【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第四部 月と化した鷲 第一章――蠱惑

第二話 絵本

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「かげ君に朗報ー」
「え、何だよ」
「山賊の集団を二つ見つけてきたよーん。人数が人数だからそこに白雪投じて、もう一つの山賊を星座でぶつけるんで、その間に痛み虫取ってきたらって思って」
「マジで!? サンキュ、柘榴ッ。お前、良い奴だーやっぱり!」
「そいつはどーも。で、鴉のにーさんには別のお話が待ってるワケ。邪魔出来ないだろうさ、これで」

 けらけらと笑う柘榴に、鴉座はため息をついて、陽炎の手を離し、立ち上がる。
 そして柘榴の元に近づいて詳しい仕事の話を聞く。
 情報収集が既に癖になってるので、それを生かし、昨今はこの定住を決めた土地で情報収集に勤しみ、柘榴の願う情報の引き出しになっている。
 別のお話とは、新たに情報を持ってきて欲しい、偵察してきてほしいとのことだろう。
 鴉座と立ち位置を変えるように魚座が陽炎の前に座り、うっとりとしてしまうような表情で陽炎に微笑みかける。

「何? どうした、何か良いことあったの?」
「嬉しいだけじゃ。お主らが、仲良くて。あれだけ――苦労した仲だし、わらわにも記憶はあるからのう。陽炎君が主人だった頃の。大犬が記憶が無くて悔しいと、地団駄しておったわ」
「ははっ。大犬座は今、何してるの? 今日、邪魔してこないなーと不思議なんだけど」
「……――それがな、言うてええものか。いや、じきにばれることじゃな。大犬は不思議な絵本を手に入れたんじゃ、それが今回、鴉の仕事にも関係ある」
「――不思議な絵本?」

 陽炎は双眸を細めて、警戒心の高い顔つきをする。
 昔はこういう顔が似合っていたのだが、昨今では鴉座の言葉に困惑する顔しか見てないので魚座は久しぶりに懐かしい主人の鋭さを垣間見た。

「――……妖術関連じゃ。どうやら、何処からか蒼刻一が柘榴君に届くよう横流しをした匂いがしてのう」
「……蒼、刻一」
 
 その名は忘れもしない。
 柘榴の怨敵だが、前回助けて貰った恩人だ。
 複雑な名前であり、複雑な存在。
 そして世界で初めて最強の名を得た、不死の妖術師――。
 死との敵対者と呼ばれることもある。
 白雪曰く、「妖術師って名前の最初に色の名前がつくんだけど、偶に警戒しろって意味の色があるんだよね」だそうで、黒化粧の時はその類で、全てを塗りつぶす圧倒的に強い色だから近づくなという意味だったそうだ。
 「蒼」刻一の意味は、きっと恐れを抱けという意味の名だと兄は予測する。
 だがその意味が予想がつかないそうだ。
 
「――どんな絵本? 見に行っていいかな」
「――……ちと、待て。柘榴君! 陽炎君に例の物、見せてきてもいいか?」
「…で、……ということで…え、あ、何? かげ君に絵本? いーよ、だけど警戒してね」

 その言葉は軽々しく放たれたように見えるが、その裏には強いから大丈夫だろうという信頼が隠されている。
 だから陽炎は武器を持っていくことにしようと思い、魚座に少し待って貰って武器を取りに行く。

「――ちょっと、大丈夫なんですか、柘榴様」
「ん、痛み虫ないっていってもかげ君はかげ君だから、強いデショ。今でも白雪に鍛錬してもらってる様だし、今、白雪もわんこの側に居るし」
「……――なら良いですけど、私が居ない間に何かあったら、覚えておいてくださいましね、柘榴様」
「……今なら、あんたを厄介に思ってたかつてのかげ君の苦労が分かるよ」
「おや、私、あの人に対してこんな感じでしたか?」
「いや、もっと甘やかしていて、あんたが居ないと散歩も出来ない状態だったのが最初です。覚えておいて」
「では、私は貴方の耳となりに参りましょう」

 鴉座は鴉の姿になり、戻ってきた陽炎に撫でて貰ってから、窓から飛び立った。
 その姿を眺めてから、陽炎は鉄扇と円形剣を手に二人にお待たせ、と笑いかける。
 二人は顔を見合わせて、じゃあ行きますか、と歩きだす。
 
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