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第四部 第二章――闇の十二宮
第九話 優雅な相談請け合い
しおりを挟む蟹座は全身鳥肌、顔面蒼白で屋根の上に居た。
何せ、鳳凰座が己を探しているのだ、よりによって嫌いな甘い物をプレゼントに。
鳳凰座は嫌いではないが、どうしてもあの無知さ加減に苦手さが拭いきれず、逃げ回る毎日だ。
厄介なことに己と仲の悪い大犬座が、鳳凰座に色々プレゼントをアドバイスするのでその度にそのプレゼントから逃げ回らなければならない。
鳳凰座の穏やかに慕う艶やかな笑顔を思い出すだけで、さぶいぼが立つ。
あんなにも己を慕ってくる理由が分からない。脅しで殴るぞとか、蹴るぞとか、もっと酷い言葉も浴びせたのに、構ってくれること自体が嬉しいみたいで言葉には反応せず、微笑む鳳凰座。
――あの女なら、地獄でさえも、己が閻魔だったとするなら天国だと思いこむに違いない。
蟹座はうんざりとしながら、脳裏に過ぎる高笑いを忌々しそうに振り払おうとする。
「……あの雌犬が……余計な真似を」
「勇ましき姫君を雌犬呼ばわりとは酷い」
「鴉か」
ばさばさと羽ばたき戻ってきたのは、鴉座。
蟹座は鴉座を見やると、半身起きあがらせて、片手をあげる。
「此処に居ることを妖艶な霊鳥にお教えいたしましょうか?」
「本気でやめろ。――何の用事だ? 貴様が自分からオレの元に来るとは珍しい」
「黄道十二宮について聞きたくて。十二宮を自覚することってありますか――?」
「? いや、作られたときから十二宮だったからな。戯れで叩いたくらいで出血死する者を、見たときぐらいだろうか」
蟹座はそんな質問は初めて受けたからか、鴉座をおかしな物でも見るような目で見やり、適当に答えた。
普段の鴉座ならばそれに気づくのに、今の彼は真剣に受け取り真顔で頷いて考え込む。
「……そうですか」
「――何かあったのか? 陽炎に暗い悩みを持って行かれるのはオレは好まん、仕方がないから聞いてやる」
この男から嫌味や、冗句が出ないことに違和感があったので、蟹座はなけなしの優しさを、小指の切った爪ぐらい、かけてやることにした。
蟹座が「貸し一つだぞ」と人の悪い笑みを浮かべて、鴉座にそう言うと、鴉座は苦笑を浮かべて、火の玉と会ったことや自分について教えられたことを話す。
蟹座は眼を細めて、ふむ、と呟き、己の顎を手で支える。
全部聞き終えてから、蟹座は成る程、と頷き――目を細める。
「……――どうしました?」
「いや、此処最近、というより、な。柘榴が手にしてから他の存在を感じていたから、納得がいっただけだ。そうか、オレ達はあの白い化け物の……思い出、か。悪趣味だ」
「悪趣味です。思い出の人物の姿を象られ、実際に接させる――タチの悪い喜劇です」
「劇にもならん。……写真が動いてるだけだ」
蟹座はくっと笑った後、少し顔を俯けて、少しの間、沈黙した末に言葉をはじき出す。
彼にしては迷いのある言い方だ。
「……――なぁ、そうなるとオレ達という存在は、何なのだろうな……」
蟹座は一瞬遠い目をしてみせた。その顔は何処か憂いを帯びていて、彼もこんな顔をするのだなと意外さを感じさせられた。
が、何かを見つけると、すぐに立ち上がり、柘榴の元へ行こう、と鴉座に呼びかける。
「馬鹿だな、貴様。オレなんかより柘榴の元に先に行くべきだった。白い化け物が会話を聞いてないわけがないんだ。きっと、陽炎に先に何か罠を張られている」
そう言って蟹座は眼下にある、広い庭の出口、門を指さしてそこから走り戻ってきた陽炎と牡羊座の姿を鴉座に、指さす。
陽炎の焦っている様子から見て、すぐに鴉座も蟹座も蒼刻一に何か言われたのだろうと気づく。
陽炎は何処か蒼刻一には白雪を生き返らせて貰ったからか、弱みを感じている部分があるから信じるのは容易く、柘榴も陽炎の言葉、そして蒼刻一が関わってくると冷静ではなくなるので信じやすくなるだろう。
「――本当に、馬鹿だ。私は」
「何を言われたか、だ。問題は。それによって、柘榴が味方する加減が違うだろう。お前の第二の力というのも曖昧だ」
「……ええ、ですね。お前はまだ隠れるのですか?」
「いや、一緒に行く。陽炎が心配だ。あれでも、元、思い人だからな」
「今では違うと確実に言い切れますか?」
「――完膚無きまでに貴様に負けたんだ、貴様ごときに二度も負けたくない」
蟹座がくつくつと笑うと鴉座も笑い、二人は屋根を居り、柘榴の元へ。
そして牡羊座と陽炎も柘榴の元へ。
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