【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
上 下
149 / 358
第四部 月と化した鷲 第一章――蠱惑

第六話 亡霊の訪れ

しおりを挟む

 ――ばさばさ、と翼をしまい、鳥目では様子を見にくいので人の姿に化けて木の枝に腰掛けて、鴉座はこの近くに居るという噂の、蒼刻一関わりの人物を探す。

(――さてね、どう情報を仕入れるか。あれに関わってるという噂と、この辺にいるという噂しか入手出来ていないですしね。情報の数が少なすぎるけれど、蒼刻一様に関してはそれだけあれば有難い方かも知れない)

 何かを考えている時間は割と好きだ。物事を考えると言うことは、頭の中でごっちゃになった情報を整理して綺麗にはじき出し、もしかしたら新しい発見が出来ることがあるから。だから、ゆっくりと考えて、情報を整理してから、探そうか、と思い立った。
 ふむ、と暫く考えていたときだった。
 
 ふと、悪寒を感じた。
 
 うっすらと寒い気配がして、季節の所為ではない筈なのでそれを不思議に思った鴉座は言いしれぬ予感を感じる。
 何か、そう――例えば蒼刻一が仕掛けた何かが現れるような。
 
 
 “助けて”

 声がした。か細く頼りない、そのくせ大人のように低い声。
 声が頼りなければ、口にした言葉も随分頼りないもので、鴉座は目を細める。
 
「……――何方?」
“カラス様、ぼくぅのこと分からない?”

 声は己を知っているようだった――しかも、この言い方だと、まるで己もその声を知っているような言い方。
 もしかして、無くした記憶の中に彼の声が入っているだろうか、と思案してみるが、どのみち覚えがないので、首を振って、完全に知らないことを教える。
 それは正解で、例え記憶があったとしても、鴉座は彼を知らない――。

「ええ、分かりませんね。お前のことは何一つ、分からない。声も幻聴かと思いそうだ」

 鴉座はか細い男の声に、怯むことなく、何となく地上に微笑みかけて低温の声で答える。
 臆病な声はそれだけで泣きそうな声をあげて、それから火の玉をぼぅっと作りだし、鴉座の目の前でうろうろとする。
 “ごめんなさいぃ……今は、こういう仮の姿でしか、現せないぃぃ……仮ご主人様に怒られるし……蒼様が怖いんだぁ、ぼくぅは”
「……気配から伺うに、妖仔で、――星座、ですか?」
“分からない。ぼくぅは不確かな存在。空には存在しないから――アクマはぼくぅ達はプラネタリウムの妖仔だってぇえ言う、けれど……在り方も特殊なん、だ”
「特殊?」

 火の玉は青く光り、左から右へ彼の心のようにびくびくと揺れて、まるで辺りに誰もいないことを確認するように動いてから、言葉を続ける。

“――プラネタリウムは蒼様の過去の鏡。皆、蒼様の思い出の人物がモデル。だけど――ぼくぅや、アクマみたい、なァ闇の十二宮はモデルは……居な、い。尊者だけが例外――”
「……え」
 
 不気味な風が吹く。ざわりざわりと、嫌に肌に触れる。
 ねっとりとした少し暖かい、この季節にしては嫌な感じの……不気味なお化けの鳴き声のような風。
 それもざわっと勢いよく吹くのならば良いのだが、このか細い声のように頼りなく、そよ、と吹いただけ。
 それが余計に嫌な感じをさせた――。
 
“尊者、尊者は気づいていないぃ……んだ、ね。……尊者は、闇の十二宮だよ…ぉ”
「闇の十二宮って……何、ですか」
“……ダメ。亜弓様が居るときでないと、喋れない……亜弓様は、結界を張れ、るから、――蒼様でさえ聞けない会話が出来る、んだよ……えへ、へ。亜弓様、凄いぃい……”
「亜弓――って、柘榴様の……」
“いつか、亜弓様が尊者を頼るときが、きますぅ……その時、仮ご主人様がぼくぅをお外に出してくれていれば、お話し、出来ますぅ”
「いつかじゃダメですよ、今お話しなさい。私に何かを伝えるために、此処に来たのでしょう?」
“……尊者ァ、ごめんなさい……ぼくぅもね、怖いけど、でもこれでも頑張って、いる。アクマを裏切りながら……”

 今にも泣きそうな声に、鴉座は少し目を閉じて、それから低い音程で厳しい言葉をはじき出す。

「――誰かを裏切っているというのなら、余計に話しなさい。中途半端な行為は良くない」

 鴉座が厳しくそう言うと、今度は泣き出してしまう、か細い声が聞こえて、鴉座はため息をついて、火の玉に優しい声をかける。この声は声からして大人だろうに、子供のように繊細で扱いが厄介だと思いながら。

「……ねぇ、私もお前のことが知りたいのです。蒼刻一様は確かに怖いでしょう、私に会いに来るのも勇気が大変必要だったでしょう――その勇気を、ちゃんと使いましょう?」
“……うん、ぼくぅ、ぼくぅ、使うぅ。……――だけど、亜弓様のことは仮ご主人様が今、必死に一人だけで頑張ってるから、それは許してぇえ…”
「――じゃあ、闇の十二宮について教えてください」
“闇の十二宮は、普通の痛み虫じゃ作られ、ない星座ですぅうう――……聖霊様が手にする、こ、とで作られる星座、なんですぅ”
 
 ――それはガンジラニーニに特別な思い入れがあるからこその、存在なのだろう。
 そう鴉座は思案しているのも構わず、火の玉は言葉を続ける。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

処理中です...