128 / 358
第三部 第二章――聖女
第二十話 貴方が世界で一番
しおりを挟む
陽炎は一人歩き、厨房に入ろうとした。
だがその時、自分より早く駆け足で厨房に入り込んで、白銀陽の名を呼ぶ少女の声が聞こえて。
白銀陽らしきコックスーツの男が声に気づけば、慌ててやってきて、親しげに彼女の名前を呼ぶ
「蓮歌! よーしよし、あんたも入ってこれたんだな、偉い偉い。転ばなかったんだ? 披露の最中」
「五月蠅いわねー! 折角要求パスしてやった恩人に言う言葉がそれ?!」
「恩人なんかじゃないね。恩人だったら、ちゃんと身を隠して暮らしてくれる筈だもんねぇ?」
「……――やぁね。まだそのこと根に持ってるの」
「そりゃぁね。長は外に出て良いのは、おいらだけだって言ったはずだもん」
「あたしが君を心配して何か問題でも!? あたしは、君の友達だっていうのに――…」
(え……)
陽炎は戸惑い、蓮歌の方を見やる。蓮歌も白銀陽も己に気づいてないようで、陽炎はどくんどくんと心臓が怖く鼓動が高鳴るのを感じる。
「……問題ありり。世界で憎いよ、蓮歌」
その言葉の意味は――彼がガンジラニーニでなければ、ただの罵り言葉。
でも、彼がガンジラニーニだと知ってる者にはこの世で最上級の愛の言葉であり……――陽炎は、その場から少し離れる。
何事か話した後、白銀陽と蓮歌は別れて手をひらひらとふる。
出入り口まで彼女が既に立ち去ったのにも関わらず見送りに来た白銀陽は、陽炎の姿を見つけて。一瞬嬉しそうな顔をするが、己は待ちぼうけをくらってその間に黒雪と骨肉の争いよりも醜いちまちまとした口のやりとりをしたのを思いだし、むすっとする。
拗ねて厨房に戻ろうとする白銀陽を陽炎は慌てて止めて、思わず肩を掴んだ。
「悪かった、とは言えないけれど、償いはする!」
「――……りっきーにはもう会ったの?」
「え、あ、白律季? うん、さっき会ったよ。ラスクを牡羊座に渡していた」
「――……牡羊座、が居るのか。他にいる星座は? 蒼刻一は……――此処で話す事じゃないね。すみませーん、ちょっと次期国王からのいびりの辛さから泣いて来マース」
「馬鹿ッ! 白銀陽、今昼時を過ぎたけど、夕食の仕込みがってあああああ!」
後ろで泣いているコック長の言葉も聞かず、白銀陽は誰も来そうになさそうな階段まで行き、階段に座る。
それから漸く一息ついて、――改めて陽炎と正式に再会出来た喜びを噛みしめる。
「何? 何で笑ってるんだ」
(俺は、こんなに戸惑って何を話せばいいか分からないのに)
陽炎はそれを言いたかったが口は出来なかった。
白銀陽の笑みがあまりにも、暖かくて差別のない笑みだったから。
「――べっつに。あんたは、老けないねぇ、と思って」
「……お前は背、伸びやがって。髪も伸びたなぁ。綺麗な金髪だし、肌色も――うん、綺麗」
「そりゃどーも。でも作戦決行日前にはばっさりと髪の毛は切るけれどね」
「え、何で?」
「何かあったときのため。さて、かげ君、そっちの状況、聞いてもいいかな――? さっき、足の歩き方で盗聴されない陣を描いたから。あの種族の術だから、解けないよ、どんなに天才でも。化け物以外には」
白銀陽は苦笑をして、それから陽炎に隣に座るように隣の埃を払い、ぽんぽんと叩く。
陽炎は、穏やかな笑みを少し浮かべてから、隣に座って、状況説明を出来るかぎりする。
己が知ってること、己が調べたこと――ガンジラニーニの扱いや歴史も調べたこと――、他にも黒雪や、恐怖属性に関する話、月と太陽の話もする。
そのどれも白銀陽はメモすることはなかったが、眼差しがその光景ごと焼き付けておくような強い輝きを持っていた。
陽炎はその輝きを久しぶりに受けてくすぐったい思いもするが、同時に生き生きと何故か自然にしてしまう気がした。
――ここ数年の陽炎は、こんな感情を露わにした言葉を口にしたり、誰かと共に笑おうとしたりなんてしなかった。
白銀陽の目には、何故かそういう力があって――魚が水を得たように、花が陽を受けたように生き生きとする。
状況説明もされながらもそれが現れてるのが傍目にも判るから、白銀陽は途中で茶々を入れて陽炎を偶に笑わせてみてはその笑みに酷く安堵するのだった。
「――あ」
「どったの?」
「……――やべ。俺、鷲座に妖術には関わってないって言ったけれど、此処数年……年齢が抑えられる妖術の水、飲まされてるんだった」
「――……その水、持ってきてくれない? それに対する免疫のあるもん料理に入れておくから」
「なぁ、盗聴されてないんだろ? そろそろ何が起こるか、教えてくれよ」
「えー。そうだなぁ、じゃあヒント。とっておきの。毒女が居ます」
「――……嗚呼、毒を盛るのか。でもあいつ毒は効かないって――」
「ヒント二。常人ではただの調味料。だけど妖術を使う者にはどうかな?」
「……――今回はそういう毒か」
「更に世界で伝説になった悪人を招き寄せマシタ。一緒に殺せたらラッキーって思ったのと、悪事を皆に忘れさせるためにね。皆が忘れないと、ガンジラニーニがまた迫害される原因になるからね」
「誰?」
「蒼刻一。あれが、ガンジラニーニに呪いをかけた奴で、あんたの持ってるプラネタリウムに妖術をかけて、妖仔を作り出した妖術師さ。あいつ、おいらがあいつ以外の誰かを憎むのが嫌でさ、だから黒雪に相当苛ついてるんだ。そんなときにかげ君に何かあったら、余計おいらあいつ憎むじゃん。だから、かげ君を守ってくれていたと思うよ」
「――蒼刻一から、逃げ道の地図貰ったよ。いざというときはこれを使ってみよう」
陽炎は、蒼刻一の話を聞くと少しいらっとしたが、二人の関係については何も口出ししてはいけないだろうと、何となく察せられて、地図を書き写したものを白銀陽に手渡す。
白銀陽は陽炎の気遣いに気づき、苦笑を浮かべる。
「とりあえず、毒の計画があったんだけど、かげ君がそういう水飲んでるのは参ったな……改良間に合うか、っていうかあの毒女なら“かげちゃんも死ぬなら丁度いいじゃない、寧ろはりきっちゃうわぁあ~!”って言いそうだ……」
「……――相変わらずアレなんだな」
「まぁうん、アレだけどどうにかするからいいけどさ、兎に角かげ君はぁ変な誤解招かれると大変だからね、憎しみを募らせて狩人の能力使わせちゃーダメだよ。おいらはもう手遅れみたいだけど、あんたは大丈夫っつーし」
「――ん、判った。なぁ、さっきの女の子と話してたこと、どういうこと? ごめん、盗み聞きしちゃった」
「ん……っとなぁ、へへっ」
白銀陽は頬に手をやり、照れくさそうにかきながら、少し嬉しいような笑みを浮かべる。
先ほどの少女と何かあったのだろうか。己がこの城に居る間に。例えば塩辛を作ってもらったとか? 通い妻とか? でもコックという職の彼ならば何でも作れそうだからそれはないし、通い妻は魚座が許さないだろう、とあーだこーだ思案していると、彼は本当に嬉しそうな声で呟いた。
「おいらの同郷。郷は同じだけど、民族は違う。でもあの民族はおいら達民族と関わってくれて、一緒に仲良く生活してたんだ。だから、恩人。お互いに商談してたから」
「……――友達って、本当?」
陽炎は言葉が震えてないか自信がなかったが、存外普通に声は出ていて、白銀陽は普通に受け答えをする。
決して己の目を見ようとはしないのだが――。
「ああ。民族の間に一人、恩人が出来れば同盟結べるから」
「……そう、なんだ」
そー、と白銀陽は短い返事を返す。
「まぁそうじゃない恩人の意味もあるけどなぁー。
実はねあの日、あそこにおいらの待ち人がいて、黒雪と取引してでもおいらを殺したがっていた――んだと思った。
おいらの待ち人は、プラネタリウムの元主人の親さ。昔は友好的だったんだよ。息子の友人だったから。だけど、プラネタリウムをおいらが捨てさせるわ、あいつ自滅するわで、ガンジラニーニアンチになってさ。だからおいらは、決着がつける日を待っていた。でもあんな形じゃない。そんな時――蓮歌がそこに来て、蓮歌の民族は金持ちで、あいつ商人でさ有名な……おいらを買い取ったんだ。民族で」
「――買い取り許可したの? 憎まれているのに。人の心は簡単なのか、そんなに」
そう陽炎が動揺を抑えながら首を傾げると、白銀陽はくすくすと笑って答える。
「うん、けっこー簡単に出来てるみたい。だって、蓮歌ってば車いすの元主人に金を持たせてさ。それで元主人に親父のとこまで金を渡しに行って、それからおいらのとこまで来て、――謝って。それから、親父さんに必死に説得してくれたんだ。親父さん、すっごい苦しそうな顔でごめん、って謝ってくれた」
陽炎は気づく、嬉しさに震える白銀陽の肩に。
顔を俯かせ、己は笑い顔だと見なくてもそう思えるように、声を明るくさせている白銀陽。
彼はいつもこのように、己だけは何があっても平気だと笑うのだろうか。
何かあっても、平気だと笑うのだろうか。
陽炎は、何と言って良いか判らず、黙り込んだ。彼に「本当は辛いんだろ」、そう心境を暴くことは何処か悪いことのような気がしてしまい――気が引けた。
「かげ君。おいら、ね、未熟だな。向き合わなければ解決しない問題もあったのに、おいらは怖くて逃げた。また、一族がおいらの血筋の所為で迫害されたら嫌だなって。――でも、向き合ったから、こうして誤解が解けて、自滅馬鹿のあいつとも普通に話せる。……背いちゃ、ダメなんだよね。逃げたくても逃げたくても、さ」
「……――白銀……否、柘榴。柘榴は、いつも前を向いていたと思う。ただ、向く方向がちょっとずれちゃっただけだと思うんだ」
「……そう?」
白銀陽はまだ顔を俯かせたまま、声だけ陽炎に向ける。
ただその声だけが己の胸中を判ってくれるような安堵感を感じつつも。
この存在だけは己を見放さないと知っているから――。
「だって、プラネタリウムを持っていた俺を普通は構いたくないと思うんだ。でもあんたは、その怖さを知ってるから、――被害者を出したくないって、構ってくれた」
「……かげ君、怖くてさ、中々聞けなかったんだけど、外は――どうだい?」
それは、きっとプラネタリウム以外の物のことを表しているのだろう。
陽炎ははにかみ、そうだなぁと呟き言葉を続ける。
「良いこともあったり悪いこともあったりするなぁ」
「――それで、いいんだよ。それが、日常だ」
白銀陽は漸く顔をあげて、苦笑を浮かべる。だがその返答には嬉しそうな様子は伝わる。
陽炎は昔だったら、良いことが続く毎日か、嫌なことが続く毎日か、それとも何も感じられない毎日、そのどれかを答えていただろう。
だけど、この数年で変わったわけではない。やはり、柘榴がこの国に来たと聞いて、こういう返事が出来るようになったのだろう。
そういう意味でも、柘榴は大きい。とても大きな影響を持つ。
親が居なかった陽炎。一族の親のように世話を勤めていた柘榴。
不思議なバランスで二人は保たれている、それを感じた陽炎は、だから安心するのだと判った。
だから、安心し、そして――恋にも似た思いを持つのだろう。
これは、母親に恋をするのと同じで、きっとあんまりにも柘榴が優しくて親しみやすくて、何より甘えやすいからなのだろう――。
きっと、彼に親友が居ると判ってショックなのも、母親がとられるのと同じ感覚なのだろう――。嫉妬とは違うのだ。
何処かでその娘と仲良くなりたいと願う自分が居るのだ。
「白銀陽ー、俺さぁ……母さんと会ったんだ」
「うん、この国の第二王妃だもんね」
「でも母さんっていう感じしなかった。なんか前にいた街の八百屋のおばちゃんのが、お袋って感じがしたなぁー。柘榴っていう人も」
「……かげくーん、その柘榴っていう人、男だよー」
陽炎は白銀陽のあからさまにむっとしたような声を聞いて、げらげらと笑った後、頼みがある、と言葉を紡ぐ。
真剣に重たい響きを持っていたので、白銀陽はきょとんとして、首を傾げる。
「俺さ、捨てる覚悟をしたんだ――」
陽炎がそう言うと白銀陽は、そう、と目を細めてその先の言葉を求める。
言葉の先に、何が待っているかを知ってるように、白銀陽はため息をつきながらも、苦笑を浮かべて、しょうがないなぁという顔をしている。
「俺、鴉座が……好き、なんだと思う。まだ、よくわかんねぇけど」
(お前が好きかもしれなかったし――でも、違うんだって判ったし。嗚呼、お前は普通に結婚するんだろうなぁ。祝福しなきゃな、その時は。だってお前は、この世界に血を残さなければならない民族だから――本当なら魚座を応援したいけど)
陽炎は秘める思いを、閉ざし、それでも脳裏に浮かび今はすぐに現れて欲しいと、慰めて甘い言葉で騙して欲しいと鴉座の姿を願う。
「でも……このまま仕組みに甘えたままの思い合いっていうのはちょっと、って思って。黒雪の狙い通りみてーだしさ――それで」
「それで?」
「白銀陽に持ってて欲しい」
その言葉を言うと、白銀陽は少しの間、黙り込んで。くつくつと笑ってから、陽炎の頭をべしべしと叩き可笑しそうに陽炎を見やる。
「あんた、意外と残酷だよなぁ」
「自分でもひっでぇエゴイズムだと思うよ。よりによって、黒玉嫌いのお前に」
「それでも、その仕組みのない思いが欲しいんだろ――? おいらはね、あんたの一番の味方でありたいんだ。だから、協力するよ。それとな、計画的な恋愛なんてないから安心しな。ただ、――そのう……わっしーにはばれないようにね。他の人にも」
「蟹座と射手座は知ってるよ。蟹座は納得したよ。ああー……さっき、鷲座には会ったけれど、ちょっと怖かった」
陽炎は先ほどの強い眼差しを思いだし、ぼんやりと言葉にする。
それを見て白銀陽は、口を真一文字に固めて頭をがしがしと掻きむしる。
「暴走がまだ少し止まってないみたいでさぁ……嗚呼、それなら余計に、黒雪の持つ教科書が欲しいな。あれは、黒玉の仕組みを説明してるんだ」
「――何にせよ、舞踏会の日が勝負、だな」
陽炎はそう言って立ち上がると、頼んだ、と手をひらひらと振って去っていく。
その背中を眩しげに白銀陽は見つめて、大嫌いだ、と優しげに誰にも聞こえぬ声で呟いた後、厨房へ戻り、コック長に叱られにいく。
そこで大泣きをして、皆から不審がられると同時に、コック長は「俺、そこまで酷いこと言ったっけ?」と困惑するのだった。
(割と大好きだったのに、馬鹿野郎!! そりゃ言えないけど、これでいいんだけどっ! これが望んだ形だったのに、何で泣くのさ、おいらの馬鹿ッ!
このために、かげ君に判らせる為だけに、蓮歌を呼んだのに――あの商談を引き受けたのに。何で、呼んだおいらが傷ついてるんだよ! 失恋させるという手順必要なく、鴉のにーさん選んだからか! 畜生ッ)
「大嫌い、大嫌い、大嫌いだったよ!! 一番憎かったよ!」
「白銀陽、俺、そこまで何かしたか……?」
「ああ、もうっ、うわあああん!」
だがその時、自分より早く駆け足で厨房に入り込んで、白銀陽の名を呼ぶ少女の声が聞こえて。
白銀陽らしきコックスーツの男が声に気づけば、慌ててやってきて、親しげに彼女の名前を呼ぶ
「蓮歌! よーしよし、あんたも入ってこれたんだな、偉い偉い。転ばなかったんだ? 披露の最中」
「五月蠅いわねー! 折角要求パスしてやった恩人に言う言葉がそれ?!」
「恩人なんかじゃないね。恩人だったら、ちゃんと身を隠して暮らしてくれる筈だもんねぇ?」
「……――やぁね。まだそのこと根に持ってるの」
「そりゃぁね。長は外に出て良いのは、おいらだけだって言ったはずだもん」
「あたしが君を心配して何か問題でも!? あたしは、君の友達だっていうのに――…」
(え……)
陽炎は戸惑い、蓮歌の方を見やる。蓮歌も白銀陽も己に気づいてないようで、陽炎はどくんどくんと心臓が怖く鼓動が高鳴るのを感じる。
「……問題ありり。世界で憎いよ、蓮歌」
その言葉の意味は――彼がガンジラニーニでなければ、ただの罵り言葉。
でも、彼がガンジラニーニだと知ってる者にはこの世で最上級の愛の言葉であり……――陽炎は、その場から少し離れる。
何事か話した後、白銀陽と蓮歌は別れて手をひらひらとふる。
出入り口まで彼女が既に立ち去ったのにも関わらず見送りに来た白銀陽は、陽炎の姿を見つけて。一瞬嬉しそうな顔をするが、己は待ちぼうけをくらってその間に黒雪と骨肉の争いよりも醜いちまちまとした口のやりとりをしたのを思いだし、むすっとする。
拗ねて厨房に戻ろうとする白銀陽を陽炎は慌てて止めて、思わず肩を掴んだ。
「悪かった、とは言えないけれど、償いはする!」
「――……りっきーにはもう会ったの?」
「え、あ、白律季? うん、さっき会ったよ。ラスクを牡羊座に渡していた」
「――……牡羊座、が居るのか。他にいる星座は? 蒼刻一は……――此処で話す事じゃないね。すみませーん、ちょっと次期国王からのいびりの辛さから泣いて来マース」
「馬鹿ッ! 白銀陽、今昼時を過ぎたけど、夕食の仕込みがってあああああ!」
後ろで泣いているコック長の言葉も聞かず、白銀陽は誰も来そうになさそうな階段まで行き、階段に座る。
それから漸く一息ついて、――改めて陽炎と正式に再会出来た喜びを噛みしめる。
「何? 何で笑ってるんだ」
(俺は、こんなに戸惑って何を話せばいいか分からないのに)
陽炎はそれを言いたかったが口は出来なかった。
白銀陽の笑みがあまりにも、暖かくて差別のない笑みだったから。
「――べっつに。あんたは、老けないねぇ、と思って」
「……お前は背、伸びやがって。髪も伸びたなぁ。綺麗な金髪だし、肌色も――うん、綺麗」
「そりゃどーも。でも作戦決行日前にはばっさりと髪の毛は切るけれどね」
「え、何で?」
「何かあったときのため。さて、かげ君、そっちの状況、聞いてもいいかな――? さっき、足の歩き方で盗聴されない陣を描いたから。あの種族の術だから、解けないよ、どんなに天才でも。化け物以外には」
白銀陽は苦笑をして、それから陽炎に隣に座るように隣の埃を払い、ぽんぽんと叩く。
陽炎は、穏やかな笑みを少し浮かべてから、隣に座って、状況説明を出来るかぎりする。
己が知ってること、己が調べたこと――ガンジラニーニの扱いや歴史も調べたこと――、他にも黒雪や、恐怖属性に関する話、月と太陽の話もする。
そのどれも白銀陽はメモすることはなかったが、眼差しがその光景ごと焼き付けておくような強い輝きを持っていた。
陽炎はその輝きを久しぶりに受けてくすぐったい思いもするが、同時に生き生きと何故か自然にしてしまう気がした。
――ここ数年の陽炎は、こんな感情を露わにした言葉を口にしたり、誰かと共に笑おうとしたりなんてしなかった。
白銀陽の目には、何故かそういう力があって――魚が水を得たように、花が陽を受けたように生き生きとする。
状況説明もされながらもそれが現れてるのが傍目にも判るから、白銀陽は途中で茶々を入れて陽炎を偶に笑わせてみてはその笑みに酷く安堵するのだった。
「――あ」
「どったの?」
「……――やべ。俺、鷲座に妖術には関わってないって言ったけれど、此処数年……年齢が抑えられる妖術の水、飲まされてるんだった」
「――……その水、持ってきてくれない? それに対する免疫のあるもん料理に入れておくから」
「なぁ、盗聴されてないんだろ? そろそろ何が起こるか、教えてくれよ」
「えー。そうだなぁ、じゃあヒント。とっておきの。毒女が居ます」
「――……嗚呼、毒を盛るのか。でもあいつ毒は効かないって――」
「ヒント二。常人ではただの調味料。だけど妖術を使う者にはどうかな?」
「……――今回はそういう毒か」
「更に世界で伝説になった悪人を招き寄せマシタ。一緒に殺せたらラッキーって思ったのと、悪事を皆に忘れさせるためにね。皆が忘れないと、ガンジラニーニがまた迫害される原因になるからね」
「誰?」
「蒼刻一。あれが、ガンジラニーニに呪いをかけた奴で、あんたの持ってるプラネタリウムに妖術をかけて、妖仔を作り出した妖術師さ。あいつ、おいらがあいつ以外の誰かを憎むのが嫌でさ、だから黒雪に相当苛ついてるんだ。そんなときにかげ君に何かあったら、余計おいらあいつ憎むじゃん。だから、かげ君を守ってくれていたと思うよ」
「――蒼刻一から、逃げ道の地図貰ったよ。いざというときはこれを使ってみよう」
陽炎は、蒼刻一の話を聞くと少しいらっとしたが、二人の関係については何も口出ししてはいけないだろうと、何となく察せられて、地図を書き写したものを白銀陽に手渡す。
白銀陽は陽炎の気遣いに気づき、苦笑を浮かべる。
「とりあえず、毒の計画があったんだけど、かげ君がそういう水飲んでるのは参ったな……改良間に合うか、っていうかあの毒女なら“かげちゃんも死ぬなら丁度いいじゃない、寧ろはりきっちゃうわぁあ~!”って言いそうだ……」
「……――相変わらずアレなんだな」
「まぁうん、アレだけどどうにかするからいいけどさ、兎に角かげ君はぁ変な誤解招かれると大変だからね、憎しみを募らせて狩人の能力使わせちゃーダメだよ。おいらはもう手遅れみたいだけど、あんたは大丈夫っつーし」
「――ん、判った。なぁ、さっきの女の子と話してたこと、どういうこと? ごめん、盗み聞きしちゃった」
「ん……っとなぁ、へへっ」
白銀陽は頬に手をやり、照れくさそうにかきながら、少し嬉しいような笑みを浮かべる。
先ほどの少女と何かあったのだろうか。己がこの城に居る間に。例えば塩辛を作ってもらったとか? 通い妻とか? でもコックという職の彼ならば何でも作れそうだからそれはないし、通い妻は魚座が許さないだろう、とあーだこーだ思案していると、彼は本当に嬉しそうな声で呟いた。
「おいらの同郷。郷は同じだけど、民族は違う。でもあの民族はおいら達民族と関わってくれて、一緒に仲良く生活してたんだ。だから、恩人。お互いに商談してたから」
「……――友達って、本当?」
陽炎は言葉が震えてないか自信がなかったが、存外普通に声は出ていて、白銀陽は普通に受け答えをする。
決して己の目を見ようとはしないのだが――。
「ああ。民族の間に一人、恩人が出来れば同盟結べるから」
「……そう、なんだ」
そー、と白銀陽は短い返事を返す。
「まぁそうじゃない恩人の意味もあるけどなぁー。
実はねあの日、あそこにおいらの待ち人がいて、黒雪と取引してでもおいらを殺したがっていた――んだと思った。
おいらの待ち人は、プラネタリウムの元主人の親さ。昔は友好的だったんだよ。息子の友人だったから。だけど、プラネタリウムをおいらが捨てさせるわ、あいつ自滅するわで、ガンジラニーニアンチになってさ。だからおいらは、決着がつける日を待っていた。でもあんな形じゃない。そんな時――蓮歌がそこに来て、蓮歌の民族は金持ちで、あいつ商人でさ有名な……おいらを買い取ったんだ。民族で」
「――買い取り許可したの? 憎まれているのに。人の心は簡単なのか、そんなに」
そう陽炎が動揺を抑えながら首を傾げると、白銀陽はくすくすと笑って答える。
「うん、けっこー簡単に出来てるみたい。だって、蓮歌ってば車いすの元主人に金を持たせてさ。それで元主人に親父のとこまで金を渡しに行って、それからおいらのとこまで来て、――謝って。それから、親父さんに必死に説得してくれたんだ。親父さん、すっごい苦しそうな顔でごめん、って謝ってくれた」
陽炎は気づく、嬉しさに震える白銀陽の肩に。
顔を俯かせ、己は笑い顔だと見なくてもそう思えるように、声を明るくさせている白銀陽。
彼はいつもこのように、己だけは何があっても平気だと笑うのだろうか。
何かあっても、平気だと笑うのだろうか。
陽炎は、何と言って良いか判らず、黙り込んだ。彼に「本当は辛いんだろ」、そう心境を暴くことは何処か悪いことのような気がしてしまい――気が引けた。
「かげ君。おいら、ね、未熟だな。向き合わなければ解決しない問題もあったのに、おいらは怖くて逃げた。また、一族がおいらの血筋の所為で迫害されたら嫌だなって。――でも、向き合ったから、こうして誤解が解けて、自滅馬鹿のあいつとも普通に話せる。……背いちゃ、ダメなんだよね。逃げたくても逃げたくても、さ」
「……――白銀……否、柘榴。柘榴は、いつも前を向いていたと思う。ただ、向く方向がちょっとずれちゃっただけだと思うんだ」
「……そう?」
白銀陽はまだ顔を俯かせたまま、声だけ陽炎に向ける。
ただその声だけが己の胸中を判ってくれるような安堵感を感じつつも。
この存在だけは己を見放さないと知っているから――。
「だって、プラネタリウムを持っていた俺を普通は構いたくないと思うんだ。でもあんたは、その怖さを知ってるから、――被害者を出したくないって、構ってくれた」
「……かげ君、怖くてさ、中々聞けなかったんだけど、外は――どうだい?」
それは、きっとプラネタリウム以外の物のことを表しているのだろう。
陽炎ははにかみ、そうだなぁと呟き言葉を続ける。
「良いこともあったり悪いこともあったりするなぁ」
「――それで、いいんだよ。それが、日常だ」
白銀陽は漸く顔をあげて、苦笑を浮かべる。だがその返答には嬉しそうな様子は伝わる。
陽炎は昔だったら、良いことが続く毎日か、嫌なことが続く毎日か、それとも何も感じられない毎日、そのどれかを答えていただろう。
だけど、この数年で変わったわけではない。やはり、柘榴がこの国に来たと聞いて、こういう返事が出来るようになったのだろう。
そういう意味でも、柘榴は大きい。とても大きな影響を持つ。
親が居なかった陽炎。一族の親のように世話を勤めていた柘榴。
不思議なバランスで二人は保たれている、それを感じた陽炎は、だから安心するのだと判った。
だから、安心し、そして――恋にも似た思いを持つのだろう。
これは、母親に恋をするのと同じで、きっとあんまりにも柘榴が優しくて親しみやすくて、何より甘えやすいからなのだろう――。
きっと、彼に親友が居ると判ってショックなのも、母親がとられるのと同じ感覚なのだろう――。嫉妬とは違うのだ。
何処かでその娘と仲良くなりたいと願う自分が居るのだ。
「白銀陽ー、俺さぁ……母さんと会ったんだ」
「うん、この国の第二王妃だもんね」
「でも母さんっていう感じしなかった。なんか前にいた街の八百屋のおばちゃんのが、お袋って感じがしたなぁー。柘榴っていう人も」
「……かげくーん、その柘榴っていう人、男だよー」
陽炎は白銀陽のあからさまにむっとしたような声を聞いて、げらげらと笑った後、頼みがある、と言葉を紡ぐ。
真剣に重たい響きを持っていたので、白銀陽はきょとんとして、首を傾げる。
「俺さ、捨てる覚悟をしたんだ――」
陽炎がそう言うと白銀陽は、そう、と目を細めてその先の言葉を求める。
言葉の先に、何が待っているかを知ってるように、白銀陽はため息をつきながらも、苦笑を浮かべて、しょうがないなぁという顔をしている。
「俺、鴉座が……好き、なんだと思う。まだ、よくわかんねぇけど」
(お前が好きかもしれなかったし――でも、違うんだって判ったし。嗚呼、お前は普通に結婚するんだろうなぁ。祝福しなきゃな、その時は。だってお前は、この世界に血を残さなければならない民族だから――本当なら魚座を応援したいけど)
陽炎は秘める思いを、閉ざし、それでも脳裏に浮かび今はすぐに現れて欲しいと、慰めて甘い言葉で騙して欲しいと鴉座の姿を願う。
「でも……このまま仕組みに甘えたままの思い合いっていうのはちょっと、って思って。黒雪の狙い通りみてーだしさ――それで」
「それで?」
「白銀陽に持ってて欲しい」
その言葉を言うと、白銀陽は少しの間、黙り込んで。くつくつと笑ってから、陽炎の頭をべしべしと叩き可笑しそうに陽炎を見やる。
「あんた、意外と残酷だよなぁ」
「自分でもひっでぇエゴイズムだと思うよ。よりによって、黒玉嫌いのお前に」
「それでも、その仕組みのない思いが欲しいんだろ――? おいらはね、あんたの一番の味方でありたいんだ。だから、協力するよ。それとな、計画的な恋愛なんてないから安心しな。ただ、――そのう……わっしーにはばれないようにね。他の人にも」
「蟹座と射手座は知ってるよ。蟹座は納得したよ。ああー……さっき、鷲座には会ったけれど、ちょっと怖かった」
陽炎は先ほどの強い眼差しを思いだし、ぼんやりと言葉にする。
それを見て白銀陽は、口を真一文字に固めて頭をがしがしと掻きむしる。
「暴走がまだ少し止まってないみたいでさぁ……嗚呼、それなら余計に、黒雪の持つ教科書が欲しいな。あれは、黒玉の仕組みを説明してるんだ」
「――何にせよ、舞踏会の日が勝負、だな」
陽炎はそう言って立ち上がると、頼んだ、と手をひらひらと振って去っていく。
その背中を眩しげに白銀陽は見つめて、大嫌いだ、と優しげに誰にも聞こえぬ声で呟いた後、厨房へ戻り、コック長に叱られにいく。
そこで大泣きをして、皆から不審がられると同時に、コック長は「俺、そこまで酷いこと言ったっけ?」と困惑するのだった。
(割と大好きだったのに、馬鹿野郎!! そりゃ言えないけど、これでいいんだけどっ! これが望んだ形だったのに、何で泣くのさ、おいらの馬鹿ッ!
このために、かげ君に判らせる為だけに、蓮歌を呼んだのに――あの商談を引き受けたのに。何で、呼んだおいらが傷ついてるんだよ! 失恋させるという手順必要なく、鴉のにーさん選んだからか! 畜生ッ)
「大嫌い、大嫌い、大嫌いだったよ!! 一番憎かったよ!」
「白銀陽、俺、そこまで何かしたか……?」
「ああ、もうっ、うわあああん!」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─
藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。
そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!?
あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが…
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊
喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者
ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』
ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫
〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜
Rシーンは※をつけときます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる