【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
152 / 358
第四部 第二章――闇の十二宮

第九話 優雅な相談請け合い

しおりを挟む

 蟹座は全身鳥肌、顔面蒼白で屋根の上に居た。
 何せ、鳳凰座が己を探しているのだ、よりによって嫌いな甘い物をプレゼントに。
 鳳凰座は嫌いではないが、どうしてもあの無知さ加減に苦手さが拭いきれず、逃げ回る毎日だ。
 厄介なことに己と仲の悪い大犬座が、鳳凰座に色々プレゼントをアドバイスするのでその度にそのプレゼントから逃げ回らなければならない。
 鳳凰座の穏やかに慕う艶やかな笑顔を思い出すだけで、さぶいぼが立つ。
 あんなにも己を慕ってくる理由が分からない。脅しで殴るぞとか、蹴るぞとか、もっと酷い言葉も浴びせたのに、構ってくれること自体が嬉しいみたいで言葉には反応せず、微笑む鳳凰座。
 ――あの女なら、地獄でさえも、己が閻魔だったとするなら天国だと思いこむに違いない。
 蟹座はうんざりとしながら、脳裏に過ぎる高笑いを忌々しそうに振り払おうとする。

「……あの雌犬が……余計な真似を」
「勇ましき姫君を雌犬呼ばわりとは酷い」
「鴉か」

 ばさばさと羽ばたき戻ってきたのは、鴉座。
 蟹座は鴉座を見やると、半身起きあがらせて、片手をあげる。

「此処に居ることを妖艶な霊鳥にお教えいたしましょうか?」
「本気でやめろ。――何の用事だ? 貴様が自分からオレの元に来るとは珍しい」
「黄道十二宮について聞きたくて。十二宮を自覚することってありますか――?」
「? いや、作られたときから十二宮だったからな。戯れで叩いたくらいで出血死する者を、見たときぐらいだろうか」

 蟹座はそんな質問は初めて受けたからか、鴉座をおかしな物でも見るような目で見やり、適当に答えた。
 普段の鴉座ならばそれに気づくのに、今の彼は真剣に受け取り真顔で頷いて考え込む。

「……そうですか」
「――何かあったのか? 陽炎に暗い悩みを持って行かれるのはオレは好まん、仕方がないから聞いてやる」

 この男から嫌味や、冗句が出ないことに違和感があったので、蟹座はなけなしの優しさを、小指の切った爪ぐらい、かけてやることにした。
 蟹座が「貸し一つだぞ」と人の悪い笑みを浮かべて、鴉座にそう言うと、鴉座は苦笑を浮かべて、火の玉と会ったことや自分について教えられたことを話す。
 蟹座は眼を細めて、ふむ、と呟き、己の顎を手で支える。
 全部聞き終えてから、蟹座は成る程、と頷き――目を細める。
 
「……――どうしました?」
「いや、此処最近、というより、な。柘榴が手にしてから他の存在を感じていたから、納得がいっただけだ。そうか、オレ達はあの白い化け物の……思い出、か。悪趣味だ」
「悪趣味です。思い出の人物の姿を象られ、実際に接させる――タチの悪い喜劇です」
「劇にもならん。……写真が動いてるだけだ」

 蟹座はくっと笑った後、少し顔を俯けて、少しの間、沈黙した末に言葉をはじき出す。
 彼にしては迷いのある言い方だ。
 
「……――なぁ、そうなるとオレ達という存在は、何なのだろうな……」
 
 蟹座は一瞬遠い目をしてみせた。その顔は何処か憂いを帯びていて、彼もこんな顔をするのだなと意外さを感じさせられた。
 が、何かを見つけると、すぐに立ち上がり、柘榴の元へ行こう、と鴉座に呼びかける。
 
「馬鹿だな、貴様。オレなんかより柘榴の元に先に行くべきだった。白い化け物が会話を聞いてないわけがないんだ。きっと、陽炎に先に何か罠を張られている」

 そう言って蟹座は眼下にある、広い庭の出口、門を指さしてそこから走り戻ってきた陽炎と牡羊座の姿を鴉座に、指さす。
 陽炎の焦っている様子から見て、すぐに鴉座も蟹座も蒼刻一に何か言われたのだろうと気づく。
 陽炎は何処か蒼刻一には白雪を生き返らせて貰ったからか、弱みを感じている部分があるから信じるのは容易く、柘榴も陽炎の言葉、そして蒼刻一が関わってくると冷静ではなくなるので信じやすくなるだろう。

「――本当に、馬鹿だ。私は」
「何を言われたか、だ。問題は。それによって、柘榴が味方する加減が違うだろう。お前の第二の力というのも曖昧だ」
「……ええ、ですね。お前はまだ隠れるのですか?」
「いや、一緒に行く。陽炎が心配だ。あれでも、元、思い人だからな」
「今では違うと確実に言い切れますか?」
「――完膚無きまでに貴様に負けたんだ、貴様ごときに二度も負けたくない」

 蟹座がくつくつと笑うと鴉座も笑い、二人は屋根を居り、柘榴の元へ。
 そして牡羊座と陽炎も柘榴の元へ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...