145 / 358
第四部 月と化した鷲 第一章――蠱惑
第二話 絵本
しおりを挟む「かげ君に朗報ー」
「え、何だよ」
「山賊の集団を二つ見つけてきたよーん。人数が人数だからそこに白雪投じて、もう一つの山賊を星座でぶつけるんで、その間に痛み虫取ってきたらって思って」
「マジで!? サンキュ、柘榴ッ。お前、良い奴だーやっぱり!」
「そいつはどーも。で、鴉のにーさんには別のお話が待ってるワケ。邪魔出来ないだろうさ、これで」
けらけらと笑う柘榴に、鴉座はため息をついて、陽炎の手を離し、立ち上がる。
そして柘榴の元に近づいて詳しい仕事の話を聞く。
情報収集が既に癖になってるので、それを生かし、昨今はこの定住を決めた土地で情報収集に勤しみ、柘榴の願う情報の引き出しになっている。
別のお話とは、新たに情報を持ってきて欲しい、偵察してきてほしいとのことだろう。
鴉座と立ち位置を変えるように魚座が陽炎の前に座り、うっとりとしてしまうような表情で陽炎に微笑みかける。
「何? どうした、何か良いことあったの?」
「嬉しいだけじゃ。お主らが、仲良くて。あれだけ――苦労した仲だし、わらわにも記憶はあるからのう。陽炎君が主人だった頃の。大犬が記憶が無くて悔しいと、地団駄しておったわ」
「ははっ。大犬座は今、何してるの? 今日、邪魔してこないなーと不思議なんだけど」
「……――それがな、言うてええものか。いや、じきにばれることじゃな。大犬は不思議な絵本を手に入れたんじゃ、それが今回、鴉の仕事にも関係ある」
「――不思議な絵本?」
陽炎は双眸を細めて、警戒心の高い顔つきをする。
昔はこういう顔が似合っていたのだが、昨今では鴉座の言葉に困惑する顔しか見てないので魚座は久しぶりに懐かしい主人の鋭さを垣間見た。
「――……妖術関連じゃ。どうやら、何処からか蒼刻一が柘榴君に届くよう横流しをした匂いがしてのう」
「……蒼、刻一」
その名は忘れもしない。
柘榴の怨敵だが、前回助けて貰った恩人だ。
複雑な名前であり、複雑な存在。
そして世界で初めて最強の名を得た、不死の妖術師――。
死との敵対者と呼ばれることもある。
白雪曰く、「妖術師って名前の最初に色の名前がつくんだけど、偶に警戒しろって意味の色があるんだよね」だそうで、黒化粧の時はその類で、全てを塗りつぶす圧倒的に強い色だから近づくなという意味だったそうだ。
「蒼」刻一の意味は、きっと恐れを抱けという意味の名だと兄は予測する。
だがその意味が予想がつかないそうだ。
「――どんな絵本? 見に行っていいかな」
「――……ちと、待て。柘榴君! 陽炎君に例の物、見せてきてもいいか?」
「…で、……ということで…え、あ、何? かげ君に絵本? いーよ、だけど警戒してね」
その言葉は軽々しく放たれたように見えるが、その裏には強いから大丈夫だろうという信頼が隠されている。
だから陽炎は武器を持っていくことにしようと思い、魚座に少し待って貰って武器を取りに行く。
「――ちょっと、大丈夫なんですか、柘榴様」
「ん、痛み虫ないっていってもかげ君はかげ君だから、強いデショ。今でも白雪に鍛錬してもらってる様だし、今、白雪もわんこの側に居るし」
「……――なら良いですけど、私が居ない間に何かあったら、覚えておいてくださいましね、柘榴様」
「……今なら、あんたを厄介に思ってたかつてのかげ君の苦労が分かるよ」
「おや、私、あの人に対してこんな感じでしたか?」
「いや、もっと甘やかしていて、あんたが居ないと散歩も出来ない状態だったのが最初です。覚えておいて」
「では、私は貴方の耳となりに参りましょう」
鴉座は鴉の姿になり、戻ってきた陽炎に撫でて貰ってから、窓から飛び立った。
その姿を眺めてから、陽炎は鉄扇と円形剣を手に二人にお待たせ、と笑いかける。
二人は顔を見合わせて、じゃあ行きますか、と歩きだす。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる