるようには思えない! 蒼刻一様の方を信じるんですか?! あの白き死に神を!」
「教科書に書いてあることだし……」
「教科書が全てだとは限らんだろう。オレも白い化け物よりは、火の方が信頼出来る」
「蟹座……」
「陽炎、しっかりしろ。確かにあの白い化け物はお前を助けた。だが――……従僕のオレが言うのも変だが、信頼出来る者じゃない。信頼してはいけない部類だ、あれは。昔の白雪と同じだと言えば分かるか?」

 聞いてるだけでも居たたまれなかったのか、蟹座が間に入る。すると陽炎は不安定さを表に出して、今にも怖いことが訪れるような恐怖にかられたまま、叫ぶように訴える。

「…………っ確かに、蒼刻一だし、信頼しちゃいけないんだと思う。だけど、だけど……教科書はプラネタリウムの説明書じゃないか!」
「――陽炎、私よりあれを信じるのですね」

 その声には、陽炎ははっとしてしまった。
 言ってはいけないことを言った。
 己はよりによって恋人を信じていない発言をしてしまったのだ――。
 恋人よりも文字に翻弄されて、――。
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